【第81話】ナヴィの手ほどき
【第81話】ナヴィの手ほどき
翌日、人通りの少ない街の外れ――
俺は空き地で、ナヴィに手ほどきを受けていた。
「主殿、そっちの腕が遅れておるぞ!」
「ぐ、動かしたいのは別の腕なのに……うわっ!」
俺の目の前を、黒髪がふわりと舞う。
ナヴィが軽く跳ねるようにして“腕”を避け、盛大に空振りした俺は地面へ尻餅をつき、ナヴィは目の前に着地してニヤリと笑った。
「くははっ、どうしたどうした?そんなことでは我に触れることはできぬぞ?」
「それはどうか…なっ!」
俺が返事を返すと同時に、地面を突き破るように下から別の腕を伸ばす。
――が、それすらふわりと飛んだナヴィにかわされてしまった。
いま訓練をしているのは、多腕の指輪を通じて具現化した半透明の腕――見た目は薄い光をまとった魔力の塊だ。
思考の指輪で自身の処理速度をあげ、複数の腕を操る訓練をしているが、二本同時に動かそうとすると感覚がズレる。
動かそうとした瞬間、片方が止まったり、タイミングが噛み合わなかったり。
「うーん……二本は、なんとか動かせるけど、三本目は完全に制御不能だな」
立ち上がり服についた埃を払う。
「実戦では一本にしたほうが良さそうじゃな。――さて、次は耐久力じゃ。腹の辺りを殴るゆえ、しっかり防ぐんじゃぞ」
言った直後、ぐっと目の前で構えるナヴィ。
俺は咄嗟に魔力の腕を二本、交差させて腹の前に――
ドゴォン!
「ぐはっ!?」
腹に重い衝撃と共に魔力の腕が弾き飛ばされる。
視界がぐるりと回転し、俺は無様にゴロゴロと空き地を転がった。
全身に鈍い痛みが走り、息が抜ける。……と、とりあえずヒールを――。
「おお、今のを防いだか!見事じゃ主殿!」
「ごほっ、吹っ飛ばされただけだよ……」
ナヴィが差し出してくれた手を取り立ち上がった。
魔力の腕も問題なく動く。
「うむ、それなりに強く打ったつもりじゃが、腕は無事のようだのう。耐久は十分じゃな」
「それなりに……ちなみに、どれくらいの強さで殴ったの?」
「…………それなりに、じゃ」
「ナヴィさん???」
そんなやり取りを繰り返しながら、俺たちは夕方まで特訓を続けた。
結果として検証できたのは――
腕は一本なら自在に操れる。二本だと若干もたつき、三本は無理。四本目以上はそもそも出せなかった。
伸ばせる長さは三メートル前後で、攻撃力としては岩を砕く程度の威力がある。
また、ナヴィの“それなりの威力”にも耐えられることができる。
ナヴィの総評はとっさの盾としては十分に実用的。
使える腕の数が増えれば話は別のようだが、いまのところは戦闘力というより、いざという時の奇襲や防御に使える程度、とのこと。
「課題は主殿の反応速度かのう。盾があっても反応できねば意味はない」
「うーん、たしかに……」
「とは言ったが、魔王軍の一般兵と比べてもそこまで遜色はないぞ。思考の指輪の影響もあるじゃろうし、鍛えれば多少の戦闘はこなせるようになるやもしれんのう」
そう言って、ナヴィがにやりと笑う。
元・魔王軍幹部のお墨付きも貰えて、確かな手応えが残る訓練になった。
訓練を終えた俺たちは宿へ戻り、汗を流して夕食を済ませた。
夜風が涼しくなる頃、約束の時間より少し早めに宿を出る。
待ち合わせ場所に着くと、リックがすでに到着していた。
「お、来たか。ちょうどいいところだ」
リックの声に続いて、足音が響く。
現れたのは黒いジャケットを羽織ったリズベルと、その後ろには大柄な男、デズの姿もある。
「待たせたね。今夜の取引現場の特定ができた。場所は――倉庫街の外れにある古い倉庫だ」
緊張が、空気を一気に締める。
俺たちは顔を見合わせ、リズベルの指示に従って歩き出した。
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