【第5話】ヒーラー不足の異世界事情
【第5話】ヒーラー不足の異世界事情
ギルドでの倉庫整理にもだいぶ慣れてきた頃、
休憩がてら立ち寄った掲示板の前で、ふと気づいた。
ヒーラーの募集が、やけに多い。
パーティーメンバーの募集も、遺跡探索の短期契約も、内容はさまざまだが、“回復役”の空きが目立っている。
気になって、カウンターで顔馴染みとなった受付嬢に話を聞いてみた。
「ご存知かと思いますが、スキルというのは“生まれ持ったものだけ”でして。途中から新しく得ることはできないんです」
異世界人の俺にはご存じではない情報だったがとりあえず相槌を打った。
――つまり、生まれつきヒーラーの素質がある者しか、ヒーラーにはなれないってことか。
「冒険には常に危険がつきものですから、回復スキルを持つヒーラーはそれだけで貴重なんですよ」
続く彼女の話では、この辺りでもまだ魔族との争いが絶えないという。
一応“停戦中”とはされているものの、辺境ではいまだに小競り合いが絶えないらしい。
また、それだけではなく遺跡…ようはダンジョンのような場所でもヒーラーは重宝されるとのことだった。
そんな背景もあって、ヒーラーの需要は高まり続けている中、
多くのヒーラーは“回復しかできない”人が殆どらしい。
「ですので……戦闘では真っ先に狙われることも多くて……。無事に帰れない人も、決して少なくはないんです」
なるほど……張り紙を見たときは「俺にぴったりじゃないか」と思ったんだ。
スキルのレベル上げもできるし、報酬も見込める。
――でも。
俺のスキルは《ヒール》だけ。攻撃手段はゼロ。
ましてや自衛すら危うい、典型的な“後方支援タイプ”だ。
これはいくらヒーラー需要があるといっても、
戦闘に放り込まれたら、即アウトだろうな……。
「アキオさんは回復スキルをお持ちでしたよね?」
受付嬢がやわらかい笑みを浮かべて、助言をくれた。
「もし本格的な依頼に興味があるなら、パーティーに加わる前に――ご自身で“前衛”となる相方を探してみてはどうですか?」
……“前衛を自前で雇う”か。
たしかに、それなら身を守ってくれるヒーラー専属の護衛ができる。
戦場や危険な遺跡探索での死亡リスクもぐっと減るはずだ。
でも……問題は、そこに回せる予算がないってこと。
手持ちの所持金はまだまだ心許ないし、知り合いもいないので当然信頼関係もゼロ。
都合よく組んでくれる相手なんてのはそうそう現れない。
そんな時だった。
ふと、思い出したのは――
街の離れの自宅からギルドへと続く道すがら、
路地裏に掲げられた、古びた木の看板を。
《奴隷市場》
日本では馴染みのない制度だが、
この世界では合法であり、文化として根付いているらしい。
戦闘に特化した安い奴隷なんて……都合が良すぎる話だとは思う。
けど、もし、万が一、そんな奴隷がいたとするれば――
今の俺にとっては、今後の活動範囲を広げる上で十分に頼りになり得る存在になってくれるはずだ。
そうしてギルドを出た俺は、
いつもの帰り道から一つ外れた、細い路地へと足を踏み入れた。




