【第67話】夕暮れの湖畔キャンプ
【第67話】夕暮れの湖畔キャンプ
湖面は夕陽に照らされて揺らめき、涼しい風が吹き抜ける。
湖のほとりに着いた俺たちは、この場所で野営することに決めた。
宝物庫の指輪から各自の荷物を取り出し、テントを二組と食材や食器を用意する。
焚き火の準備や設営をしている間に、女性陣には少し離れた場所で水浴びをしてきてもらうことにした。
意外というかなんというか、ナヴィはノイラのことをそれなりに気に入っているようで、ノイラの方も当初ほどナヴィに怯えなくなっていた。
共に死線をくぐり抜けたことで自然と距離が縮まった……ということだろうか。
少し離れた場所ではあるが、水の冷たさに驚くノイラの小さな悲鳴とナヴィの笑い声が風に乗って聞こえてくる。
どうやら湖の水は思った以上に冷たいらしい……聞き耳を立てるのも良くないので、テントの設営に集中することにした。
焚き火に火をつけ、食材の準備を終えたところで二人が戻ってきた。
ノイラが調理を買って出てくれたので、お言葉に甘えて今度は俺が湖で水浴びをすることに。
――思った以上に湖の水は冷たかった。暖かい風呂が恋しいなぁ…。
冷たさを紛らわせるため、回収した遺物のことを思い返す。
今はノイラの目もないので、改めて装備してステータスウインドウで詳細を確認した。
【装備】
多腕の指輪
・伸縮可能な腕を作り出す
思考の指輪
・気絶耐性
・思考能力向上Lv1
最後に手に入れた指輪は思考の指輪という名前らしい。
思考能力向上の効果にはレベル表記があり、詳細を確認できそうだった。
名前をタッチすると詳細な説明が表示される。
<思考能力向上>
使用者の思考力、感覚、把握能力を向上させる。使用を繰り返す事でLvが上がる。最大Lvは5。
「……使用を繰り返す?」
レベルを上げたい場合はこの指輪を付けて過ごせばいいのだろうか。
正直、説明を見てもあまりピンときていないけど……まあ、この遺物たちをどうするかは二人と話し合ってみるとしよう。
みんなで温かい食事を済ませ、ようやく一息つくことができた。
一息ついたところで、早速報酬について切り出すことにした。
「えーっと。今回手に入れた遺物は指輪が二つ、小瓶が一つだけど……お互いに欲しいものがなければ、ギルドに下取りを依頼して、買取金額を三人で均等に分配するのがいいと思うけど、どうかな?」
「うむ、小娘もそれなりに役に立ったからのう。異論はないぞ」
「買い取りしてもらえなかった場合は…まあ、ちょうど三つあるし欲しい人が…って、ノイラ?」
俺たちの言葉に目を丸くしキョトンとしているノイラに声をかける。
「え、ええと…わ、わたしも……ですか?」
「……? 三人で手に入れたものだし、当然そのつもりだけど」
「で、ですが……わたしは、その……遺跡では雑用というか……荷物持ちみたいなことしか……」
「いや――」
思わず口を開きかけた俺に、ノイラが慌てて言葉を重ねる。
「あっ、あっ、もちろんギルドに提出した情報料も、後ほどお渡ししますので……!」
ノイラの様子に違和感を覚え、思わずナヴィを横目で見る。
赤紫の瞳がこちらを見返してきた。……ナヴィも察しているらしい。
「……まあ、その辺は一旦置いとこうか」
俺は苦笑しつつ、一度話題を変えることにした。
「ノイラ。俺たちがここへ来た理由――クレイさんからの個人的な依頼で君を探してきた、って話はしたよね」
ノイラが小さく頷く。
「クレイさんの話…正確には、ノイラのいたパーティからの報告は、“パーティを逃がすためにノイラが殿を務めた”ってことだった。けど、君から聞いたのは“パーティからはぐれた”って内容だった」
その言葉に、ノイラははっと息を呑み、瞳が大きく見開かれる。
焚き火の炎がノイラの横顔を照らし、影が揺れる。
「……その食い違いについて、少し話を聞いても良いかな」
暗い森の中で、静かな焚き火の音がやけに大きく聞こえた。




