【第4話】スキルはチートだけど、今は靴擦れにしか使えない件
【第4話】スキルはチートだけど、今は靴擦れにしか使えない件
それからいろいろあった。
ギルドへ向かい、無事に冒険者登録を済ませた……のはいいが、登録には費用が必要だった。
当然、異世界通貨なんて持っているはずもなく。
やんわりと財布事情を説明したところ、ギルド側が「前借り」という形で肩代わりしてくれた。最初の依頼報酬から差し引かれるらしい。助かった。異世界人みんな優しい。
さらに、憲兵のアドバイス通り住む場所についても相談したところ――
「街の離れにある、ちょっと古いけど格安の小屋なら……」ということで、こちらも“前借り契約”で貸してもらえることに。
異世界人ほんと優しい…。
そんなわけで今、俺はその“ちょっと古い”を超えて“だいぶボロい”小屋にいる。
ドアはきしむし、窓のガラスは一部ヒビが入ってる。というかガラスのない窓もあるね。
だけど、一応ベッドもあるし、屋根もある。水場もある。
突然異世界にほっぽり出された状況と比べれば全然マシだ。
ベッドに腰を下ろし、ずっと気になっていたステータスウインドウを開いてみる事にした。
ステータス……と、声に出すまでもなく、
“見たい”と意識するだけで青白い画面が目の前にふわりと現れる。
これ、地味に便利だな。ハンズフリーってやつか。
スキル欄には見覚えのある名前が表示されている。
《ヒール(EX )Lv.1》
《言語理解(EX)Lv.1》
《危機察知 Lv.2》
そのうちの《ヒール》の方に指を伸ばしてみる。
すると、ウインドウが切り替わり、スキルの詳細説明が表示された。
⸻
<ヒール(EX)Lv.1>
対象の生命体に作用する治癒魔法。
【回復性能:EX】
死者を除き、あらゆる外傷・病・毒・呪いを回復可能
【即効性:Lv.1】
回復にかかる時間はレベルにより短縮され、使用に応じてLvが上昇。効果範囲もLvに応じて拡大される。
「……え、これすごくない?」
Lv.1の表記が気になっていたが、EXってやっぱり“エクストラ”って意味か。
傷も病も全部治せるって……病院でも開けば食うのには困らないんじゃないか?(呪いって怖い単語もあるけど)
……まぁ、理屈はわかった。
でも使えなきゃ意味がない。ここは実践だ。
思い出したように靴を脱ぎ、歩きすぎで痛んだ足を出す。
スーツに革靴の異世界冒険者という謎スタイルのせいで、俺のかかとは靴擦れで真っ赤になっていた。
(それじゃあ、試しに……)
手をかざすと、淡い緑色の光がスッと生まれ、足元に流れ込む。
おお、意外と簡単だ。“使いたい”と念じるだけで起動するらしい。
ただ、すぐ治るかと思いきや――なかなか痛みは引かない。というか患部に触れないと光るだけだコレ。
痛む幹部を手のひらで押さえながら、じわじわ、じわじわと……まるでぬるま湯に浸かるように、時間をかけて治っていく。
30分後。
「あ、やっと痛くなくなった……」
靴擦れ一つに30分。
どうやら“効果そのものは最強クラス”でも、現段階では“遅すぎる”らしい。
しかも、ヒールの効果範囲も狭くて、触れてない場所には全然効かない。
「お、遅すぎる…今のままじゃゲームの薬草の方が役に立ちそうだな」
それでも、ちゃんと治ることがわかったのは大きな収穫だ。
……その後、俺はギルドから紹介された簡単な依頼をこなしながら日銭を稼ぐ日々に入った。
依頼内容のほとんどは倉庫整理や荷物運びなど、力仕事が中心だったが、手荒れや腰痛は薬草ヒールでなんとかなった。いつの間にかレベルも2になっていた。
街の中を歩き回るうちに、少しずつ“この世界の空気”にも慣れてきた気がする。