【第50話】カルナの町:地下旧水路の調査依頼③
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【第50話】カルナの町:地下旧水路の調査依頼③
天井からぬるりと滑り落ち――まるで跳びかかるような勢いで、スライムがナヴィに襲いかかった。
「ナヴィッ!」
思わず声を上げた俺の目の前で、黒紫色の粘体がナヴィを包み込む。ぬらぬらと動くその表面からは、毒素のせいか湯気のような毒気が立ち昇り、あたりには微かな焦げ臭さすら漂っていた。
先ほどのナヴィの説明が頭をよぎる。
『今回のスライムは毒素系じゃからのう。取りつかれた顔もただでは済まん』
まずい。すぐにヒールを――いや、届くのか?!
直接触れずともスキルは発動できるが、目の前に“人を丸ごと呑み込めるサイズの魔物”がある状態で、正確に中のナヴィを狙えるかは別問題だった。
だが、迷っている暇はない…!
宝物庫の指輪から遺物の首飾りを引き出し、すぐさま装着する。
(とにかくこいつの注意を引いて、ナヴィを離脱させるんだ……!)
敵視上昇の効果でこちらに興味を引くことができれば、ナヴィから引き剥がせるかもしれない。
首飾りの効果を確かめるためスライムの様子に目を凝らすと――ふと、飲み込まれたナヴィのシルエットがどこか落ち着いている事に気づく。
(……動いてる?)
粘体の内部で、ナヴィがごく自然に頭を巡らせ、視線で何かを探している。そして次の瞬間、彼女の片腕が素早く動き何かをぐっと掴んだ。
直後――
バチィッ!!
スライムの全身が電撃に打たれたように跳ね上がり、ぶるぶると震え出す。
「っ――!?」
パンッ――という音と共に、スライムの巨体が内側から膨れ上がり、爆ぜたように四散した。
粘体の巨体が内側から弾け飛び、黒紫の液体が四方に飛び散る。
が、ただの水飛沫ではない――毒気を帯びた、腐蝕性の粘液だ…!
「うわっ……!」
反射的に腕を顔の前に出して防御する。液体が当たった布や壁からは、じゅう……と嫌な音を立てて煙が上がった。
(……でも、肌は……大丈夫か?)
幸い、防御強化の首飾りが機能していたようで、毒液に直接触れた俺の肌には傷一つなかった。…臭いは防げていないようだが。
そして――
「ふぅ……無事そうじゃな、主殿」
何事もなかったかのように、ナヴィが粘体の残骸を踏みしめて現れた。
「ナヴィ!大丈夫か!? 毒は――」
「騒ぎすぎじゃ主殿。あの程度の毒なんぞ妾には……いや、少しだけ体が熱っぽいかもしれんのう」
「外傷は無いようだけどやっぱり毒の影響が…すぐヒールをかけるよ」
「うむ。では頼むとしよう」
そう言って、ナヴィが魔力で作られていた服をさらりと解き、柔らかな素肌を露わにする。
「妾の体に異常がないか、主殿の目でしっかりと確認してくれ」
「み、見え……!流石にそれは……っ!」
咄嗟に顔を逸らした俺の手をナヴィが引き寄せ、そのまま……むにゅりと、何か柔らかい感触が、手のひらに!
「な、なにを……っ!」
「くははっ、さすがの主殿も意識しておるようじゃのう。ほれ、遠慮せず揉んでよいぞ?」
「ちょっ、流石にそれはまずいというか!心の準備が…!」
俺が慌てて顔を真っ赤にするのを、ナヴィはニヤニヤ楽しげに見ながら――
「ほれ、ソレが先ほどのスライムの“核”じゃ。これで依頼は完了じゃな」
言われて目を向けると…俺の手の中には、紫色に濁った半透明の柔らかな球体――スライムの核が乗っていた。
「あー…もしかして、ナヴィが飲み込まれたのってコレを取り出すため?」
ふにふにと核を握りながら問いかける。
悪戯が成功した彼女はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「うむ。スライムは外皮がちと面倒じゃからの」
(……なんというか、いろいろあったけど)
「とりあえず、お疲れさま」
「うむ。しかし…妾の髪もベタベタじゃ…早く湯で流したいのう。帰ったら主殿も一緒に入るか?」
「お先にどうぞ」
俺の返答をよそに、彼女は破裂したスライムの残骸を踏みつつ、上機嫌に進んでいくのだった。
(俺も……もうちょっと、免疫つけないとだな)
なんて反省をしながら、その後をついて行くのだった。




