【第3話】割と親切な異世界人。でも世界観は物騒だった件
【第3話】割と親切な異世界人。でも世界観は物騒だった件
「――待て、お前」
唐突に声をかけられた瞬間、全身がピクリと強張った。
憲兵が、ジロジロと俺を見ている。
すぐ後ろには次の人たちが控えていて、何事かと視線が集まり始めていた。
(……え、これ……俺だけ止められてる?)
「……この辺りじゃ見ない服装だな。遠くから来たのか?」
一瞬、何のことか分からなかったが、すぐに気づく。
この世界の中で、スーツ姿は完全に異物だ。
よく見れば、周囲の人々はチュニックやマントなど、いかにも“中世ファンタジー”な格好をしている。
「あっ……ええ、まあ。遠方から出てきたばかりでして。まだこの辺りのことはよく分からなくて」
不自然にならないよう、できるだけ丁寧に答える。
俺の返答を聞いた憲兵は、ふむ……と小さく頷いた。
「そうか。なら少し説明しておこう。……列の邪魔になってしまう、こちらへ来なさい」
俺は促されるまま、列を離れて壁際へ移動する。
物々しい装備を見て“怖そう”という先入観があったけど、想像していたよりもずっと親切だ。
「ここ数年、この辺りでも魔族との争いが増えていてな。つい先日も襲撃があったところだ」
「ま、魔族ですか……」
「そうだ。魔族との戦争は表向きは停戦状態になっているが、治安はまだ不安定だ。だから、旅人や流民には一応の確認を行なっている。……お前のように、軽装で街に来る者は特に珍しいからな」
視線を、俺の鞄へと向けた。
俺がこの世界に来た時のまま、スマホやスケジュール帳が入った手持ちの通勤カバン一つ。
異世界的には、確かに怪しさ満点だった。
「あ、あはは……なるほど、それで声をかけられたわけですか」
「安心しろ。身元不明の旅人だからと拘束するつもりはない。もしこの街に滞在するつもりなら、ギルドで登録するといい」
「ギルド……ですか?」
「うむ。冒険者ギルドと言えば分かるか? 戦士や魔術師のためだけでなく、簡単な雑務や依頼も扱っていてな。登録しておけば、多少報酬も得ることもできるし、宿の紹介もしてもらえるはずだ」
おお、まさに異世界の王道機関!
しかしこうして親切に教えてくれるとは、まるでチュートリアルだ。
「ありがとうございます。助かります」
「礼を言われるほどのことではない。お前のような旅人が変に彷徨って騒ぎになる方が、我々としても困るからな」
冗談めかして笑った憲兵は、俺の肩を軽く叩いて言った。
「説明は以上だ。街に入って良いぞ。ようこそ、アルメヴィアの街へ」
門を抜けた先に広がるのは、石畳の大通りと、活気のある市場の声。
(魔族のいる異世界か…。随分物騒なところに来てしまったなぁ…)
深く息を吸って、ゆっくりと一歩を踏み出す。
こうして俺は、はじめての異世界都市に足を踏み入れた。