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主殿、我だけを見よ~異世界で助けた奴隷少女は元・魔王軍幹部!?独占欲と戦闘力が規格外な娘と遺跡探索スローライフ~  作者: 猫村りんご


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【第42話】ナヴィ

いつも小説を読んで頂きありがとうございます。

ストックの兼ね合いで、今後は更新頻度が一時的に落ちます。大変申し訳ございません。


今後は【火曜、木曜、土曜】の21時に更新予定となります。

またストック数が安定してきた場合は毎日更新に戻す予定です。


今後もよろしくお願いします。

【第42話】ナヴィ


宿の一室。

夜の帳が静かに下りたその空間で、俺たちは向かい合って座っていた。


こんなふうに正面からナヴィと向き合って、話をする――それだけなのに、やけに胸の内がざわつく。

目の前に座るナヴィもまた、どこか落ち着かない様子で黙り込んでいた。


バスタオルから着替え、俺のシャツを借りた彼女は、長い脚を組んで椅子に腰掛けている。

――けど、その格好がまた目のやり場に困るというか、なんというか……。


(いかんいかん……真面目な話なんだ、視線を泳がせるな、俺)


必死に自制しようとする俺の様子に気づいたのか、ナヴィは口元を緩めて、いたずらっぽく笑った。


「……ふふっ。そう緊張せずともよいぞ。妾も、どこから話すべきか迷っておるのじゃ」


そう言うと、ナヴィは軽く息を吐いてから、表情を引き締める。


「まずは名乗っておこうかの。妾の本来の名は…ナーヴェリア。ナーヴェリア=ミラ=グランティスという」


その名は、どこか格式のある響きを持っていた。

俺が驚いた顔をすると、ナヴィは小さく俯く。


「名を隠していたこと、まずは詫びねばなるまい。……最初は、素性も知れぬ相手に名を告げる事の危うさを考えてのう。すまなかった、主殿」


そう呟く彼女の声音は、どこか自嘲気味で、そして――少しだけ寂しげだった。


「妾は……人間より、ずっと長く生きておる。年齢を数える意味もあまりないほどにな」


「年上だったんだね」


「うむ。魔族というのは、そもそも長命の種族でのう。主殿よりはずっと歳は重ねておるぞ?」


ナヴィは少しだけ微笑みながら言ったあと、静かに語り始めた。



かつての大戦――魔王軍と人間軍との争い。

土地、資源、遺跡を奪い合うための、何十年と続いた長い戦争。

しかし、続けば続くほど互いが疲弊する争いに双方も疲れを見せ、いつしか争いは収束していく。

その争いも表向きには停戦という形に収まるが…停戦してなお、火種は各地に燻っていた。


静かに語られる言葉のひとつひとつが、まるで重い鎖のように胸に響く。



「妾はその時代、魔王軍の――幹部のひとりなのじゃ」


言葉を選ぶように、ナヴィはゆっくりと語る。

その声音はかすかに揺れていて、自分でも口にするのがためらわれるような、そんな迷いが滲んでいた。


ナヴィの言葉に、俺はただ黙って頷くしかなかった。


幹部――そのひと言の重みに、心がざわつく。


けれど、それ以上に…今こうして俺の目の前に座る彼女の姿と、その肩に背負ってきた過去との違いに、どう言葉を返せばいいのか分からなかった。


「表向きは停戦となっておるが、裏ではいまだ火種が残っておる。そんな中で……妾は、同族に裏切られた」


ナヴィの瞳が一瞬、鋭く細められる。


「妾を疎ましく思う幹部がおっての。…まあ、原因は妾にもあるのじゃがな。…奴らは人間軍の一部と通じ、妾を始末しようと謀をはかったのじゃ。魔族側は妾の首を目的としていたようじゃが…人間側は妾を手籠にでもしたかったようじゃな」


「……」


「奴らの動きに気づいた時には、すでに周囲は敵に囲まれておった。共に戦場を駆けた部下にすら剣を向けられ……妾を取り囲む連中は、笑っておった。妾を討ち取るその瞬間を、まるで心待ちにしとったかのように、のう」


ナヴィの口調は淡々としている。

だがその奥に、どれほどの悔しさと哀しみが込められているのだろうか…。


「傷を負いながらも数日は戦い続けたのじゃが……人間側の遺物がちと特殊でのう。そのまま捕らえられ…魔族を出し抜いた人間どもに、妾は“献上品”として人間領へ運び込まれたのじゃ」


「……」


「じゃが、魔族側は妾を殺す気でおったゆえ、戦闘時の傷には呪術が施されておってな。その影響で、妾の肉体は蝕まれ、魔力も、姿も……まあ、結果的に主殿が拾ってくれた時のような状態になったのじゃ」


そこまで語ると、ナーヴェリアはすっと目を伏せた。


俺の脳裏には、あの日――あの市場で、崩れ落ちていた少女の姿がよぎった。


「……話してくれて、ありがとう」


静かにそう告げると、ナヴィ――ナーヴェリアは俺の目をじっと見つめ、真剣な声で口を開いた。


「主殿。この事を聞いて、どう思うかは主殿次第じゃ。妾が何者かを知った上で……それでも、主殿の隣におってよいか。契約を続けるかどうかも含めて……すべて、主殿の判断に委ねよう」


そう言った彼女の声には、どこか諦めと、不安と、かすかな期待が混じっていた。


俺は、ただ――その瞳から目を逸らすことができなかった。


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