【第31話】朝チュン、部長、真の姿
【第31話】朝チュン、部長、真の姿
チュン、チュン……と、どこか遠くで鳥のさえずりが聞こえる。
まだうっすらと暗いテントの中、俺はゆっくりと意識を浮上させる。
(……朝か……)
寝袋の中はぬくぬくと温かく、身体もすっぽりと包まれていて、思わず二度寝したくなるような心地よさだった。
――だが。
(……あれ、なんか……重…というか柔らかい?)
ぼんやりとした頭で状況を確認する。俺の上に、何かが乗っている。
しかも柔らかくて、明らかに人の重み。
さらには、何かが脚の間に……。
(……そういえば……)
目を向けると、そこにはナヴィがいた。
寝た時は隣だったはずだけどいつの間に…。
すっかり寝ぼけた表情で、俺の胸に頭を乗せてぴったり密着。
片足は俺の股間の上にかかり、両腕でがっしりと俺の体を抱きしめている。
「……お、おはようございます、ナヴィさん……?」
「……んぅ……主殿……ぬくいのう……」
黒に近い紫色の髪がさらりと顔にかかり、その無防備すぎる寝顔に、俺の脳内は軽くパニックを起こしていた。
そして気づく。
(……やばい、これ……この状況は、色々……まずい……!)
いや、シチュエーションもまずいが、今は主に身体的に。朝特有のアレ的に。
慌てて体をずらそうとしたその瞬間――
「……動くでない……妾の……枕じゃ……」
うっすらとナヴィが呟く。
寝言なのか、意識があるのか分からない。
(……ちょ、ちょっと待って!?本当に動けないぞ!?)
なぜこんな時に限って理性の試練が来るんだ……!
「……こ、こうなったら……!」
咄嗟に思い浮かべたのは、サラリーマン時代のトラウマ――ムキムキマッチョな変態部長の顔だった。
『勅使河原く~ん。相変わらず良いお尻をしているねぇ~。』
(……すんっ)
一瞬で心が無に帰った。
よし、朝特有の問題はなんとかなった……バレてないはず。
――――――――――――――
朝食と荷物の整理を終えた後、俺たちは再び歩き始めた。
しばらくして森を抜けるところまできた。
ここまでくれば町までもう直ぐだ。
「――主殿、少し待ってくれぬか?」
「ナヴィ?」
ナヴィが立ち止まる。
いつもの調子とは違う、どこか真剣な雰囲気だった。
「…我のこの姿が本来のものではないこと、以前に話したであろう?」
「ああ、たしか魔力不足とかだったよね……?」
ナヴィは静かに頷いた。
「町に入る前にの……主殿には、一度見ておいてもらいたいのじゃ。我の、本来の姿を」
「えっ、ってことは――もう戻れるのか?」
「うむ…」
そう言うとナヴィはそっと目を伏せ、俺の方へ手を差し出した。
「主殿、少しだけ……目を瞑ってくれぬか?」
「……わかった」
差し出された手を取り目を閉じる。
数秒の静寂が流れた。
風の音、草の揺れる音、そしてどこか微かに魔力の気配のようなものが肌に触れた。
「……よいぞ。目を開けよ、主殿」
目を開いた俺の前に立っていたのは――
長い黒髪が腰まで流れ、紅紫の瞳が静かにこちらを見据えている。
先ほどまでの幼さを一切感じさせない、スラリとした肢体。
凛とした美貌と圧倒的な存在感を放つ、まるで異世界の姫君のような――
絶世の美女がそこにいた。




