【第14話】目覚めた少女とぎこちない会話
【第14話】目覚めた少女とぎこちない会話
「……い……おい……」
かすかな声に、意識が引き戻される。
ああ、どうやら俺は、寝落ちしてしまっていたらしい。
重たい瞼を上げると――
そこには、ベッドに寝たままの少女が、じっと俺を見ていた。
それ以上に驚いたのは、彼女がはっきりと言葉を発したことだった。
「はぁ……やっと起きたか。我の前で無防備に眠りおって……」
(……我?)
子供らしからぬ威厳をまとった口ぶり。
けれど、その細い体から伝わるのは、強がりと、警戒心だった。
「おぬし……何者じゃ」
鋭い視線に思わず背筋が伸びる。
「え、あ、えっと、勅使河原といいます」
反射的に敬語になってしまった…。
妙に迫力ある口調に、つい社会人のクセが出た。
すると少女は、こちらの名を繰り返すように口を動かす。
「てぃ…?…てぃー……てぃしがあるぁ……?」
え、急にかわいい。
舌っ足らずな言い回しが不覚にも刺さった。
どうやら俺の苗字はこの世界じゃ発音が難しいらしい。
そういえばギルドでも受付のお姉さんがちょっと困ってたのを思い出す。
「呼びづらいなら、“アキオ”でいいですよ」
「ごほん……まあよいわ。アキオ、じゃな」
頷くと、少女は表情を引き締め、さらに問いかけてきた。
「…一体、何が目的で我にこのような施しを行っておる」
目的?
「いや……目的って言われてもな……」
唐突な言葉に思わず敬語も抜け落ちる。
「危ない状態だったから、助けただけで……」
それだけだ。
金銭でも、名声でも、打算でもない。
俺には“ヒール”があって、助けることができそうな子が目の前にいたんだ。
そんなの、助けるしかないだろ
少女はなおも訝しげに俺を見つめる。
(……まあ、そう簡単に信用はできないよな)
あの状況から察するに、どんな酷い仕打ちを受けてきたか、想像に難くない。
それに、異種族。警戒するのも当然だろう。
だからこそ、できる限り、脅かさないような、彼女が納得する答えを捻りだそうとしていたその時だった。
ぐぅぅうううう……。
少女のお腹が盛大に鳴った。
(……おお)
本人も驚いたのか、大きく目を見開いている。
さっきまでピリついていた空気が、少しだけ和らいだ気がした。
「……食欲があるなら、スープでも作ろうか。嫌いな食べ物とかあるかな?」
返事はないが、ちらりとこちらを伺うような視線を送ってきた。
(食べたい、ってことでいいよな…?)
弱った体でも食べられるもの――となれば、野菜のスープでも用意しようか。
俺は立ち上がり、キッチンへ向かうべくそっと部屋を出る。
振り返れば、ベッドの上でこちらをじっと見送る少女の姿。
(……困惑してるよな、やっぱり)
当然だ。あの怪我を差し引いても、
目が覚めたら知らないおっさんが隣にいたんじゃ、誰だってビビる。
そんなの俺だって怖い。
どうしたもんかなぁ――
そんなことをぼんやり考えながら、
俺は静かに、キッチンへ向かった。




