【第106話】連絡
【第106話】連絡
診療所の一日が終わり、戸締まりを終えたあと。
俺は机の上に置いていた魔道具を、しばらく眺めていた。
リズベルから貰った通信魔道具。
特定の魔道具同士で繋がるらしく、ちょっとした電話みたいなものだ。
しかし困ったことに起動の仕方が全くわからない。
スマホみたいにパッと見て分かるアイコンやボタンでもあれば……よく考えたら、こっちの世界の人がスマホ見たらどんな反応するんだろう。
今度ナヴィに見せてみようかな。
そんなことを考えてると、たまたま指が何かに触れたのか魔道具が淡く光が灯り、呼び出し音のような鈴の音が聞こえる。
球体のようなフォルムの裏側にスイッチのようなものがあったのかも。
すると魔道具から、少し気怠げな女性の声が聞こえる。
『よ。久しぶりだな、アキオ』
「久しぶり、リズベル。急に連絡してごめんね」
『別にいい。……で?何の用だ』
即、用件を求めてくるあたりが彼女らしい。
「実は頼みたいことがあってさ。たしか、リズベルは表ギルドとも関わりがあったよね?」
『ん?まあな。それがどうかした?』
「カルナの町のギルド長に連絡を取りたいんだ。直接会うには距離があるから、リズベルからギルド経由で連絡できないかと思って」
少しの沈黙が流れる。
『……それだけか?』
「うん。今のところは」
『……はぁ〜』
はっきりとした、ため息。
「え、なに?なんかまずかった?」
『いや〜、別に。何でもないよ……はぁ。いいよ、それくらいなら』
少し間があってから、彼女は続ける。
『んで、どんな内容だ?一応話は聞かせろ』
「ありがとう。実は今、俺たちは大樹の村ってところにいるんだけど――」
そこから、簡単に事情を説明した。
診療所を開いたことから最近増えている魔力酔いの話。
村に残されていた古い記録。
遺跡の存在と、カルナの町にいるだろう遺跡の専門家の力を借りたいということ。
『……ふーん』
話を聞き終えたリズベルは、少し考えるように黙り込んだ。
「あー……もちろん、無理なら断ってくれても――」
『いいよ。話は通しておく』
「よかった…助かるよ。本当にありがとう」
『別に。アタシにとっても都合がいいからな』
「……?」
一瞬、引っかかる言い方だったが、深く突っ込む前に彼女は言葉を続ける。
『連絡の目処が立ったら、またこっちから呼ぶ。それまで待ってな』
「うん、わかった」
『ん、じゃあね』
通信が切れる直前、
ほんの一瞬だけ――声の調子が柔らいだ、ような気がした。
魔道具の光が消え、診療所に静寂が戻る。
とりあえず、話が前に進んだことに安堵した。
――そして、翌日。
昼過ぎ、書類を整理していると、
机の上の魔道具がチリン、と小さく音を鳴らした。
「お、来たな」
昨日と同じように魔道具の裏側いじると通話が開始される。
「リズベル?」
『……やれやれ、開口一番に別の女の名前とは随分なご挨拶だね』
聞こえてきたのは、落ち着いた女性の声だった。
「えっ……ク、クレイさん!?」
『ふふ、驚くのも無理はないか。彼女の魔道具を中継に使っているだけだよ』
カルナの町、表ギルドの管理者クレイ。
俺が昨日、リズベルに取り次いでもらうように伝えた人だ。
『しかし、まさか君が裏ギルド……それもグレイモア・ファミリーのお嬢さんと知り合いだったとはね』
「あー……色々ありまして……」
『詮索はしないさ。それで? 遺跡についての話だったね』
話が早くて助かる。
「はい。実は――」
そうして、俺は改めて大樹の村の状況と遺跡の件を説明し始めた。




