【第105話】とある裏ギルドの一幕
【第105話】とある裏ギルドの一幕
裏ギルドと魔族に関する一連の騒動も、ようやく落ち着きを見せていた。
あんなことがあった父ガルドだが、容態は依然問題なく、なんなら昔より活力がありパワフルかもしれない。
そして、意外にも今回の件でグレイモア・ファミリーに重い処罰が下されることはなく、命じられたのは形式的な表ギルドによる監督と、いくつかの制限だけだった。
「……実際、拍子抜けだよなぁ」
マルシャの一角。
裏ギルドの拠点として使っている建物の一室、リズベルは風呂上がりに果物を摘みながら、ソファーにゴロリと寝転がりながらひとり小さく呟いた。
制限の中には治安回復のためという名目で自身が管轄していた賭場の自粛などが含まれており、手持ち無沙汰な日々が続いていた。
国からのお咎めが軽かった理由は、大体想像がつく。表ギルドが裏で動いたのだろう。
あちらとしても、アタシらのよう使い勝手の良い組織を失いたくなかったわけだ。
しかし今回の件で、裏ギルド――グレイモア・ファミリーは、表ギルドに対し明確に“下”の立場となってしまった。
対等だからこそ成立する依頼交渉などの影響は勿論、メンツで生きているアタシらに取っては“格下”というレッテル自体、面白くない話だ。
しかし、裏ギルドのボスである父は、その現実を受け入れていた。
組織を守るためには、これが最善だと理解しているからだ。
もちろん分かっている。
分かっているからこそ――この状況に腹が立つ。
「……ちっ」
拳を握りしめ、リズベルは舌打ちをする。
このまま、表ギルドの顔色を伺いながら動くという日々。
理屈では正しいのかもしれない。けれど、納得はしたくない。
――せめて、あいつらの鼻を明かすような何かがあれば。
そんなことを考えていた、その時だった。
チリン、チリン、と。
机の上に置かれた小さな魔道具が、淡く光って音を鳴らす。
「……!」
リズベルは机に視線を落とし、すぐにそれが何かを理解した。
特定の魔道具同士でしか繋がらない、通信用魔道具。
その片割れを渡した相手は、一人しかいない。
「……」
脳裏に浮かぶ男の顔。
お気楽そうな面、世間知らずのお人よし。
そのくせ意外と引き締まった身体で…
「って!な、何考えてんだアタシは!」
慌てて首を振り、浮かんだ余計な光景を頭の奥へ押し戻した。
手でやや熱った顔を仰ぎつつ、ごほんと咳払いをひとつして魔道具を起動する。
すると魔道具を通して男の声が聞こえた。
「よ。久しぶりだな、アキオ」
先ほどまでの不満はどこへやら自然と口元が緩んでいた。
さて、こいつは一体どんな話を持ってきたのだろうか。




