【第98話】村の診療所
【第98話】村の診療所
我が家に、ついにベッドが届いた!
キングサイズ!
ふかふかのシーツ!沈み込むような枕!
防火・防刃!更に清潔感を保つクリーン魔術まで付与済み!
気になるお値段は――金貨一枚!!
この前の依頼で得た報酬のほとんどが消し飛んでしまった……。
「くははっ!広いのう!実に良い寝台じゃ!」
運び込まれたばかりのベッドの上で、ナヴィはごろごろと転がりながらご満悦だ。
代金を受け取った家具職人のお姉さんは、終始ほくほく顔で帰っていった。
そして我が家の財布は、軽くなった。
「まあ、ナヴィが喜んでるならいいか」
とは言いつつも、財布が軽くなってしまったのは事実なわけで。
生活を安定させるためにも、何か仕事が必要だ。
その日の夜。
俺たちは並んでベッドに横になっていた。
旅の途中に泊まってきた宿とは比べものにならない、それこそいつかの高級宿のような心地よさだ。
広さも十分で、大人二人でも余裕がある。
……はずなのだが。
「んー、ぬくいのう」
そう言って、ナヴィはぴったりとこちらに身体を寄せてくる。
結局、寝室の入り口を拡張してまで用意した広さの恩恵を感じることはあまりないかもしれないなぁ。
翌朝。
朝食を済ませた俺たちは、村長ハルラスの家を訪ねた。
「おお、ちょうど良かった。お二人に渡したいものがありましてな」
そう言って招き入れられた部屋で、ハルラスは机の引き出しから小さな木彫りのお守りを二つ取り出した。
「これは御神木の枝から作ったものです。これを持っていれば、お一人で村の外に出ても魔素の影響を受けずに村へ戻ってこられます」
差し出されたお守りを受け取る。
質素に見える木彫りのお守りだが、丁寧に作られた質感に不思議と暖かみを感じる。
「ありがとうございます」
「いえいえ。ところで……本日はどのようなご用件で?」
「実は、数日村を見て回っていて、気になったことがありまして」
ここ数日、村を歩いていて気づいたことだ。
食事処や家具屋、雑貨屋などのお店はいくつか見られるのだが、村であればあっても良いはずの施設が見当たらない。
俺は率直に切り出した。
「この村には、診療所のような施設が見当たらないのですが……医者にかかるような場面では、どうされているのですか?」
ハルラスは少し困ったように笑い、短く息を吐いた。
「恥ずかしながら、村には医学に通じる人物がいなくてですね……。何かあればマルシャまで病人を連れて行くか、あちらから医師の方やヒーラーの方へ来ていただいています」
その言葉の端々から、この状況が長く続いてきたもの……悩みの種だと伝わってくる。
その様子を見て、俺は少しだけ間を置いてから口を開いた。
「……もしよければなんですが。俺は回復スキルを少し使えます。簡単な診療所みたいな形で、村のお役に立てないかと」
「なんと……!それはありがたい申し出です。つかぬことをお伺いしますが、アキオさんの回復スキルのランクはどのくらいなのですかな?」
ランク…?
あ、そういえば前に見たギルドのパーティー募集にそんなものが書いていたっけ。きちんと測ったことはなかった。
俺が言葉に詰まっていると、横からナヴィが口を挟む。
「主殿の回復はBランクじゃ」
「Bですか、それは頼もしい。この話、ぜひお願いさせていただきたい」
その後、話はとんとん拍子に進み、場所は今の家をそのまま利用して、必要な器材や備品は村長が手配してくれることになった。
家へ戻る途中、気になった事をナヴィに尋ねてみた。
「ナヴィ、回復スキルのランクがBって答えてたけど、これってどの程度なの?」
「多少の傷ならその場で治せる。時間をかければ大怪我や病、呪いにもそれなりに対処できる、程度かのう」
「んー、なるほど。応急処置や慢性ケア的な感じかぁ」
「主殿のヒールは目立つからの。使う時は、そのくらいに抑えるのが良かろう」
「わかった。ところでさ、よくランクなんて知ってたね?」
「戦の頃の知識じゃ。戦場に出ておる回復術師の重要性じゃな」
「へぇ、そんな基準が」
「うむ。主殿がヒールを本気で使えば間違いなくA+、戦場なら真っ先に狙われるのう」
「な、なるほど……」
「ちなみに、冒険者向けの基礎指南書にも同じような記載があるぞ」
「……え、あれに?」
「さては見とらんな?」
前にギルドでもらった本だが、ナヴィはいつの間にか目を通していたらしい。
「あ、後で見ようとは思ってたんだけどね……面目ない」
「主殿は所々抜けておるのう」
呆れながらも笑ってくれる相棒にいじられながら家まで戻るのであった。




