【第8話】ただ、救いたくて
【第8話】ただ、救いたくて
少女を抱いたまま、俺は街の外れにある自宅――という名のボロ小屋へと戻ってきた。
軋む扉を開け、薄暗い室内の簡素なベッドにそっと少女を寝かせる。
その体は、まるで折れそうなくらい細く、小さかった。
(日本なら……小学生くらいだろうか)
ぐったりと横たわる少女は、何も言わない。
虚ろな瞳は天井を見上げたまま、微動だにしない。
まとっているのは、ぼろぼろの布きれだけ。
服とは呼べないそれの下から覗く肌には、赤黒く変色した跡がいくつもあった。
火傷だろうか、それともこれが呪いなのだろうか――無知な自分ではそれすらも判別できない。
(……何があったんだ、一体)
俺に医療の知識なんてものはない。
――でも、代わりに俺にはスキルがある。
異世界に来たとき、唯一得たチートらしいスキル――《ヒール(EX)》
そして、日々の依頼で少しだけ成長した今の俺には、それが【Lv.2】になっている。
たかがLv.2かもしれない。だが、スキルランクは《EX》。
スキルの説明にはこうあった。
――“死者を除き、あらゆる外傷・病・毒・呪いを回復可能”――
信じていいのなら、この子を救うことだって、できるはずだ。
(……絶対に助ける。この子の命が尽きる前に、俺が――)
俺は少女の痩せ細った胸元に手を当てる。
手のひらから、柔らかい光が滲み出す。
淡い緑の光が少女の身体へと浸透する。
微かに震えていた胸が、ほんのわずかに上下する。
ヒールは念じるだけで発動できる。
Lv.1では靴擦れを治すだけで30分もかかった。
Lv.2程度ではこの子の回復には相当な時間が必要だろう。
だが、これまで何度も使ってきたが、このスキルは例えば魔力…MPのようなものが消費される感覚は一切なかった。
これなら何時間、何十時間でも使えるはずだ。
(頼む…効いてくれ…)
冷や汗が頬を伝う。人生で一番緊張しているかもしれない。
もし、ヒールの発動が止まってしまったら、少女の鼓動も止まってしまうのではないか。
そんな不安が頭を離れなかった。
だから俺は、ただ黙って、光を絶やさないようにヒールを発動し続けた。
せめて、この危険な状態だけでも脱することができれば……。
ずっと、少女の命が“ここにある”ことだけを確認しながら。
時折、この子の呼吸が止まりそうになるたび、俺の鼓動も止まりそうになった。
――どれくらいの時間が経ったのか。
窓の外が、やがてほんのりと青みを帯びる。
朝日が差し込む頃――
ようやく俺は、腕を下ろすことができた。
少女はまだ、眠ったままだ。
でも、確かに……その頬には、ほんの少しだけ、赤みが戻っていた。




