第092話 冒険者たるもの
「さて、余震もあるかもですし一旦山降りますか? ポッツちゃんも仕事どころじゃなさそうだし」
「よしん……て何だオッチャン?」
「ん? また揺れるかもしれないって事。まだ揺れ足りなーい!って感じでね。さっきの二人の反応的に、ここはあんまり地震ないのかな?」
亮平の話を聞いて、そいつはヤベェ……と青冷めるポッツのプルプルが加速する。よって、ガッチリと亮平を捕縛していたポッツの両手は更に締め上げられ、無遠慮に亮平の両目を覆い隠した。
「ポッツちゃん……それだと流石に前が見えない」
「お、降りようフィーネ。今すぐに」
「そうだな……まぁここ以外でも薬草は採れるし場所を変えるか。このタイプの植物なら、少し低い所でもなんとか集まるだろ」
という事で、リーダーの許可を経て、リーフラビットの一行は中腹付近まで下山する事になった。
この薬草は、魔力が貯まりやすい山の頂上付近に自生している少し気難しい植物だ。そして、一般的に魔力の濃度は上空に近付くにつれて濃くなり、標高が高すぎる山では酷いマナ酔いもよく起こる。
そこに加えて酸素濃度も低くなるので、地球の山登りよりもかなり過酷な状態となるのが、この世界の通例だ。お陰で人類未踏の山など、数えるのも馬鹿らしいくらいに存在している。
フィーネ達が探索していたグレスト山脈は、2000~3000m級の山が連なる山脈だが、流石にそこまで高い山だと採取効率が悪過ぎるので、フィーネはその山脈地帯の中でも一番低い山を探索場所に選んでいた。
これも農家育ちのフィーネだからこそ判断出来たチョイスであり、その中腹は地上からおよそ900m程。それが薬草の育つ魔力濃度のギリギリのラインだという事を、フィーネは経験則で何となく分かっていたようである。
しかし頂上から歩いてまだ数分後の事。
目的地遠しの状態で、ポッツがピクリと動いた。
「………ッ」
「ポッツちゃんどうかした?」
「……また揺れてない?」
「いや……というか肩車なら結構揺れるでしょ?」
敏感に辺りを警戒し続けていたポッツは、んー? と目を潜め、猫耳をピコピコと動かす。亮平とフィーネの二人はまだ気付いていないが、優秀な獣人族としての本能とセンサーは確かな精度を持って、微細に地面が揺れている事を察知していた。
お陰で更に地面と距離を取りたくなったポッツは定位置からもっと上を目指してよじり登り、亮平の頭部はすっかりポッツヘルムと成り果てた。これはもう肩車というより、頭車といって差し支えない状態である。
「ほらぁ……なんかガラガラ聞こえるぞ?」
「繊細になりすぎじゃないかポッツ? そんなに……」
と、フィーネがそう思ったのもつかの間。
今度は亮平がここ一番に声を荒らげた。
「おわぁぁ!! なんじゃありゃぁぁあぁ!?」
「んぎゃあああああ!? 何だオッチャン急にビックリしたぁ!!」
「心臓飛び出るかと思ったぞ!? 急に叫ばないでくれ全く……一体どうしたんだ?」
「いや……すいません……でも行くときあんなのありましたっけ?」
「「あんなの?」」
亮平が指を差して見据える先。そこは木々生い茂る森の更に奥。よく分からぬままに二人が同時に目を向けると、自然の中には不釣り合いな物がそこにはあった。
「………壁? いやなんだアレは……遺跡か?」
「さっきの音はアレかぁ……こりゃまたまた……」
来た道を戻っただけにも関わらず、高さ4~5メートルほどの見慣れない石積の壁が、粉塵と瓦礫を落としながら悠々と存在していた。
三人は恐る恐る歩み近付くと、フィーネの言うとおり確かに遺跡のような見た目をしている。町の家とは作りが違うが、やはり明らかな石造人工物だった。
「地面から出てきたのか?」
先ほどまでの地震は、どうやらコレが地面から出現したせいらしい。地下深くから押し上げたであろう地面と木々の一部が、すっかり遺跡の屋根と成り果てている。
軽く見た限りどこにも窓はなく、扉のない入り口だけが山の麓側に一ヶ所だけあるようだ。その入り口からは直ぐに下へ下へ伸びる階段が続いており、まだ昼過ぎにも関わらず薄暗くて奥までは確認できない。
少し覗けば中から吹き流れる冷たい風が、ゾクッと三人の体を刺激した。
「ふぃー……ゴーレムかと思ったぁ……こんなほのぼの依頼で災獣とかだったらどうしようかと思ったぁ」
「いやいや、これもなかなか危険な感じがするぞポッツ?」
「ゴーレム? 災獣? まぁそれはいいや見なさいこれを! このワクワク感!! これぞ冒険者の醍醐味でしょう! ここで踏み込まずして誰が行くっ!!」
亮平はすっかり冒険者モードオン。
目の前にあるのは正に未知。冒険してこその冒険者。でなければ名折れもいいところだと、そんな感じに亮平の気持ちは限界まで高ぶっている。
「誰も行かないよもう……どんだけ死にたがりなんだオッチャン」
しかし亮平の頭の上からは賛同どころか、ペシペシ叩く軽い説教しか降ってこない。フィーネに関しては遺跡を見つけたその瞬間から、これまた正しい経験則によって亮平の服を鷲掴んでいた。
これまで二人とも散々振り回されてきたので、そう簡単には亮平の自由を許さないのである。
「だって冒険の臭いがするじゃないですか!! 入ります!? いえ入りましょう!! だから俺の服を離してぇぇぇぇ!! 主人公させてぇぇぇぇ!!」
大剣扱うフィーネの腕力を、亮平は振り払える筈もなく。
ポッツを背負ったままズルズルと、亮平は強制的かつ滑稽に遺跡から距離を取らされた。
「少しは慎重と臆病を覚えろリョーヘー。好奇心だけで動くな」
「そうだぞーオッチャン。こんな怪しさマックスな場所、流石に無理だって。もしドラゴンの巣とかだったらどーすんだ? 逃げても中で丸焦げだぞ? まだ災獣の可能性もなきにしもあらずだし」
「任せてください。今度こそ」
滑稽無様な格好で、亮平は性懲りもなくキランと音がなりそうなくらいには格好つけた。どんな目にあっても危険に突っ込みたがる亮平は、やはりフィーネとポッツとは分かり合えないクレイジーな思考を持っているようである。
「その台詞でこれまで何回死にかけたんだぁぁ!! その折れた剣見て思い出せ! そして学べこのお気楽あんぽんたーーーんッ!!」
「いででででででで!?」
今日ばかりはもう勘弁してくれと、ポッツの抵抗はいつになく激しい。お陰で伸び縮みを繰り返す亮平の顔面は大変な事になっている。
「いちち……金銀財宝&伝説の剣とかあるかもしれないのにぃ……そんなに年下の子に怒られたら、スゴい惨めになっちゃうよおじさん」
「惨めなのは全然今更だぞオッチャン」
悲しい話である。
「早く降りようよフィーネー……やっぱり危険だよここぉ」
「だな。他の山に移動するか」
「さっさと終らせて帰ろー……ほれオッチャン。早く行くよー。立って立って!」
「えー!? アレあのまま放っておくんですか? なんか勿体なくないですか!?」
頭をベシベシ叩かれる亮平はその身を起こし、フィーネに強引に背中を押されて折角の未知を後にする。粘り強く説得を試みるも、二人の気持ちは当然に変わらないようだ。
「残りの薬草を取ったら、ギルドに届けがてら報告しよう。もしかしたら何か知ってるかもしれないからな。それに命の方が勿体ない」
「オッチャン、死んでからじゃないとその性格治りそうもないな……」
「冒険者なんだから冒険しましょうよぉーー!」
「「しませーん」」
生涯冒険者でいたいのなら、冒険はしないこと。それが亮平に分かる日は遠いか、恐らく来ないだろうな……と。ポッツとフィーネは悲しく哀れむのだった。
ー フィーネとポッツ ー
「今日は薬草採取をしに行くぞっ!」
「薬草採取? なーんか地味そうな依頼だねぇ……」
「リョーヘー向けだろ? 見ろ!3件もあった!」
「まぁ確かに……どんくらいとるの?」
「ん~と。1件につき2kgくらいだから大体6kgくらいかな?」
「草だけで!? 多くない!?」
「腕が鳴るねっ!」
「ホント……腕が悲鳴あげそうだよ……」




