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第009話 非公式の一点物

「大体酔いつぶれてとか!! まさかと思うが、召喚してた事を覚えて無かったとかじゃあるまいな? 数日ほったらかしてくれたけどよ!」


『酒ってさ……女神の記憶も白紙にできるんだぜ?』

 

「かっこよくねぇ!! そして女神とかさらっと新情報!!」


 心なしか、声色がドヤっているのも腹立たしい。

 つまり、倉元家は本当の意味でしっかり放置されていたのだ。その失態に何らかの形で後々気付いたこの自称女神は、事後処理的に武の夢に介入してきたらしい。


『そうっ!! 私は女神ッ!! 見よ!! この神々しい姿を!!』


 きらりん☆

 どこからかそんな小賢しい効果音が聞こえたが、相変わらずその姿は見えないままだ。しかも神々しい事を主張する割には、周囲の明るさにも変化はない。映画好きの武からしてみれば、演出の凝り方はまだまだ三流以下だった。


「だから見えねぇんだよ!! 変な音まで付けて見て欲しいなら出てこいや!?」


『………心の眼で見なさい。若しくは瞼の裏に私はいつもいる』


 見えないポンコツ女神がずっといるのは、一体何という不利益デバフなのだろうか。


「一生ドライアイ覚悟で瞼取るわそんなもん」


『手伝おうか?』


「例えだアホめが!! とにかく俺の瞼には絶対住むんじゃないッ!!」


『思春期の人間怖いねぇ………それに酒の勢いで好きな子に告白しちゃうとか君もあるでしょ? 後々後悔しちゃうやつ』


「おっとーぅ……後悔って言っちゃうんですねぇー。それってもう完全にミスって事ですよねぇー? 認めちゃってますねー? それと俺未成年だし、その例え話は全く共感できねぇ」


『真面目よのー。もっと人生楽しめよ若造ー』


 なんでそんな幻滅されたような声で、ガッカリされなければならないのか。楽しくなるはずの人生のレールを、勝手に組み替えたのどこのどいつなのか教えて頂きたい武である。


「てか後悔してんならさっさと現実世界に戻してくれよな……」


 そもそも武は別に、異世界を死ぬほど謳歌したい人間ではない。帰れるならば帰りたい派の人間である。


 しかし、この女神は想像以上に我が強かった。


『それが出来るのは創造主様マスターだけなんだよねー。無許可の召喚なんてバレたら、私女神クビになっちゃうじゃない。だから絶対に言ってなるものかッ!』


「………マジかこいつ!? この状況で我が身を案ずるか!!」


『ふっ……バレなきゃミスはミスにならないのよ少年』


 ここにゴミくずみたいな女神がいた。

 若しくはこれがゲボクズの極みだ。


『誰がゲボクズか』


「………………マスターここですぅぅぅぅ! ここに犯罪者! いえ堕天使がいますよぉぉぉぉぉ!! これはもう絶対堕ちてる!!神の世界に異物が紛れ込んでますよぉぉぉ!!」


 どうかお慈悲を。

 願わくば羽でももがれてしまえと、武は全身全霊でお祈り密告をする。そんな武の行動に、女神はほんの少し焦ったようにワタワタと叫び返した。


『やめてぇぇぇ! 呼んでも絶対来ないと分かってるけど一応やめろぉぉぉぉ!! あと天使じゃなくて神だからっ!!』


「どっちでもいいわぁぁ!! やってる事悪魔すぎて、今の俺には微々たる違いでしかないッ!!」


 というかむしろ、悪魔と言われた方が納得である。

 だがやはり女神的には心外だったらしく、自分の肩書きにはちゃっかりプライドを持っているようだった。


『いやいやいや! 神と天使全然違うから!! 私の方が超偉いから! よく見なさいよこの神々しさ!』


「だから出てこいよ!? あと偉いやつ絶対うっかり召喚なんかしないから!!」


『気の緩みが億万年に一回くらいあるの! だから許せ!』


「なーんでこの状況で上からだ!? 何様だボケぇぇ!!」


『神』


 多分、この世で一番強いパワーワードだった。


「チクショぉぉぉぉぉぉ!!」


 世界一強い圧力に、武は泣いて膝折れる。

 この世は理不尽に回ってると思っていた武だが、ここまで不条理だとは思わなかった。


『何しても許される。何もしなくても………許されるッ! それが神ッ!! プフッ、やめれないわぁーこれは』


「こんなのが女神やってるとか、人員不足なのか神の世界。ちゃんと面接しろよマジで」


 しかしまぁ、神は八百万やおよろずとも千万ちよろずとも言われているのだ。小さな神様を含めれば、その数は途方も無いという。そう考えると、いようがいまいが問題なさそうなこんな女神もいるもんかと、武は嫌々渋々に納得する事にした。


『いようがいまいがって結構酷くない?』


「勝手に心を読むな。瞼から奥に入ってくるんじゃない」


 あえて言おう。

 武はこの女神が嫌いであると。


「はぁ……この際俺の宇宙よりひろーい心でお前のミスを受け入れたとしてもだな?」


『宇宙そんな広くないけどね』


 そして、人間レベルのスケールの広さで測れる常識は、女神に全く共感されなかった。


「………………続けます」


『どうぞ』


「もっとさ、異世界人の強みとかあるじゃん? 非常識だからこその優遇チートってあるもんじゃん? とにかく俺に不親切だよこの世界!」


 武としても、その辺の知識くらいはある。

 トラックにこそ轢かれていないものの、異なる世界に来るとは即ちそういう事だ。

 望もうが、望むまいが、優遇される何かしらが付いて回る。


 しかし相も変わらず姿を現さぬ理不尽女神は、けして自分のペースは崩さない。


『正式な手順を踏んでいれば、多少は君の想像通りの展開にはなったかもねぇ。ただ今回は私としたことが酔い潰れて非公式、裏ルート、私のプライベートでウッカリ召喚しちゃった訳なの。でもさ、ルールに縛られないって私って自由で素敵じゃない?』


「もうマジで捕まれよあんた」


 そして地獄巡りでもして欲しい。

 神の数だけ周回して欲しい。どうか千万でおさまらない程に神がいますように。


『神を前に凄い事祈ってるわねこの子。まぁまぁ。ルートはどうあれ異世界なんて望んで来れる訳じゃないんだからさ? 過去は振り返らず前だけを見ようじゃないか少年!』


ていのいい言葉だけど、この過去は常に振り返るからな? ぜってー忘れないからな?」


『ちっ……』


 ホントに後悔しとんのかこいつ……。

 表情拝めないけど、全然反省してるように聞こえないんですが。


『まぁね』


「しろよ。だから奥に来るな奥に………とにかくこれじゃあ俺の存在価値だだ下がりだよ!! 埋もれてるよキャラ的にっ!! 濃い! 周りがとにかく濃い!!」


 既に万能魔法使いの詩織や櫻に、魔法こそ使えないが冒険に夢を馳せる亮平。

 倉元家において、今のところ武のポテンシャルだけが圧倒的に低いのである。


「何であんなに家族で差があるわけ!? バランスの取り方下手くそ過ぎんか!?」


『んー……私も四人一気に召喚するなんて初めての事だから、今のところ何とも言えないかなぁ。実は夢に干渉出来たのも貴方一人だけだったのよねぇ……あ、よっ! 特別ッ!! 女神と話せたオンリーワン!』


「う、嬉しくねぇー……」


 良く言えば貴重、事実を語ればハズレくじだ。


『でもそこそこなツッコミキャラがあっていいじゃない。好きだぞ? 私はそのキャラ』


「そんな無能なスキル要らねぇよ………もっとこうせめて魔法使えるとかさぁ! 世界観だけで俺にファンタジー感が無いんだよぉぉぉぉぉ!!!」


『そんなむせび泣かなくても。まぁちょっとふざけちゃったけどさ。どんな世界にも抜け道ってもんがあるのさ少年』


「?」


 ポンコツ女神がそう言うと、薄暗かった空間が天から少しずつ朝焼けのように明るくなり、そこから仄かに蒼白く光る小さな丸い玉がゆっくりと降りてきた。


 そしてフワリフワリと漂う玉は、武の目の前で停滞する。


「これは?」


『元の世界に戻すのは無理なんだけど、流石に失態に見合う魔法くらいは譲渡しようと思ってね』


「……!」


『本来なら公式的に選べる筈の、便利で強力な魔法達を譲渡出来ないのは申し訳ないけど、これは私の力の一部だから。逆に言えば非公式だからこその、公式には存在しない神の"一点物"。役に立たない事はないと思うよ。さっ!それに触ってみな』


 てっきりこのまま無駄雑談で終わると思っていた武だが、ここから思わぬ急展開。遅れてきた異世界召喚の醍醐味が、武の全身にここ一番の英気を宿した。

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