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第087話 活力三銃士

 客もまばらなお昼頃、もう少し客が来ると思っていたものの流れは実に穏やか。座るだけなら50は固い座席も、今昼ご飯を食べているのは3組6名。

 息つく暇ばかりで無駄にため息をこぼす事請け合いだ。しかし夜になれば酒も出せるので、依頼以外でも客が来るはずだと期待したい所。


 というか、来てくれないと借金返せないのである。


「パスタでけたー! フローラ宜しくー!」


「はぁ~い……お待たせしましたどうぞぉ~。ごゆっくりぃ~」


「お、結構うまそうだな」


「にしてもお姉さん美人やなぁ。どっかの令嬢さんか? なぁ俺と付き合ってや! ハハハ! なんつって!」


「俺キッチンの子も好きだなぁ~。なんか元気の塊みたいでさ。毎朝起こして貰いたいね」


「フフフ。埋まりますかぁ?」


「「えっ……」」


 借金の存在をどこまで深く捉えているのかは不明だが、森っ子2名は実に献身的に働いている。

 特にニーナの料理は好評で、手際もかなり良い。小慣れた感じはスッカリ厨房の顔になって、本人も実に楽しそうだ。その傍らホールの方では、フローラが出す無数のツルを器用に動かし、一人で数人分は効率的に働く事でかなり配膳と片付けに役立っている。キッチン1名、ホール1名ながら、まだまだ客足は増えても問題なく対応出来そうだ。


 ……なので。


「さぁ……遠慮せずにもっとワラワラ溢れて金を落とすがいい冒険者どもぉ!!」


 武のゲスい顔にも、より深みがかかる。

 フハハと悪魔的な笑いが漏れるのもむ無した。


「その発言セリフは欲にまみれすぎじゃない!? 私完全に悪側の気持ちなんだけど!?」


「だって借金まみれなんか嫌だぞ俺は! せっかくここまでして辞めるのも嫌だし!! アホみたいにここで金使ってくれないと困るだろが!!」


「いやまぁ気持ちは分かるんだけど、発言が酷く気になってね!? もう職業魔王とかの方が似合ってるよソレ!?」


「もう金が入るなら、俺は魔王でもいいんじゃないかと思い始めている」


「野望がどんどん悪になりよる!」


 結衣的にも忙しくなる方が張り合いはでる。

 しかし、この隣に立つ男と一緒と思われるのは侵害だった。


「何でやる事成す事ダークサイドに傾くかね……いっそ『ブラックフォックス』とか『ダークフォックス』に改名したらいいのに」


「……そうする?」


 冗談発言にも関わらず、武は納得してむしろノリノリである。なんなら『カオスフェニックス』でもいけちゃうくらいだ。


「するか! やだよ可愛くない。黒狐で『コッコ』とかなら可愛いけど。私が言いたいのはもっと慎ましく働こうってことよ」


「だって仕方ないじゃないか。俺だってこんなに金が欲しいと思ったことないんだから。もういかなる手段でも使ってやりたい。 だからバレなきゃ何しても………金こわっ!! 俺の色んな人格が騒ぎ始めた!!」


「良かった正気に戻った!!」


 なんとか自我を取り戻して無事終演。

 一応の捕捉として、ベンチでゴロゴロするアイリスから改名は簡単じゃないぞ~と呟かれた。今日も憎たらしくサンドイッチを頬張っているが、慣れたように華麗に流す二人もまた、いつも通りの反応だ。


「結局健気に働くっきゃないのか……孫の代まで引きずりそうだな。スマンまだ見ぬ孫」


「私は末代に苦労かける前に向こうに戻りたい所だわ……」


「「はぁ……」」


 受付の空気はどんより。漏れる息の不穏さで言えば、ここ最近で間違いなくトップクラスだ。


「ふぅ~。大変ですけど結構楽しいですねぇお仕事。ここに来て正解でしたぁ」 


 悲壮感漂うダークネスな一方で、こちらは太陽よりも輝いている。リズムよくつるも揺れているので、言葉通りにご機嫌のようだ。


「お疲れさまですー。にしても便利ですねぇーそれ。結構繊細に動いてますし」


「自分の腕を動かすより便利ですよぉ。この通り天然水分も出せますし……飲んでみます? 栄養満点ですよぉ」


 水ではなくやはり水分。

 武の予想通りつるから水がしたたり始め、澄みきった水がグラスに少しずつ注がれていく。

 詩織が魔法で出すような水と違って、大気中から集めた水ではなく確実に自身の体より分泌されているのだ。

 そこさえ引っ掛からなければ武としても受け取りたい所。色んな葛藤が渦巻き、今日もグラスに手は伸ばせなかった……が。


 武の隣で小さく手が挙がった。


「私一杯貰っていいですか?」


 意外にも、結衣は全くの躊躇とまどいなし。


「どうぞどうぞぉ」


「お前、前に飲んだとき悶絶してなかったか?」


 武の記憶が正しければ全身が痺れたように身をよじっていた筈だ。にも関わらずの注文。これには武も少し驚いた。


「そだっけ? 何かクセになるのよね。フローラさんの水」


「フフフ。ありがとう御座いますぅ」


「いやいや美味しいのは事実ですから! あ、『フローラさんの水!』で商売出来るかもですよ? 需要ありそうじゃないです?」


「うーん。知らない人にはあまり飲ませたくないですかねぇ。体液みたいなものですし」


「そっかぁ」


「そっかぁじゃねぇだろ。最後聞き逃せないワードが何気無く紛れこんだぞ」


 聞けばあれ以降、結衣はちょくちょく普通に飲んでいたらしい。こんな身近にリピーターがいたとなってくると、純粋に武も興味が沸いてきた。


「……因みにどんな味なんだ?」


「ん~……味は全然水だけど、全身に巡る爽快感が半端ない感じかな。なんか二杯続けて飲んだらダメらしいわよ」


「なにそれすげぇ怖い」


 そんなことないわよと軽くあしらう結衣は、上手く表現しがたいこの飲み物の味を、何とか言語化しようとジェスチャー混じりに説明を始める。


「怖くないって。何かこう……内側から……邪魂を……押し出されるみたいな……壮大な感じなんだけど……挑戦してみる?」


「挑戦をうながすあたりがもうね。物語ものがたってるよね」


 そんな合法かも危うい飲み物を受け取り、結衣が早速飲もうとした時だ。勢いよく、ギルドホールの扉が開かれた。どうやら新たなお客さんが来たようだ。


「お、いらっしゃいま……」


 と、武が言いかけた所。

 お客ではないことが直ぐに分かったので、直ぐに言いとどまった。ここにきて、武にとっての元気の活力剤がご登場したらしい。


「みなさーん。遊びにきましたよー!」


「よー!」


「ピィー!」


 倉元家でトップ3に元気で可愛い三銃士達である。わざわざ怪しい水で栄養取らずとも、この光景だけで武の体力パラメーターは直ぐに回復する。手を振る小さな妖精に、赤い小さなドラゴン、そしてドラゴンにまたがる小さな妹だ。これ程ミニマムサイズが集まれば、自然と顔も綻ぶというもの。


「あぁ……お兄ちゃんの職場に遊びに来てくれたのかぁ。健気や……超プリティ……なぁ結衣もそう思わ……あれ?……速ッ!?」


 3人を目にした瞬間コップを置いた結衣は、武なんか当に差し置いて、一目散にエンジェルに飛びかかっていた。櫻に対する結衣の瞬発力は、既に武より速い。


「わっはぁぁぁ! さくらちゃーん!よく来たねぇぇ! リリィもブッブもいらっしゃーい……ふぐあっ!?」


 しかし結衣が櫻に飛び付く前に、ガブリと腕に噛みつくブッブ。日々のリリィの指導教育のお陰か、小さいながらも櫻を守る鉄壁のドラゴンとして、立派に成長しているようだ。


「良い仕事ぶりだブッブ。その調子で今後も櫻の警護よろしく頼むぞ」


「プアッ!!」


 ガブリ。


「ブッブタンマ! テテテテ!? ちょっ……私だってば! イタタタタタ!!」


「よく来てくれたなー皆。てか人目につかなかったかリリィよ」


 プリティ妹の外出も当然心配だが、ドラゴンも一緒となると嫌でも注目も浴びるだろう。


「お母様がここまで送ってくれたので大丈夫です。姫に変な虫が付くのは極力避けませんとね」


「グッジョブ」


 しかしどうやら詩織の転移魔法によって、三人はここまでお届けされたらしい。ホールで食事中の客からはやや不可思議な視線が飛んでくるが、まぁこれは仕方がない。


「なんだあれ? え……まさかドラゴンか?」


「まさか。こんな街中にいるもんか。どこの世界に赤子乗せる飛竜がいるんだよ。愛玩魔獣かなんかだろ」


「ハハハ。だよな」


 常識が幸いしてか、今のところ大事にはならなさそうだ。しかし今後外出する際には、着ぐるみでも着せてやった方が良いかもしれない。


「姫に教育上宜しくない出来事は事前にシャットアウトです!」


「です!」


 ふんすぅ、と鼻息を漏らしてガッツポーズなリリィと櫻。どうやらリリィの過保護なまでの教育方針に、今のところは櫻も不満は無さそうだ。


「素晴らしい。ここまで理解ある妖精に出会えた事を俺は誇りに思うぞ」


「いやいやなんのなんの」


 ニヘヘと互いに笑う櫻ファンクラブ永久会員のお二人。

 人差し指と両手の珍しい握手が交わされた。


「にしても悪いな毎日世話してもらって。丁度お昼時だし、何か食うか?……ブッブはもう結衣の足食ってるけど」


 ガジガジと。

 会員No.3は酷く悶絶している。


「実はご飯食べに来たってのも間違いじゃないんですよねぇ。お母様が急に仕事入ったみたいで已む無しと。あ、これ姫の哺乳瓶です」


 そんな事情を説明しつつ、リリィは背負っていた空の瓶を差し出した。一見して武器のように背負っていたが、ただの哺乳瓶だったらしい。


「成る程そういう事か。なんか食いたいのあるか? うちのシェフはお袋並みに優秀だぞ?」


「おぉ! そうなんですか? それじゃあ……私はドラゴン肉焼きセットで」


「ピィ!?」


 肉好きリリィは、身内にドラゴンがいても容赦なかった。

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