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第066話 魅惑のエンカウンター

 「洗脳ねぇ……」


 一つの町を攻め落とす魔女とやらが、一体どれ程の強者かと武は考えていたが、どうやらそれなりに納得できる厄介な魔法の使い手のようだ。

 デュラハンの言う傀儡の王とどこまで酷似する能力なのかは不明だが、甘く見積もるといつの間にか自分の心が掌握されていた……なんて事にもなりかねない。そうなると、自然に気が引き締まるのも当然だった。


「さて……勢い任せで来たものの、どうやって奪還するかな。この国取りゲーム」


「一手先も読めない男がやる仕事じゃないよね普通」


「将棋もチェスも動かし方すら知らんからな。俺は戦略考えるより、頭空っぽで戦うゲームしかしたことないんだよ。もっと言うなら、牧場とか経営するほのぼの系の方が好みだ」


「じゃあ馬くらい乗りこなしなさいよね……」


「馬は普通飛ばねぇのだよ」


「そうだった」


 膝に手を付きながら視線をあげると、神社の鳥居のようなものがそびえ建っていた。町の様子も上空から見た通り、さながら時代劇の中にでも放り込まれたような感じだ。この場所の雰囲気だけだと、異世界というよりタイムスリップした気にさえなる。


 ただし、鳥居の色が見慣れた赤ではなく、くすんだ黒であるのが少々残念だ。


「基本的な戦闘はやっぱデュラさん頼みだな。俺らは町の人を避難させるのをメインで動くか。ナナさんは……」


 視線を向けると震えているのが分かる。

 当然、それが武者震いという訳では無さそうだ。


「私は……」


「ふっ……たかが魔女ごとき我一人で充分よ。1を多で攻めるなど弱者のする事。殲滅隊レギオンとして我一人で葬るのは至極当然。貴様が震える必要はない」


「わ、私は別に震えてなど―――――ッ!!」


「まっ。こう言ってるんだし、戦いはデュラさんに任せときなって」


「…………」


「しかし、ここがナナさんの故郷か。着飾ってるのが和服っぽいから、なんとなくそんな気はしてたが昔の日本みたいだな」


「ほんと趣があって良い所だよねぇ。老後ならこっちでほのぼの住むのもありね」


「てことは、結衣はもう帰るの諦めたんだな」


「………ハッ!?」


 完全回復とはいかないが、地を足で感じる事で武と結衣は互いに随分楽になった。こうして会話に余裕が出来たのが何よりの証拠だ。

 ナナの表情は依然として少し曇り気味だが、状況が状況だけに仕方ないだろう。


「上から見た感じ、ヤマダの町と違って木造建築が多かったな。石造は……塀くらいのもんか?」


 積まれた石垣は実に見事だ。

 城塞都市とはレンガのような規則正しい石が積まれて壁を作り出しているが、これは明らかに自然の岩を積み上げた事で成り立っている。それが町の周囲をぐるりと覆い、形は違えどこの町も城塞都市となっているようだった。


 扉なき鳥居の門から垣間見えるそこは、まさに和の世界と言って差し支えない。


「土地土地でこんなに雰囲気が違うもんなんだねぇー。ところでここ、なんて町なの?」


「ん、そういえば聞いて無かったな」


「ウエスタンです」


「「…………」」


 それは、なんとなく刀を持ってる人が掲げちゃいけないような町名な気がした。どちらかと言えば、恐らく回転式の銃、あるいは鞭でも持ってないと成り立たない、そんな名だ。カウボーイのハットでもあれば、尚完璧である。


「和なのか洋なのかハッキリして欲しいな。懐かしの面影が名前で台無しなのだよナナさんや」


「?」


「町ごと変えるか名前変えた方がいいぞ絶対」


「他の町より歴史は浅いですが、流石に町を変えるのはちょっと……でも確かにシンプルな名前ですよね。大陸の西だからウエスタンて。南国バラスティアでウエスタンは更にややこしいかもしれないですね」


「違うそこじゃない。しかもどちらかと言えば、ここはバラスティア国の東端だ。勉強したまえウエスタン民。南国の東の町ウエスタンとか海外転生者いたらパニックよもう」


「き、気をつけます?」


 ナナは一応返事はしてみたものの、その困った様子を見るに会話の中身は殆ど理解して無さそうだった。


「でも襲われたって割りには、争った感じもないね? 何というか……平和じゃない?」


「確かに」


 結衣の言うとおり、特に町が壊れるでもなく誰もいない訳でもない。違和感があるとすれば、正にそこだ。

 隠れ目に見ても皆普通に仕事をしていて、とても襲われた町とは思えない。平和そのものである。

 張りつめた空気が先程から続かないのは、どうにもこの状況があるかららしい。


しかしナナにしてみればそんな事は無いらしく、感情が高ぶったように小さく声を荒らげた。

 

「何を言いますか!! あれを見てください!!」


「ん?」


 しかし、憤怒したナナが指差す先にはただの労働者、いい汗流していい感じに活気付いて町の雰囲気にも合っている。

 鍛冶職もあるし、精肉店もあるし、お茶屋だって稼働している。武はやはり、ナナが焦る様子が全く分からない。


 だってこれは至って……


「普通だよな」


「普通ね」


 少し違和感があるとすれば、女性の姿が姿がやけに少ない事だろうか。おおよそ目に入る労働者は、総じて男ばかりだ。


「どこがですか!? ここは別に働かなくてもいい町なんです! これでは皆働いて奴隷みたいじゃないですかぁぁぁ!!」


「……はい?」


「だから皆働いちゃってるんですよ!? こんなに店なんか構えちゃって!! これではみんな過労死してしまいます!! あぁ……あんなに汗水流してしまって……可哀想に……」


 武は、数秒間脳ミソをやや真面目に可動する。


 ―――……ん?


 もしかすると、凄くしょうもない事に首突っ込んだ?

 ひょっとして無駄に飛んできたのでは?


 なんか唐突に、そんな気がしてきた。


「えっと…………あんだって?」


「だ・か・らっ!! 生涯無労確約の民が!! 笑顔で働いてるんですってば!! 逆にこんな異常事態に何故貴方達は冷静なのです!?」


「スマン。何の逆かさっぱりでな」


「みーとぅー」


 ……やはり無駄足っ!!

 というか無駄飛びだったらしい。


 これには流石の結衣も、絶句&過剰な瞬きフィーバーだ。

 唯一の救いは、もしもこの依頼を誰かに頼んでいたら訴えられたかもしれないという事。万が一誇り高き冒険者が受諾しようものなら、バカにされたと言われかねない。


 そこだけ。

 そこだけは自分達が来て良かったと、武は安心できた。


「……今度からちゃんと話聞いてから来よう。今後のギルドの為にもこれは良く無かったな。なんかごめんな結衣。流石に謝るわこれは」


「……うん、いいのよ学習してくれれば。私も鬼じゃない。あれよ………私たちはたった今成長したのよ。無駄ではない」 


「元気でるわその励まし。有り難う。結婚しよう」


「それは無理」


 ラブコメ難しい。


「奴隷にするとは、中々鬼畜な事をしておるな魔女よ。敵ながら恐れ入るわ」


「あぁぁ……あんなに接客とかしちゃって……どんなに無理をしていることか……くそっ!! 魔女め!!」


 若干二名の感想が違うが、これは寧ろ魔女に感謝していいとすら思えてくる。


「襲撃? 救済の間違いでしょこれ……どんな国だったか知らんけど全然活気で溢れてるよ」


 これは一体どう対応したものか。

 武がそんな事を悩みこけていると、知らぬ間に、上空に漂うひとつの影がこちらの方を見下ろしていた。


「あらぁ? まだ働いてない人がいるわねぇ? 何処に隠れていたのかしら?」


「「「!?」」」


「ん? お出ましか」


 聞き覚えのない声がした方を見ると、空に座る女性が一人。それは櫻で見慣れた浮遊魔法……という訳ではなく、背中よりはためく漆黒の翼に頼った芸当によるものだ。どうやら細くしなやかな尻尾もあるらしく、体長ほどに長く特徴的だった。


 細くくびれた両腰にはムチのようなものを下げ、落ち着いた口調の女性は、絶えず蔑んだ目でこちらを見下ろしている。


「フフフフ。お仕置きされたいのぉ? 悪い子達ねぇ?」


 足を組み変えながら妖艶に笑い、一瞬ペロッと唇をなめた仕草が思春期真っ只中な武には中々刺激が強い。それは一つ一つの仕草に限らず、彼女を着飾る格好にしてもそうだ。


 武の身近なところで、冒険者のフィーネの防具も露出度は比較的高めだと思っていたが、今目の前を漂う彼女はそれとは比にならない程に露出が多い。


 ―――エッロォォォォ!! 何あれ!? それはもう着てないのと一緒じゃないですかね!? もうコスプレじゃないですか。なんですか、けしからんなもう有り難うございますぅ!!


 言葉には出さないが、とりあえず武はお礼を言っておいた。


 ハッキリ言って美女。控えめに言って美女。

 これをご褒美と言わずなんと言おうか。

 しかしちょっと直視は出来ない。

 嬉しいけど、これはまだ童貞には刺激が強すぎる。


「出たな魔女め」


「あんなに胸を強調自慢する必要があるのか……ぺっ」


 怖い。いつになく、結衣が妙にお怒りである。

 しかし原因は明らかであり、結衣の視線の先でたゆんたゆんに揺れ動く、あの未知の世界にあるのは間違いなさそうだ。


「でもあれ魔女ってか………多分サキュバスだな。うん」


「なるほど、淫魔だったか。魔女とは検討違いだったな侍よ」


「……淫……魔?」


 どうやらサキュバスは、ナナが認知していない魔族のようだ。


「フフフ。そんなに熱い視線で見られてしまうと……あぁ……んっ……体が疼いてしまうわね」


「…………ッ」


 終始、サキュバスは過度になまめかしく身体を動かす。

 そして興奮を抑えるような笑みを浮かべ、獲物を見定めるようにペロりと舌を舐める仕草を、再び武達へと御披露目した。


「んふ……それで、誰から食べてもいいのかしら? あるいは……食べてくれてもいいのだけれど?」


「いいんですか?」


「良い訳あるかぁぁぁ!!」


「ゴペンザサイッ!!」


 結衣、怒りの鉄拳。

 それはまず、武の顔面に降りかかった。

ー ラッキーとホープと時々デュラ&ナナ ー


「……………」


「………………」


「…………」


「……………………」


「ん? 糞はばら蒔いて構わんぞ? 下は森だ」


「流石の私もそれはキツいな……」

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