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第058話 落とし人

「おぉう!? あぁなんだニーナか」


「なんだとはなんだ! それより今日休みなん?」


「相変わらず良い耳をお持ちで。マスター命令でお休みだってさ。そんで今から家に帰る所だ」


「聞こえてたけど二人で勝手に進めないでよもー! そうなると私達だって暇なんだからぁ!!」


 どうやら武が無断で予定を進めた事に、ニーナは小さな地団駄を踏んでいるらしい。あれだけの距離を持ってどこから聞こえていたのかは分からないが、休みを受け入れている辺り、詳しい説明の必要は無さそうだ。


「二人も来る前提で話してたんだけど、言葉足らずだったか。すまんすまん」


「全然足りないよー! でも安心したん!!」


 一緒に遊べると知って、ニーナは直ちにご機嫌を取り戻す。フローラに関しては、終始ニコニコとして穏やかなままだ。


「フフフ。ニーナはすっかり皆さんと仲良しなのですねぇ」


「フローラさんもすいませんね。折角来てもらったのに」


「いえいえ。全然問題ないですよぉ」


 ―――マジ女神。


「フローラもすぐ仲良くなるよ! ニーナの名に懸けて保証する!」


「ニーナのお墨付きなら間違いないですね」


 ドンと胸を叩いてへへんと誇らしげに鼻を鳴らすニーナに、フローラは微笑み返す。やはり神聖な種族の者同士で気も合うのか、二人の仲はとても良いらしい。


「じゃあ改めてウチ行くか」


「はいはーい! それもいいけど、わたくしニーナから提案があります!」


「む? 宜しい。言ってみたまえ」


 気を取り直して家に帰ろうとした所、ハイッ!と律儀に手をあげて発言許可を求めるニーナ君。学生姿を想像すると、仕事内容も知らずに委員長に立候補する姿が目に浮かぶ。

 フローラは万人が寄り集う、保健の先生と言った所か。


「んとねー、皆で私の家に来ない? 美味しいオヤツとお茶もいっぱい出すよー!」


「家? それってエルフの里ってことか?」


 確か、家の裏森を抜けた山の麓にあるとは聞いていた。しかしながら、ニーナはいつの間にか倉元家に上がり込むようになってはいたが、対する武達はまだエルフの里には行った事がなかったのだ。


「そそっ!」

 

 ニーナはいい提案でしょと言わんばかりに、再びヘヘンとふんぞり返っているが―――――


 パァーーーン!!


 と、ニーナの胸からおもむろに弾き飛ばされたボタンが、結衣の額にクリーンヒットする。


「ぶぇふっ………」


 驚愕の光景に痛いとも言わず、一体何が起きたのか順を追って理解すると、結衣は目を見開いてカタカタと震え出した。アイリスにねじり擦られたおでこが、更にピンポイントで赤くなって若干面白い事になっている。


「あっ……ゴメンねユイ」


「謝らないで! わ、私だってボタンくらい軽く飛ばせるんだからっ!!」


 どうやら結衣はボタンが直撃した事より、飛ばせるか否かに憤怒しているらしい。しかし報われない努力もまた、世の中にはある訳で。


 こうして見れば、森育ちの二人は発育が見事に成功しているようである。


「飛ばしたら、また縫わなきゃいけないから面倒だよ?」


「うわぁぁぁぁぁ! 私も自分のボタン縫いたぁぁぁぁぁい!!」


 割と下らない理由でボタンを縫いたがり、両手で顔を覆い咽び泣く年頃の乙女。これは暫く放っておいた方が良さげである。


「しかし、ニーナの家か。何気に行ったことなかったな」


「皆なら大歓迎! それよりユイ、そんな痛かったん? ごめんね?」


「ぐふぅっ……」


 ―――謝るほど傷つくからそっとしといてあげて。難しい年頃なんです。


「断る理由もないし、折角だからお邪魔させて貰おうかな」


 武が以前、妖精のリリィからちょこっとだけ聞いた話では、エルフの里はリリィ達の国よりも神聖な場所らしく、誰これと入れる訳でもないらしい。なのでニーナの何気ない提案ではあるが、これは案外貴重な体験となりそうだ。


「エルフの里かぁ。ちょっと行って見たかったのよね……グスッ……」


 思わぬダメージを負った結衣も、二人の会話が気になってか少しずつ元気を取り戻してきたらしい。 きっと素敵で綺麗なエルフが沢山いるに違いない!! と、期待に胸も膨らませているようだ。後は物理的に膨らめば結衣も感涙の事態だが、いくらファンタジー世界といえど、そんな奇抜なシステムはない。


「よっし決まりー! フローラも来るよね?」


「私もお邪魔していいんですか?」


 フローラはニーナの森の精霊という話だが、どうやらそれほど頻繁にお邪魔してる訳でもないらしい。


「もっちろん! デュラさんもいこー!」


 ニーナが声をかけて、本日漸く存在確認が出来たアンデッドは門の外で微動だにせず、ボロギルドのオブジェとして違和感なく一体化していた。特に意味はないが本人の希望もあって、武達がギルドにいない間は毎日こうして門番をしているのだ。


 そんなデュラさんも誘ってみるニーナだが、手に持った首を横に振って申し訳無さそうに断りを入れられた。


「私はここでギルドを守らねばならん。それにエルフの里に踏みいれば、流石の私も消滅してしまうからな」


「そっかー残念……じゃあ四人でレッツごー!」


「消滅!? 結構危ない単語聞こえたよニーナ!?」


「そうか……馴染んではいたがデュラさん魔族だもんな。踏み込んだだけで消滅とかヤベェな……やっぱ聖域だから? 俺大丈夫だよね? 俺って純粋だから大丈夫だよね?」


「ん~……多分大丈夫だとは思う」


 考えてからのやや自信無さげな答え。

 招待されて行くのに、武にも消滅の危険が僅かながらにあるらしい。


「エルフの里で死ねたら本望か……」


「何なの結衣のその絶対的なエルフ愛」


 結衣にとっては王都よりも行きたかった場所らしく、危険な可能性は二の次らしい。結局いざ出発ッ!!って事で、ニーナに流されつつ、ギルド職員一行はエルフの里にお邪魔する流れになった。


◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆


 エルフの里は倉元家の近くにある森を抜けた更に奥にあるらしく、フローラによる結界内にて多くのエルフが生活をしているらしい。


 森の中を談笑しながら進み、少し辺りが開けてくると綺麗な川が目の前を流れ、その奥にまた大きく広大な森が見えてきた。バラスティア国の一部を占める森、ノアの大森林だ。


 秋も間も無く終わりという時期だが森は綺麗に色付き、冬目前にしては暖色立ち並ぶ圧巻の光景である。


「ウハー! こりゃ壮観だな! こっち側全然来た事無かったや」


「こっちの森と雰囲気全然違うねー! すごー!」


「えへへ、あの向こうがエルフの里だよー!」


 ニーナが指差したのは、川とその森のそのまた先。やや今の場所から見下ろす形で、川を隔てた森は右に左に果てしなく続いている。

 聖域だから踏み込めないという以前に、あると知らなければ見つけるのも難しそうだ。


「この森の奥にこんな綺麗な川もあったんだねぇ。全然知らなかったよ」


「たどればこの先は海でもあるんかね。王都に行くのと変わらんくらいの距離にあるんだったら、是非とも行ってみたいな」


 流石に若干の肌寒さのある、冬を迎えそうなこの時期は勘弁だが、暖かくなったら獣車を借りて探索でもしてみようと、武はまた一つの楽しみを増やした。


「あ、私の家はあれですよぉ」


 ニーナの次にフローラが指差した先には一際目立つ、大きな大樹があった。正直、わざわざ教えて貰わずともあれが神木だなと、誰でも分かるほどずば抜けて大きい。流石に雲まで!とはいかないが、例えて言うなら雲にも届きそうだ。


 あの一本の大樹が堂々と佇んでいるだけで、実にファンタジーっぽい光景である。


「じゃあいこっか皆ー!」


 そこから再びニーナが先導し、川に掛けられた丸太の橋を渡ろうとしたところ、武の耳に何やら大自然に似つかわしくない呻き声が聞こえた気がした。


「ん?」


 お陰で武の足はピタリと止まる。


「どったの?」


「いや……何か聞こえないか?」


「んー……そぉ? ユイは聞こえた?」


「何が?」


 武は皆を見るも、誰も聞こえた感じではなさそうだ。


「勘違いだったか? カエルとかの泣き声だったのかな」

 

 今日も耳当てをしてるとはいえ、エルフであるニーナが聞こえていないのだ。きっと空耳だったのだろうと飲み込み、武は止めた足を再び動かそうとすると


「たす……だれ……」


 今度はさっきよりもハッキリとした声が武の耳に届いた。


「ほら!」


「私も何か聞こえた!」


 しかも恐らく救助を求めるような声だ。

 武と結衣は慌てて丸太から降りて、川岸の近くからうっすら聞こえた声を頼りに捜索すると、何やら人影らしきものが川辺で倒れているのが分かった。


「誰か倒れてる!?」


 ただ何か様子が変というか……そのシルエットに少々違和感がある。誰かが倒れているのは間違いないのだが、その倒れた人の上で何かが蠢いているように見えるのだ。


「なんか襲われてない!? 魔獣か!?」


「大変じゃない! 助けなきゃ!」


 とはいえ、二人は魔法を使えない。

 しかしだからといって見捨てる訳にもいかず、武はダメ元で落ちてる流木を掴みとり、デュラさんを地面にめり込ませて以来、久方ぶりのアタック・オブ・廃材を食らわせるべく突撃救出に走り向かう。


「うぉぉぉぉぉぉ―――――ッ!! 戦う従業員さんをなめるなオラァァァァ!! 大丈夫ですかぁぁ! 今助けま……なにこれ」


 声の主に近付くにつれて、何故か武はジワジワと減速する。思わず何やってんのよ!と怒号を入れる結衣も、直ぐ様武の隣で立ち止まった。


「……カニ?」


「カニだな」


 蠢いていたのは魔獣ではなく、倉元家でも必需品として活躍する大量の小さなカニ―――――バブリークラブだ。

 それがうつ伏せで倒れる人の上で、泡を吐きながらツメを回して踊り狂っている。


 そしてどうやらそのディスコっている大量のバブリークラブの下敷きになって埋もれてる人から、先程の救助要請が漏れているらしい。


「あぁ……誰かー。あー誰かー。助けてくれるお優しい誰かー」


 武達の気配を感じてハッキリと助けを求め始めたが、変に演技がかって胡散臭い。無反応が不安なのかチラチラとこちらの顔色を伺い、絶対に逃すまいと片腕はちゃっかり武の靴を鷲掴んでいる。


「………………」


 武がブンブンと振り切り離して数歩後退すると、「あっ」と小言を漏らしてズリズリと這いずり再び掴みにかかる。


「助けて結衣」


「助ける側から劇的に転身したわね」


 和服のような格好、長髪銀髪を束ねるかんざし、鞘有の刀をさげてるので、女性騎士あるいは侍という感じではある。


 だが―――――


「変な人だ。ここまで来といてなんだけど、関わるのはよそう」


 撤退。


 こういう衝撃的な出会いは悲劇しか生まなさそうだと、なるべく日常を穏便に過ごしたい武としては撤退1択だった。


「あぁぁぁぁ…ぁれ? 無視!? ちょっと!!」


 武以外の3人とも同じ空気を察したらしく、反論するものは誰もいなかった。ニーナとフローラに関しては、無邪気に川原で遊んでいる。


 これは本能に従うべきだ。それなのに、この這いつくばる人は全然武の足を離してはくれない。


 ―――見た目の状況より全然力残ってるよこの人!!


「2度見くらいして下さいよぉぉぉ! お願いだよぉぉぉぉ!!」


 割と強引にズルズルと引きずっても、全く離れる様子はない。


 ―――えぇぇい! なんだこの人!!?


「なんですかもう! 俺ら暇なんですから邪魔しないで下さい!」


「無情!? 偽善でいいから善意見せてよぉぉぉ!!」


「断るっ!!」


「わぁぁぁぁぁん!!」

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