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第046話 理想的ファンタジー

 合流してまだ一時間と経過していない異例の竜討伐に、詩織の強さをよく知る三人でさえも開いた口が塞がらない。


「では私は次の依頼へ向かいますね~。お疲れ様でした~」


「「「…………」」」


 ちゃっかりお肉を抱えて、転移魔法で消えゆく主婦に無言で手を振り見送る三人。そのあまりの呆気なさに、洞窟内に乾いた笑い声が響き渡った。


「アハハ………はぁー……斬ったの見えた?」


「いーや、サッパリやな! いつものように気が付いたら……これやもんな。ほんま、シオリには敵わんで。なんやねんあれ。カカカカッ!!」


「ワシはあれを叩き上げた鍛冶師が知りたいわい。竜骨すら軽く寸断するとはのう」


「凄すぎだよしおりん包丁」


「そんなダサい名前の魔法やないやろ」


 毎度ながら称賛に値する感想しか漏れてこなかった。

 出会った時から、スマートで美しい詩織の戦いぶりには頭が下がるのだ。


「うちに入ってくれないかなぁ……しおりんならリーダー譲るのにぃ!」


「こんなアホやなくて、シオリがリーダーなら俺も満足なんだがなー」


「もう怒る気力も沸かないや」


「あれで気飾らないのは恐れ入るわい。強者の余裕は幾度となく見てきたが、シオリ殿は別格じゃな。王国騎士も真っ青じゃわい」


「なんで冒険者やらないんだろね?」


「旦那が既になっているからだろう? 確か前にそう言ってたで?」


「あっ……そっか! じゃあどっちにしろリーダーになってもらうの無理じゃん!! くぅーっ! きっと旦那さんも強いんだろうなー!」


「さて……ギルドに報告に行くかのう。ちゃんと牙と爪は取っておくんじゃぞ?」


「あいあい。あーぁ………にしてもしおりんの事、誰にも言えないのはむず痒いよねー。あぁー! 言いたいっ!! 皆に知って貰いたいっ!」


「それが契約だからな。強すぎると色々厄介ごとも多いんやろうさ。お前が言い振らしたら、多分二度と会えないかもやで?」


「分かってるよーぅ。ホント綺麗だし格好いいよねぇ」


「シルバーモンキーとはえらい違いやで」


「それは言わないでってのぉぉ!!」


「アババババババババババ!?」


「まるで無法者アウトローみたいじゃのう。監視者クラウドアイというやつは」


 3人の余談に、枯れとは無縁な程に花が咲く。

 そんな話があるとも知らずに詩織は次の仕事、そして次の仕事へ移り飛び、似たような周りの反応をやり過ごしている内に、やがて夕刻を向かえた。


 パートタイムを無事終えて、途中川へ立ち寄りバブリークラブを採取。その後ササッと市場で買い物を済ませると、念願の我が家へ帰還する。


「ただいまー!」


「ままー!」


「ピィー!」


「お疲れ様ですー!」


「すぐご飯つくるからねー」


 指輪を再び付け替え、詩織は完全主婦モードに切り替えると手早くエプロンを着用し、バタバタと主戦場キッチンへ足を運ぶ。


 そして時折、リリィがリビングでブッブに炎を吐く指導をしている姿を楽しみながら、手に入れたばかりの食材達を異空間から取り出し、ズラリとキッチンに並べ始めた。


「違いますよブッブー。もっと体を伸ばして、気管を真っ直ぐです! 喉ではなくお腹から出さないと! 歌と同じですよっ!」


「プァ……プッ……ケプッ」


「けぷっ」


 ブッブの隣で、櫻もリリィ先生の指導を熱心に聞いているようである。


「やれやれ、まだ蝋燭に火を灯すのも無理ですねぇ。姫は可愛いから全然オッケーです!」


 その後も、リリィの激甘指導は続いた。


「さてと……皆帰って来ちゃうぞ。ほいっほいっほいっ!」


 そんな光景を微笑ましく思いつつ、詩織は朝に決めたメニューと追加の食材を胸に抱え、いざ調理を開始。本日のメニューは皆大好きハンバーグ、結衣のリクエストに答えてポテトサラダ。後は野菜のスープにバケットだ。


 ハンバーグには早速水竜のミンチ肉を使用、ポテトサラダには噴煙地帯で採取した鬼芋と亮平御用達の肉屋のハム、スープは市場で買った季節野菜に水竜の骨出汁、バケットは詩織のなんちゃって自家製パンだ。


 それら全てを効率的に作り上げ、段々と香ばしい匂いが漂い、リリィのヨダレが駄々流れになってきた頃。玄関外から小賑やかな声が聞こえてきた。どうやら、皆が帰ってきたようだ。


「ただいまー……んお!? なんか滅茶苦茶いい匂い! さては今日はハンバーグかお袋ッ!?」


「りぃー!」


「さくらちゃーんただいまー!! あぁ……疲れがとれる……」


「た……ただい……グフッ……」


 一人だけ満身創痍なのは、いつものこと。

 しかしそれさえも未だに可愛いと思い続ける詩織が、別に渡しても問題ないお小遣いを出し渋って楽しんでいる事を、亮平は全く知らない。


「おかえりー。今日はハンバーグにしたからねー。武大正解~」


「ひゃっほーい! テンションあがるぅー!」


「私もお腹ペコペコですぅ……」


「ふふっ。もう少ししたら出来上がるから、くつろいでてねー。お風呂先に入ってても大丈夫よ~」


「「「はーい」」」


 皆がくつろいでいる間に、詩織はラストスパートをかけて料理を完成させると、武と一緒に料理を食卓へと並べる。


「うわ滅茶苦茶うまそッ!! これもう持ってって良いの?」


「助かる~。今日は果実絞りもあるから、それも持っていってー」


「あいよー」


 総勢7人の大所帯。作りがいのある量に一切の手抜きなく、綺麗に並べられたテーブルの脇に、風呂から上がった亮平から順に腰を据えていく。勿論全員揃うまで、つまみ食いは厳禁だ。


 料理が温かいままなのは言うまでもなく、詩織の些細な魔法のお陰。全員座るまでその魔法が解かれる事はない。ゆがて全員が席につくと、詩織の合図で全員が手を合わせる。


「ではでは、お手てを合わせて下さい。それでは皆さんご一緒に~」


「「「いっただっきまーす!!」」」


 家族で食卓を囲む事こそ、詩織にとって何よりの幸せであり、小さい頃からの夢であった。血が繋がらずとも家族が増えた喜びは、嘘でも偽善でもなんでもない。詩織の理想がこの世界にもあった。


「うまーっ!? なにこのハンバーグ!? 天才じゃん!? お袋、明日の昼の弁当これでハンバーガー食いたい!」


「ポテサラも最高だぁ……美味しすぎる……ありがとうございます詩織さん~」


「んまい……もぐもぐ……んまいんまい」


「げふっ……。ブッブ、そのお肉、私が食べてあげても良いですよ?」


「モグァッ!?」


「んまっ!」


 そんな心暖かい時間は瞬く間に終わり、やがて静寂に包まれる倉元家。


 詩織は本日の仕事を無事にやりきり、全員の寝顔を確認すると、月明かりのみでグラスにワインを注ぎ、外を眺めながら椅子に揺れる。


「……非現実ファンタジーねぇ」


 明日も、異世界主婦の朝は早い。

ー 詩織とお芋 ー


よいしょー……ふぅ。ここは誰も来てないのねぇ。お芋がたくさんあるのに勿体ない」


『グルル……』


『ピギャァァアァ!!』


『グゴォォォォォォォ!!』


『キシャァァァ!!』


「何で誰も来ないのかしら?」

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