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第038話 アットホームな職場

「じゃあ折角仲間も増えたんだ。遠慮なく隅々まで掃除するために分担しよーう!!」


「「「「おぉーー!!」」」」


 四人で穴の空いた情けない天井に向かって拳を掲げ、いざギルド職員一丸となって昨日の作業の続きを開始……しようと思ったのだが


「あれ? 四人? えーっと……俺、結衣、ニーナ、デュラさん……一人足りねぇな?」


「ガンバレー」


「やっぱ貴様か青虫。今日は一緒に掃除するって言いましたよね?」


「虫とは酷いな」


 応援してるのか降伏しているのか、チャーハンに刺さるような白旗をパタパタと振りながら応援するギルドマスター。

 壊れたベンチでうつ伏せのまま、こちらを見る気配すらない。


「一体誰のせいで、無駄に頑張る羽目になってるのか分かってるんですかねこの人。 あんたが綺麗にしとけば、本来要らない作業なんですからねこれ」


「そっか」


「全然響いてないの滅茶苦茶腹立つな」


「ところで………その金髪の子だれだ?」


「もう忘れとるッ!?」


 ついさっき自分で採用したばかりだというのに、アイリスはまだ寝ぼけているのか、夢と現実がごっちゃになっているようだ。しかしニーナは特に気にするでもなく、アイリスに二度目の挨拶を交わした。


「やっほー! ニーナなーん! よろしくー!」


「ふーん………………よし採用………あれ? デジャブかこれ?」


「実際にさっき終わった現実ですわ!! デュラさんの説明ももうしないですからね!」


「…………タケルの話なんか適当に聞いてたけど、お前マジでデュラハンだったのか」


「今適当つったかおい」


 武はイラりとしたが、話半分に信じきっていなかった流石のアイリスも、デュラハン相手には警戒しているらしい。


「いかにも。今日から本格的にタケル様の野望に加担する故、必要とあらば貴様も排除する」


「……ね? いい奴でしょ?」


「こっち視点滅茶苦茶物騒なんだが? しかしまぁ……庭でマンドラゴラしてた奴に負けるのは、スライムでも難しいか」


「ほう? ならば試してみるか?」


 どちらもその場を動かないが、早速威圧を掛け合う二人はバチバチだ。とはいえ元冒険者と魔族が相対する構図なので、お互い当たり前っちゃ当たり前の反応である。


 だが、このままここで暴れられるとギルドが更にハチャメチャになりかねないので、武は手早く二人の仲裁に入った。


「はいはいそこまでー。頼むから、これ以上ギルドを散らかしてくれるなよ」


「むっ……承知した。タケル様の優しさに免じて、今日は消さないでおいてやる」


「物好きな魔族もいたもんだな。大人しくしてるなら私も砕かないでおいてやる」


 フンと互いに目を反らす二人は、実は相性が良いのかもしれない。


「うんうん。じゃあ、これで心置きなく皆で掃除が出来るな」


「頑張れよ」


 モゴモゴ言って聞き取りにくいが、アイリスはそんな感じの事を言っている。当然微動だにしない上に、今日もまた武の昼飯が遠慮なく食されている。殆どご飯を食べる時にしか動かないので、相変わらず燃費の悪さはピカイチだ。


「……今から掃除しますよアイリスさん」


「頑張れよ」


「なんだこの確固たる強い意思」


 可愛い職員の士気を上げるとかいう気概は、微塵もないらしい。


「凄いだろ」


「何故ドヤれる」


「ねーねー! せっかく今日は天気良いから、私はお外の掃除してよい?」


 一方、突発的な採用の割りにノリノリなニーナは、非常に頼もしい意気込みだ。ちょっとくらいその意気込みを、そこの昼寝虫に分けてやって欲しいものである。


「もちろん。でもかなり広いし草も遠慮なく生えてっから、無理して今日中に終わらせなくていいからな?」


「りょーかいっ!!」 


「あと訳あって、俺と結衣は愛以上に深い絆で結ばれて離れられないから、ニーナはデュラさんとペアでやってくれるか?」


「そうなん? おっけーい!」


「いい加減スライム口に詰めるわよあんた」


「俺もスライムも可哀想だからやめてね。良い子だからそのスライム地面に返してあげようね」


「じゃあデュラさんお外いこー!!」


「承知した」 


「ちょっとニーナ! 誤解したまま行かないで!?」


「へ? まだ五回も掃除してないよ? じゃあお外綺麗にしてくるーん!」


「そーじゃなくてぇぇぇ……あぁ……行っちゃった」


 てことで、お外はデュラさんとニーナ担当。

 室内は武と結衣が担当という事になった。


「よし。んじゃ仕事しま………むごぉぉぉぉっ!?」


「ワタシ、オマエ、ユルサナイ」


 あと、結局武は結衣にスライムをねじ込まれた。


 ひと悶着あったものの、武と結衣は順当に瓦礫の山をかき分けつつ、一階エリアはかなり歩けるスペースが多くなった。更に厨房や階段までもたどり着けるようになり、開かずの奥の扉も無事解錠。ここは何もないただの空部屋だったが、職員の休憩部屋には使えそうだ。


 その後本棚をこの部屋に移動させて、とりあえず雑巾がけは後回し。まだ椅子も机もない寂しい部屋だが、穴の空いていない空間というだけで妙な安心感があるものだ。


「うん。これぞ室内ってやつよね。結構広いし綺麗にすれば使い勝手良さそうだわ」


「ふぅ、ここは従業員スペースだなっと……窓開かねぇな……ん?」


 部屋にある窓は外壁に這う植物のお陰で、開閉はまだ出来そうにない。僅かな隙間からはいつも刈り込んでいる中腰以上の草が生い茂っているが、その所々で草々が宙に舞い上がっている様子が確認出来た。


「ニーナ達か。魔法でも使ってんのかな?」


「森っ子だし手入れはお手の物なんじゃない?」


「言えてるな」


 初日で頑張る二人には負けていられない。

 武と結衣は良い刺激を貰ってそのまま部屋から出ると、中央付近から伸びる階段前へと足を運ぶ。しかし登り降りするには、この雪崩後のような惨状を整地せねばなるまい。


「遂にここまできたわね……念願の二階。この大量の蜘蛛の巣もどうにかしたいし、何より埃が嫌だわ」


「いよいよ二階の荷物を一階に下げるかぁ。未知の探求はワクワクするよホント」


 武は笑いながら皮肉っぽくそう言うと、手前の瓦礫から崩さないようにジェンガの如く引き抜き、少しずつ確実に運び出していく。階段自体は結構しっかりした作りで、全くではないが壊れていないようだった。


 そしてコツコツ作業すること約三時間、二人は無事山頂に到着した。


 二階の広さは一階の半分ほどで、残り半分は吹き抜けだ。二階というより巨大なロフトといった感じだろうか。両端は向こうの壁まで真っ直ぐと廊下が伸び、その廊下にはまだまだギッシリと瓦礫が山積みになっている。


「……今日中に無理なのは明らかね」


「俺の傀儡掃除師パペットクリーンマスターの目覚めに期待してみる?」


「目覚める前に一日が無駄に終わりそうだからやめとく」


「俺もそう思う。しかしあの荷物の山にモンスターとかいないだろうな? スライム程度ならいいんだが、中途半端に強いとかやめてくれよマジで」


「え、やめてよ。変なフラグ立てないでよね……」


「この俺のアタックオブ廃材(釘つきver)が効けばいいんだが。まぁでも室内はアイリスさんもいるし大丈夫……」


「え? 私が王女にぃ? へへ……むにゃ……」


「「…………」」


「ダメだっ!!! 分かりやすく寝ぼけたアレは頼りにならないっ!!」


 別に嫌がらせしている訳ではないものの、これだけガチャガチャうるさいと渋々でも手伝うかと思ったのだが、アイリスの眠る意志が強いのか、それとも働く意志が弱いのか。仮にこの場が爆発しても、あの虫は目覚めそうにない。


「眺めてても終わらないし、さっさと始めるわよ!」


 結衣は最初から諦めているらしい。


「おっけーい」


 最初は物陰に隠れたゴキブリにでも怯えるようにビクビクしながら荷物を下ろしていた二人だが、特にフラグの回収もなく、モンスターが出る様子も無かった。お陰で廃材やら机やらボードやらを、順調に一階へ下ろす事が出来たのは嬉しい流れだ。


「にしても何したらこんなに荒れるのかなぁ」


「さぁね。グータラの気持ちは分からん」


 とはいえ、確かに結衣の言う通りで荒れすぎな気もする。

 しかも所々に血痕みたいな生々しい跡もあるので、ここで殺人事件でもあったんじゃなかろうか……と、思える程だ。ここにある机や椅子もわざわざ二階に置く方が面倒だろうに、壁に刺さった材木片も、全て下から上に向かって斜めに突き刺さっている。


 まるで一階にあった家具全部が、魔法か何かで乱雑に吹き飛ばされたような有り様だ。


「グータラに関しちゃ、タケルも結構似たり寄ったりだと思うけどね」


「いやいやここまで極めてないって。それに俺は、お袋譲りで結構掃除は好きだぞ? 気持ちも晴れやかになるからな」


「脳みそファンタジーな奴でも何かしら取り柄があるものね」


「幻想的って意味の言葉なのに何でアホっぽく聞こえるんですかね」


 その後も雑談を交えつつ荷物をどけていると、遂に顔を出した廊下の窓から一筋の光が一階へと差し込んだ。


「「おぉ~」」


 これぞ正しい光源といえる。天井から差し込む光など無意図の産物だ。結界があるとはいえ、無数のみすぼらしい穴など必要ないのである。


「いいね。やっぱ窓が見えただけで解放感が全然違うな」


「早く天井の穴も塞ぎたいねぇ」


 窓から伸びる光は、吹き抜けを突き抜け一階を照らし、狙ったようにベンチまで届いていた。そしてそこには今まで光がマトモに当たっていなかったらしく、アイリスは予期せぬ攻撃に若干のダメージを受けている。


「んぉっ………んむっ………くぅ………ッ」


 窓からの入斜角はバッチリで、まるで天然レーザーが無動の青虫を襲っているようだ。


「動いているというより、うごめいているって表現がお似合いだなありゃ。流石青虫だ。早く羽化しねぇかな」


「今までで一番動いてない?」


 やはり引きこもりに太陽は効果てきめんらしい。どうやらアイリスがあのベンチを気に入っている理由は、一番太陽が当たらない隅っこだったから……というだけのようだ。


「ぬぐぅ……まぶっ……ちょっ……陽射しは……溶けるぅぅぅ」


吸血鬼バンパイアかなんかじゃないだろうなあの人」


「夜も動かないしどうかな……トマトも嫌いみたいだし」


「あはぁぁぁぁ……目がぁぁぁぁ……この世界なんか闇に包まれろぉぉぉぉ……!」


「大変だ。うちのマスターがダークサイドに落ちたぞ」


「落ちてもする事変わらなさそうだけどね」

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