第010話 武の魔法
「なんだあるんじゃん! そーゆーのあるんじゃん! なんだよもー! 全部許す!!」
お陰で気分は絶好調。
声色も踊るくらいにすっかりウッキウキである。
『チョロ……急に生き返ったわね。まぁ気持ちは分かるけども』
「で、触ればいいのか?………爆発とかしないだろうな?」
『そこまで女神逸脱してないわよ私』
ここまで逸脱していたから不安なのである。
しかし、遂に魔法が使えるともなれば、不安よりも好奇心の方が勝るというもの。緊張感を持ちながらも軽い笑みを溢す武は、光る玉へ恐る恐る触ろうと手を伸ばす。
すると光の玉は武が触れるその前に、勢いよく胸に向かってそのまま吸い込まれるように体の中へ消えていった。
「うぉっ!? 触る前に向こうから来ましたが!? うぇっ!? どこ行った!?」
驚く武は身体のあちこちを触るも、特におかしな変化はない。うっかり自分の身体から後光でも差し始めたらどうしようかと思ったが、今のところは大丈夫のようだ。
『はははっ、気に入られたらしいね。なによりで良かったよ。これで君も魔法が使えるようになった訳だ』
「マジか! 魔法いけるのか!! キタこれ!!」
こーゆーの!
こういう展開が欲しかった訳ですよ!
『フッ………単純な奴め』
「あ?」
『お~っと、そろそろ時間が来たようだ! それじゃあ起きたら使ってみるといいよ。んじゃっ! 私は宴会に行くから! 少しは楽しむがいいさ!』
どこまでのお気楽な女神は、何も懲りずにこれからまた酒を飲むらしい。戒めの為に暫く禁酒する考えは、微塵も持っていないようだ。
「自由すぎんだろ……もうこれ以上犠牲者増やすなよ? マジで。えっとー……そうだあんた名前は?」
今後どんな付き合いになるか分からないが一応聞いておこうと武が尋ねると、何故か夢の空間が今日一番に明るくなった。
『おっ? もしかして私を信仰する気になった? フッ………よく覚えておきなさい! 私はいずれ神の頂点に立つ存在! そう、我が名は女神アリア………ゲッ!? 創造主様何故ここにッ!? いやこれは―――――あっ……』
「…………」
まさかのブツ切りエンド。
それ以降、女神アリアとやらの声が聞こえてくる事はなかった。きっと頂点から一番程遠い場所に行ったに違いない。
「雑な終わり方だなおい」
しかしとにかく、これで目が覚めたら魔法が使えるという事だ。ここに来て漸く武にも、ファンタジーっぽい事を楽しめる基盤が整ったのである。
今からワクワクが止まらない。
早く目を瞑って起きる事にしよう。
そんな事を思いながら、武は再び自分の暗闇へと落ちていった。
◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆
目覚めると日は登り、すっかりの朝。
体を起こすと広大な自然を挟む綺麗な町並みが、武の自室である二階の窓から覗き見える。
ありきたりではあるが、異世界というよりまるで海外みたいな美しい光景だ。寝起き一番にこの景色が見れるというのは、正直言って気持ちが良い。
「景色は良いよなぁ………ふぁぁ………………………んっ?」
と、グッと背伸びをする武はふと夢のことを思い出した。
ハッキリ覚えてる所を見ると、どうもただの夢ではなかったのは明らかのようだ。
「そうだ! 魔法!!」
しょうもない夢の中での語り合いで、唯一心踊った最後の希望。武は自分の体の中に、昨日までとは違う明らかな変化を感じていた。
コレが俗に言う魔力という奴か、MPとされるものかもしれないと。自分の中にストックされる新たな力を確かに感じ、近い所で言えばなんというか満腹感に近い不慣れな違和感に思わず顔がニヤける。
急に手に入れた『力』だけにまだ慣れは無いものの、どうやら声主の言う通りに魔法を使えそうな予感だ。
ならばと息を鳴らす武は二階の部屋から階段を駆け降りた。
「おっはよーう!」
「おはよー。あら、今朝は随分元気ね。良い夢でも見たの?」
「んにゃー! どっちかっつーと悪夢ー!」
「悪夢? ほんとか? 武ももう16だし、夜中に何かモゴモゴ言ってるからお父さんてっきり一人で―――――」
「シャラップ!!」
そう言いながら、朝ごはんを作る詩織とデリカシーを忘れた亮平に軽い挨拶を済ませて流れるように外に飛び出すと、武は家の裏にある森でさっそく魔法とやらを念じてみる事にした。
「これで俺も遂に魔法使い………ヌフフフ」
遂に来た自分の時代の訪れに、怪しい笑みが溢れる。
魔法の出し方なんぞ知らないが、なんかそれっぽくポーズを取ったら出るものなのかと、武は意気揚々に両手を前にかざし出した。
「むむむぅ……でろーでろーでろー……魔法でろぉぉぉぉぉ!!」
夢ではミスったけど今度はいける。
炎、水、雷、風、土、氷、思いつく限りのベタな魔法を胸に秘め、謎の力を全面的に放出した。
「おぉ………おぉ! おぉっ!!?」
すると風が次第に吹き荒れ、武のすぐ目の前の地面に巨大な魔法陣が展開。その陣を中心に風が纏い、次第に魔法陣の光りも強さを増す。
「………キタキタキタぁ!!」
これは誰がどう見ても魔法だ。
同時に魔力が吸われて無くなるような感覚に苛まれていると、ふとした疑問も沸いて来る。
「……あれ? でもこれってなんの魔法だ?」
その肝心な能力について、女神から聞くのを忘れていた。
確か一点物とは言っていたが……はて?
「風が纏っているからやっぱ風の魔法か………んっ?」
そう思った矢先、天から強力な光が魔法陣をめがけて落ち、武の目の前で爆風と爆煙をあげる。
ズドォォォォォンッ!!
「のぉぉぉぉぉぉっほぉぉぉぉぉ!!?」
想像以上に強力な爆風で飛ばされる武はゴロゴロと転がり、たまたま近くで遊んでいた櫻と妖精は、とっさに魔法の防護壁を作り出す。
「姫っ! 下がってくださいっ!」
「あーい」
微笑ましい。
………とか言っている場合ではない。
妖精の機転で二人は無事のようだが、武はすっかり草まみれの土まみれ。気が付いた時にはすっかり世界は逆さまだった。
「…………ぶはっ!? イヤイヤイヤ!!強力だけど死んでまう!! 下手すりゃ術者が死んでまう!!なにこれ、距離数メートル手前で魔法発動とかアホか!!?」
これはもう、ほぼ自爆と言って良いだろう。
文句を言いながら飛び起きる武はゴミを払い、改めてその事故現場を垣間見る。
「自分のMPっぽいのも残ってないし、なんか体がスースーする。これはハズレだな……あの野郎よくも……」
と、今だに土埃舞う爆風が起こった場所に目を移すと、何やらその奥で人影が見えたような気がした。その瞬間、武の身体からサッと血の気が引いたような感覚に襲われる。
「ッ………やば!! 人巻き込んだか!?」
それはマズイ!!
そう思って地面を雑に蹴飛ばし駆け寄り近付くと、さっきの爆風の割には森の木も倒れていない事に気が付いた。
お袋か櫻が何かしたのか?と思った武だが、どうも違うらしい。
やがて土埃をかき分けきった武は立ち止まり、眼前に現れたその光景に酷く戸惑う事になった。
「うそ………マジで?」
先程の魔法陣の中心には、見知らぬ女の子が腰を抜かしたようなキョトンとした顔で座り込んでいたのだ。
「はぇ?」
そして彼女の服装を見て、武は直ぐに悟る。
どうやら自分の魔法は攻撃魔法ではなかったらしい………と。
「けほっ……ここ……どこっ!?」
あぁ……この女の子の反応は見覚えがある。懐かしいと思うにはあまりにも早すぎる、見たことのある反応だ。
そう、どうやら武は―――――
「「んんっ!?」」
異世界召喚された地で、異世界召喚してしまったらしい。
ー 妖精と櫻 ー
「姫大丈夫ですかー? 爆風ビックリしましたね! お怪我ないですか!?」
「んー……あいっ!」
「うーむ……あるんでしょうか……? ないんでしょうか……?」