『再会と再開』 4
『空間魔術』の魔術、『転移』には、面倒な特性がある。
まず1つ目。
それは、距離と重さによって必要な体力が大きく変わってくるという事。
距離が伸びれば伸びるほど体力が必要になる。
重さも同じく、重くなればなるほど体力が必要になる。
今の俺の限界は、距離だけなら約1km。
重さだけなら約30kg。
重さの方が体力を使うため、俺の体重は20キロと少しであるのを踏まえると、結局移動できる距離は10メートル前後が限界である。
2つ目。
自分以外を転移させるには、倍の体力と、直接触る必要があるという事。
自分以外の誰かや物を『転移』させるためには、俺が『転移』する以上の体力が必要になる。
前述を踏まえて大雑把に言えば、距離は500mが限界だし、重さに至っては15kgが限界となる。
加えて、触れる必要があるため、遠くのものを引き寄せるなんてことは無理だ。
・・・まぁ、『空間掌握』というものを習得できれば話が変わってくるみたいだが。
その習得ははるか先らしい。
そして、最後。
3つ目。
『転移』はあくまで『移動』であるという事。
『魔素』によって、体を超高速で運んでもらっているだけなのだ。
つまり、密室や、地面の中など、そういった場所に『転移』することは不可能なのである。
もし、やろうものならトマトである。
まぁ、危険があったら『魔素』が勝手に止めてくれたり、そもそも発動しなかったりするので、そんなことになる事はほぼ無いと言っていいだろう。
という面倒な特性を持つ、この『転移』。
だが、それでも『転移』。
面倒だが、便利ではあるのだ。
「「『転移』!」」
『アロサール家』『2階玄関』。
そこから外に出た俺とコルザは、回廊の上で『転移』を使用して空高くまで飛んだ。
やはりコルザの方が体力があるらしい、俺よりもはるか上空に『転移』している。
「さぁ、フェリス!場所は覚えているかい!?」
「『東区』『ゴミ山』だろ!」
「正解! とりあえず『南門』から入るからしっかりついてきなよ! 『転移』!」
15メートルほど遠くに『転移』したコルザ。
彼女はもっと早く『転移』できるはずだが、恐らく俺を待っていてくれているのだろう。
俺は、『転移』の再使用にはまだ少し時間がかかる。
数10秒だが、戦闘では命取りだ。
気を付けて使わないとならない。
「『転移』!」
コルザを追いかける。
それを何回も繰り返して、『東区』の『南門』にたどり着いた。
見上げるほどの大きな門。
その下、左右に銀の甲冑を着た門兵が2人。
右側の門兵の後ろには扉がある。
さて、『ディナスティーア』は、中心の『ディナスティーア駅』を含んだ円形の『中心街』と、バツ印のように東西南北の区に分かれている。
『東区』は、中を隠すように周辺を強大な壁で囲われ、一般人は簡単には入ることが出来ない。
その理由は『治安の悪さ』と『不衛生さ』である。
元々『東区』は研究都市だったらしい。
『異世界召喚』の『召喚研究施設』があったのだが、事故により周囲一帯が吹き飛んだ。
その、崩壊した『東区』に罪を犯して捕まり、拘留された後、行き場を無くした人々が勝手に住み込んだ。
そんな人たちのせいで、治安が悪化、国王が他の区域に住む人々を守るため、巨大な壁を作って隔離した。
中は、『治外法権』と化す程『治安が悪い』。
その為、立ち入り禁止なのである。
と、言うのは表の理由。
ボカが言うには、『勇者召喚』の失敗によって起こった『大事故』の惨状を隠す為と、前科持ち等の『要注意人物』の隔離。 王族関係者以外への、2度目の『勇者召喚』の隠蔽。 等といった理由があるらしい。
さらに、『東区』は表と裏の事情に加えて、2ヵ所あるゴミ処理場の巨大な『ゴミ山』や、整っていないインフラ整備のせいで『不衛生』な区域でもある。
等々、様々な理由により『東区』は、王の管理下に置かれているのだ。
と言うことで、基本立ち入り禁止。
そんな危険な場所に入るのには、それなりの実力を示し、許可を貰う必要があるが、俺はすでにボカから許可を貰っている。
俺の、今の実力で通用するということなのだろう。
コルザが右の扉の前に立っている門兵に話しかけに行く。
「うおっ驚いた。 こんな場所に何の様だ?」
コルザが門兵に聞かれて答える。
俺は、コルザを追いかけて隣に並んだ。
「やぁ、門を開けて欲しいんだ。 王様からの依頼でね。 言わなくてもわかると思うけど、一応父さんの許可は貰っているよ。 ちなみにこの子もだ」
コルザが、俺の肩を叩いて言う。
「あぁ、さっきの女の子も『雑務隊長』から許可を貰ってるって言って入って行ったよ。 髪が赤くて、ちょっと怖い顔で笑ってたから心配だったんだ。 本当に大丈夫なのか?」
不審そうに見てくる兵士。
なんだ?
失礼だな。
て言うか、その話はサティスの事か?
俺たちの事を疑ってるのか?
よし、それなら、ここで『剣舞術』の1つでも披露して、実力を見せつけてやろうかね。
俺は、腰に左右から取り出せるように下げている2本の剣に手を伸ばす。
右の折れた剣先を鍛えなおしてもらった『短剣』。
左の青いプレートのアクセサリーがつく『直剣』。
『剣舞術』は『短剣』だ。
「あぁ、心配ないよ。 何かあっても僕がいるからね」
「そうか、なら安心か」
・・・良いんかい。
肩透かしを食らった俺はため息をついて手を剣から離した。
俺は、門兵が開けてくれた、後ろの扉にコルザとともに入っていった。
門を開けるわけではないのね。
ちょっと残念だ。
この先にサティスがいる。
やっと会える。
意気揚々と扉を抜け、通路を通り、再度扉を潜った時だった。
「うっ」
異臭に顔をしかめた。
隣のコルザも同じらしく、鼻をつまんでいた。
「『スラム街』は、『ゴミ山』のゴミを拾い集めているうえに、上下水道があの『研究施設の爆発』で破壊されて以来、修繕されていない。 不衛生そのものなんだ。 じきに慣れるよ」
鼻声から、少しずつ元に戻る。
意識しなければ・・・何とかなりそうだ。
「さて、『東区』には北と南で2か所の『ゴミ山』があるんだ。 どっちに行く?」
俺は聞かれて悩む。
『南区』にある『南門』から入ったため、南のゴミ山がちょっと行った所に見えている。
北は見えない。
サティスは多分、目の前から行く。
それなら決まっているな。
「南で」
「了解。 それじゃ、僕は北に行くよ」
言ってコルザは北に向かって『転移』して行った。
俺は徐々に離れていくコルザの姿を見届けたあと、『スラム街』の建物に挟まれた、広い道の奥にそびえ立つ、巨大な『ゴミ山』を見る。
あの先にサティスがいる。
不思議な確信めいた予感があった。
俺は体力温存もかねて、走って『ゴミ山』の麓まで向かった。




