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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第一部 乳幼児期 『1歳編』
9/626

1歳 2

 父たちが戦場に行ってから、早くも季節が春から夏に変わっていた。

 穏やかな日差しは突き刺さるように熱いものへと変わっていて、村人たちも薄着である。

 そんな時期、俺たちの生活に少しだけ変化が起きた。

 それは、少し前から謎に姿を消していたセドロが帰ってきたのだ。

 セドロの隣には青い無精ひげが特徴的なこの世界での俺の叔父、『ボカ』の家にいた栗毛ポニーテールで切れ長な目が特徴的なクールな女性と、俺の従姉であろう栗毛セミロングの幼女がいた。

 クールな女性が『コラソン』。

 幼女が『コルザ』という名前らしい。

 少しだけ口が動かせるようになり、話せる言葉が出てきた。

 その中の『なに?』『だれ?』を駆使して聞いたところによると、俺の聞いていた通り、『ボカ』はブリランテの兄だし、『コラソン』はボカの嫁だ。

 『コルザ』は俺の従姉で正解らしい。

 ぼんやりとした顔で、俺とサティスの世話を焼いている。

 なんでもそつなくこなせるのだろう、俺たちの世話を自身の母やブリランテたちに教わりながらこなしている。

 小さな体でよくやる。

 4か5歳あたりだろうか?

 時折、俺とサティスの頬をつついてくるのは考え物だが。

 さて、セドロがサティスをブリランテに預けて長い間どこへ行っていたのか。

 それはやはり『ディナステーア王国』首都の『ディナステーア』であった。

 目的は一つ。


 『道場』を作るためである。


 ○


 俺はやっと歩けるようになったため、母と手を繋いで歩いている。

 距離的にはいつもの喫茶店までなので慣れたものだ。

 サティスはブリランテの反対の手を握っている。

 周囲が気になるのか常にキョロキョロしていて可愛い。

 首を巡らせるたびに首元まで伸びた綺麗な『深紅』の髪が揺れている。

 サティスの反対の手は『コルザ』が握っている。

 『喫茶店』『トールトロス』にたどり着いた。

 ブリランテに聞いてみたところ、ここはやはり『酒場』をメインにしているらしい。

 昼は『喫茶店』。

 夜は『酒場』。

 俺たち子どもを預かっているのは、儲からない昼の時間に少しでも儲けを出すためだ。

 赤字だったところにブリランテから提案されて始めたらしい。

 ブリランテ自身、俺を生むに備えて預けられる場所が欲しかったのだそうだ。

 店主の初老の男性『ベンタス』とブリランテ二人が教えてくれた。

 ブリランテは俺から手を放してドアを開ける。

 カランッと音が鳴って店内があらわになる。

 と、あれ?

 子どもが誰もいない。

 全員集まることはほとんどなくなったし、酷いときは1人か2人だったが、0人は今までなかった。

 みんな忙しんだろうか?

 「おはよう」

 ブリランテが挨拶すると、奥のカウンターに立っているベンタスが挨拶を帰して親指で奥の席を指さした。

 そこにあるテーブル席に向かい合って座る『深紅』の美しい長髪の女性と、『栗毛』のクールな女性。

 セドロとコラソンだった。

 話が聞こえてくる。

 「さて、この数日で裏の空き地を整えさせていただきました。いよいよ明日からですね」

 そう言っているのはコラソン。

 「あぁ、ありがとう。コラソン。明日から頑張りたいと思う」

 礼を言ったのはコルザ。

 真剣な瞳でコラソンを捕らえている。

 文字が分かるようになり、同じ言葉でも意味の違いやニュアンスの違いなども理解できるようになった。

 大体、みんながどんな話し方でどんな言い方をするのかもわかり、頑張った甲斐もあってか普通の会話のように聞くことができるようになったのだ。

 口がうまく動くようになったら今度は話す練習をして、それが終わったらもう会話ができるだろう。

 そうすればもっと色々な事が分かるはずだ。

 サティスがセドロを見つけて駆け出す。

 「あらあら、サティス、危ないわよ?」

 ブリランテが頬に手を当てながらおっとりと声をかけるがもう遅い。

 ズデンと転んだ。

 見事に顔から行った。

 「ふえーんっ」

 号泣。

 言わんこっちゃない。

 コルザが駆け寄って両わき腹をつかんで立ち上がらせる。

 服をほろって傷を確認する。

 「うん。大丈夫」

 コルザが呟いた時、影が落ちた。

 「サティス!大丈夫か!?」

 酷く慌てた様子で抱きかかえる。

 「ふえーん」

 泣き続けるサティス。

 「気をつけろよ!本当に転ぶことが多くて心配になる!」

 抱きしめて頭を撫で続けるセドロ。

 次第に落ち着いて静かになった。

 が、しかし、今度はひしっと抱き着いて離れない。

 「ぬおっと!?力強っ!」

 離そうとして思ったより力があるサティスに驚くセドロ。

 「ふふっ。きっと寂しかったのよ。なんだかんだで4か月近くも会ってなかったでしょ?」

 「むぅ・・・そんなにか・・・」

 申し訳なさそうに眉をハの字にした。

 そんな長かったのか・・・。

 サティスが寂しがるわけだ。

 大好きな父も母もいなかったのだ。

 最近、夜泣きが酷かったのもそのせいだったのか。

 ここ数か月、サティスの夜泣きに起こされることが多かったのを振り返る。

 その度にブリランテが様子を見に来るもんだから心配になった。

 「ごめんな・・・。ブリランテ。迷惑かけて」

 「いいのよ。これくらい。大したことじゃないわ。それよりもこの子たちがこの先、自分の身くらいは守れるようになってもらわないとって話したじゃない」

 「・・・うん。ありがとう」

 自分の身くらいは守れるように・・・。

 セドロが『道場』を始める事になったのはそのためか?

 セドロはサティスを抱えながら、ブリランテに礼を言って、裏の空き地に向かう。

 もちろん、俺たちもそれに続く。

 そして、空き地にたどり着いた。

 そこにかつての雑草が伸びっぱなしで、地面が盛り上がったりへこんだりしていた空き地は無かった。

 その中心に少年たちが並んで立っている。

 朱色でツンツンした髪で快活な笑顔の少年『デスペハード』。7歳。

 こげ茶色で肩甲骨あたりまで落ちる長髪の、むっとした顔の少女『カリマ』。7歳。

 空色でサラサラな髪のクールな表情の眼鏡美少年『ベンタロン』。8歳。

 桃色ツインテールで嬉しそうに笑う少女『ブリッサ』。8歳。

 黄緑色のマッシュルームヘアーで目元が隠れているが口元は笑顔な双子の少年たち『ビエント』と『アイレ』。ともに6歳。

 濃紺の丸っこい、不機嫌そうな顔の少年『ジュビア』。10歳。

 フードの子『ベンディスカ』。10歳。

 彼らを後方から見守る保護者達。

 今日は母だけでなく父も一緒だ。

 母や父がいない子もいるが。

 さらに奥の柵向こうには他の村人達。

 それらの様子を見てセドロが一度立ち止まる。

 ブリランテがセドロからサティスを貰う。

 「・・・私に務まるだろうか」

 不安そうな顔に、自信の無い声音。

 ブリランテは優しく微笑んでセドロの背に回る。

 「何言ってるの!貴女だからお願いしたのよ!それに、『道場』の『先生』は」

 言いながら背中を強く叩く。

 

 「貴女の夢でしょ!」


 パンッと大きな音が響いて静寂に包まれた。

 「・・・あぁ。そうだった。そうだよ。ちょっと、突然のことだったから忘れるところだった。そうだよ、これは私の夢なんだ」

 待っている人たちに向かって一歩踏み出す。

 「救われた私が一人でも多くの人を助けて、恩をあの人に返す」

 もう一歩。

 「そのための大きな一歩」

 さらに二歩。

 「大好きな人が近くにいてくれて」

 振り返って両手を広げる。

 視線はブリランテ。

 身をひるがえして前を向く。

 美しい『深紅』の長髪が後を追って弧を描く。

 「大切な村のためになって」

 駆け出す。

 「これ以上に幸せなことはない!」

 ダンッと飛んで上空。

 「うじうじしてらんねぇな!」

 ドンッと着地。

 上がる土煙。

 その中心でゆっくり立ち上がる。

 「・・・しょうがないんだから」

 嬉しそうな笑顔で呟くブリランテ。

 

 「お前ら!『夢』はあるか!?」


 よく通る声が響いた。

 ビリッと緊張感が走る。

 少年少女たちが姿勢を正す。

 ブリランテの腕に抱かれるサティスはいつの間にか母にくぎ付けである。

 「お、俺は家族を守れる力が欲しい!」

 デスペハードが後ろで見守る母に伝えるように一番に答えた。

 「私はこいつに負けたくないです!」

 一瞬ちらっと隣のデスペハードを見たカリマが続いて答えた。

 「俺は憧れを追い越したいです!」

 ベンタロンがここに来ることが出来なかった、後ろに居ない父を思っているのか眼鏡を上げながら答える。

 「わたしは好きな人を支えられるだけの強さ!」

 満面の笑みで隣のベンタロンを見つめながら答えるブリッサ。

 「僕たちは」

 「家族に」

 「手出しする」

 「悪い奴を」

 「「必ず倒せる力がほしい」」

 息の合った返答を見せるビエントとアイレの双子。

 「誰にも負けない強さ」

 ジュビアの短い覚悟。

 「ボクを受け入れてくれた存在への『恩返し』」

 ベンディスカの珍しくもはっきりとした物言い。

 全員の夢を聞いたセドロが深く頷いた。


 「この私、『オブヘディモ・セドロ・グラナーテ』が必ず助けとなろう!」


 手を横に突き出す。

 ブリランテがそれに反応し、空いている右手で何かを引き寄せるように動かす。

 同時にセドロの手に大きめの木の板が現れた。

 それを勢いよく地面に立て、コンッと音を鳴らす。

 

 「『道場』『アルコ・イーリス』明日より創始する!」


 うおぉおおお!

 と村人たちが嬉しそうに手を叩いていた。

 

 「私は夢を叶えたぞ?お前らはどうだ」


 意地の悪い笑みである。

 少年少女たちはもう、うずうずと言った感じだ。

 俺もすでに、一緒に剣を学びたいと思っていた。

 

 ○


 翌日から『道場』が始まった。

 コラソンとコルザは昨日のうちに『ディナステーア』へと戻って行ってしまった。

 『アルコ・イーリス』の少年少女たちは空き地で修練。

 俺とサティスは喫茶店内でその様子を眺めながら遊ぶといった具合だ。

 ラーファガも首が座ったことでひと段落となったが、サティスが多動気味であるためにソシエゴたちの大変さは変わっていない。

 俺がサティスと一緒に遊ぶことでフォローしているが、さすがにこの体では限界がある。

 気づくと怪我を作るサティスを一々あのお医者さんの元に連れて行くわけにもいかないので、毎日どこかしらに傷があるのだ。

 さすがに数日前、窓から母たちの様子を見ようとしたのか、椅子を引っ張って窓までもっていき、上手に上って窓に手をつこうとした際、目測を誤って届かずに頭から落ちた時は連れて行ったが。

 ちなみに、あの緑の髪のおじいさんは医者ではなかった。

 この村の村長だったのだ。

 名前は『プランター』である。

 流れでこの村の名前も知ることができた。

 『プランター村』である。

 つまり、あのおじいさんは『プランター村』の『プランターおじいさん』という事になる。

 いつぞやの緑の髪の青年と、ソシエゴと仲が良さそうだった芋っぽい雰囲気の少女はプランターおじいさんのお孫さんとのことだった。

 青年の方が『セミリャ』で、女の子の方が『セミージャ』と言うらしい。

 セミージャはごくたまにこの喫茶店を利用している。

 ソシエゴに会いに来ているらしい。

 今日はその日らしく、喫茶店でソシエゴと並んでカウンターに座っている。

 俺がサティスの怪我を止めることが多いからか今は談笑しながら俺たちの様子を見ている。

 ソシエゴの母カッハはラーファガの面倒で手一杯である。

 さて、セミージャとソシエゴは同い年らしく、幼馴染と言うやつだった。

 気も合うらしく、楽しそうに談笑していて良かった。

 もちろんこの良かったは安心したの方ではなく、尊いの方だ。

 ソシエゴは元気な笑顔と人当たりの良さ、面倒見の良さも相まってオタクに優しいギャルの雰囲気がある。

 一方セミージャは、まさしく芋。

 しかし、俺は知っている。

 あの丸メガネの奥の顔は整い、とても美しいと。

 垂れた瞳と優しい微笑み、眼鏡をはずしたらたちまち彼女が可愛いという事がばれてしまう。

 そんな少女。

 そんな二人の仲のよさそうな様子は、前世でよく見たシチュである。

 芋っぽいオタク少女と仲の良い優しいギャル。

 これだけでうまいのに、セミージャの顔が良いというギャップもある事でさらに美味しい。

 助かる。

 ありがとうございます。

 「あぁや!」

 ペチッ!

 俺の隣にいつの間にか来ていたサティスがほっぺを叩いてきた。

 「あうち」

 痛い。

 なんて力だ!

 鳴った音と来た衝撃の違いに涙目である。

 「あ!こら!サティス!叩いちゃダメよ!」

 ソシエゴがセミージャとの談笑を止めて駆け寄ってきた。

 「だぁあぶぅ!」

 なんだか怒り心頭である。

 「だぁぶぅじゃありません!まったくもう!」

 「ふふっ。なんで怒ってるんだろうね」

 セミージャがほほ笑みながらサティスを抱きかかえた。

 「わかんないわよ・・・。フェリス?なんかした?」

 聞かれたので首を振る。

 「してない」

 「あややぁあ!」

 ぷくっとほっぺを膨らませて俺を見るサティス。

 なんだというのだ。

 「ふふっ可愛い」

 セミージャが朗らかな微笑みでサティスをあやす。

 いつの間にか嬉しそうにきゃっきゃと笑い始めたサティス。

 「・・・セミージャって、こういうの上手いわよね」

 「こういうの?」

 「えぇ、『治療魔術』の使い手の卵だからかしら?人を落ち着けるのが上手」

 「そうかな?」

 「そうよ・・・だって、去年の『魔獣大量発生』の時もパニックになってた私を落ち着けてくれたわ」

 去年の『魔獣大量発生』?

 あの、巨大なイノシシが村を襲おうとした時の事か?

 「そうかな?」

 「そうよ・・・あなたの顔を見たら安心できたもの」

 「・・・それは、どうなんだろ」

 「え?」

 「ううん、別に」

 とまぁ、微笑ましい会話を繰り広げる二人。

 「それより、ソシエゴ。多分、サティスはちゃんと貴女を好きだと思うよ」

 微笑みながらサティスをソシエゴに渡すセミージャ。

 「え?」

 「さっきの話」

 「あぁ・・・え?なんで?」

 「さっきソシエゴは皆にちゃんと好かれているか不安だって言ってたけれど、サティスの顔見てごらん?」

 言いながらソシエゴは抱っこしているサティスの顔を見る。

 ニッコリ笑顔である。

 天使の微笑みである。

 「さっきは怒ってた。今は笑ってる。色々な表情を見せてる。それに、そんなに嬉しそうな笑顔は私には向けられないもの」

 「そ・・・そうかしら?」

 「そうよ。それに、誰にでも好かれる貴女のその力こそすごいところ」

 「へ?」

 腰をかがめてソシエゴを見つめながらセミージャが言葉を紡ぐ。

 

 「私もソシエゴ、大好きだよ」


 真っ赤になるソシエゴ。

 「あ、な、なっ」

 なんと微笑ましい空間なのだろう。

 幸せである。

 「ソシエゴが家族になってくれれば嬉しいのに」

 「そ。それは話が別!」

 慌てた様子のソシエゴ。

 プロポーズともとれる言葉だぞ!

 なぜそんな真っ向から否定する!

 「セ、セミリャさんとは付き合わないからね!」

 ・・・『セミリャ』。

 セミージャの兄だ。

 気持ちが落ち着いた。

 「ちぇ」

 悔しそうなセミージャ。

 なるほど?

 そういう感じなのか?

 「そ、それに私が愛しているのは・・・」

 「はいはい、何度も聞いてるって。人の男に手を出すのは絶対だめなんだよ?」

 「分かってるわよ!・・・それに、あの人が幸せそうならそれでいいのよ」

 「はぁ・・・早く諦めてセミリャと結婚しちゃえばいいのに」

 「だーかーら!セミリャさんは勿論素敵だけど、私の好みじゃないんだってば!」

 「はいはい、愛されるより愛したいだもんね」

 「うぅ・・・もう!セミージャ!」

 「ふふっ!あ、仕事行かなきゃ!」

 「逃げるんじゃないわよ!」

 慌てて『トールトロス』から出て行ったセミージャを睨みつけるソシエゴがちょっと可愛らしかった。

 ソシエゴの腕の中のサティスはきゃっきゃと笑っていた。

15時にもう1本上がります。

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