青の修行編 後編
泣く泣く、スープのみを食べ終え、皿を洗い終えた後、午後の修行に入った。
「遅いぞ」
「うるせぇ!だったら手伝えよ!」
「しらん。お前が勝手に始めたことだ。昼なんてパンだけでいいんだよ」
こいつは・・・。
最初こそ、丁寧に会話することを心掛けていたが、それも馬鹿らしくなってきていた。
まぁ、あんなでも修行自体はしっかりつけてくれている。
模擬戦の際は、普段の鬱憤を晴らすため、わりと本気で挑んでいるが、それでも、一矢報いるなんてことはまだ全然できていない。
俺の隣にコルザが寄ってくる。
「父さん、あぁ言ってるけど、母さんの次くらいにはうまいって言ってたよ」
「コルザ!」
むっとした顔でコルザに一括するボカ。
・・・なんだよ。
なら、素直に言えってんだよ。
明日は、ボカが好きな羊肉の野菜スープにするぞ。
あの野郎。
「ふふっ。僕もフェリスの作るスープ。嫌いじゃないよ」
素直に好きだって言えよ。
似た者親子が。
「夕飯、食べたいものはあるか?」
「え?そうだな・・・羊肉がいいな」
好みまで似やがって。
晩飯は、羊肉を焼いてパンで挟んだサンドイッチだな。
「何をゆっくりしてんだ!早く始めるぞ!」
おっと、いけない。
午後も頑張らねば。
〇
午後からの修行は、とうとう『魔術』の修行だった。
俺の隣に立つボカ。
コルザは家の方にある木の椅子に座って様子を眺めている。
「『空間』に触れた感覚は残っているか?」
ボカが聞いてきた。
空間に触れた感覚・・・?
「心当たりはないな」
「いや、あるはずだ。よく思い出してみろ。ブリランテに初めて『転移』させられたあの時の感覚を」
言われて目を瞑って思い出す。
ブリランテとの最後の会話。
『愛してる』。
そう言って泣き笑った母の最期の姿。
「『転移』の瞬間。何かに包まれなかったか?」
母の最期の姿を塗りつぶした、暖かな青。
体を包んだ、母の腕の中のように居心地の良い『空間』。
「・・・あれか?」
「心当たりがあるようだな。それが、『空間』に触れる感覚だ。『空間魔術』は、その『空間』に触れる事が『覚醒条件』だ。つまり、お前はもう、『魔術覚醒』している」
俺はボカを見上げる。
「ブリランテは、最後にお前の『魔術』を『覚醒』させてくれていたんだ」
こみあげてくるものがあった。
母さんは最後、俺に『空間魔術』を残してくれたのだ。
「さぁ、まずは集中し、その感覚を思い出せ。そして、『空間』に自分の意志で触れろ」
言われるがままに目を瞑ってあの感覚を思い出す。
集中する。
暖かで、柔らかくて。
心地よい感覚。
ふと、頭に言葉が響いた。
『魔術』の名前。
『剣舞術』と同じ。
これは・・・『型』を覚えた時と同じ。
響いた『魔術』の名を呟く。
「『空間把握』」
呟くと同時、不思議な感触があった。
熱い。
冷たい。
暖かい。
痛い。
柔らかい。
硬い。
様々な感触が全身を駆け抜けた。
目を開ける。
世界が青く染まっていた。
様々な感触は、周囲の『空間』に感触があるかのように伝わってきていたのだ。
今まで、何も感じてなかったのが嘘のようだ。
「・・・すごい」
「ふん、呑み込みが早いな。やはりブリランテの子。『空間』の方が得意か」
ぶつぶつと何かを言っているボカ。
俺はボカを見る。
「あぁ、すまん。フェリス。掴めそうなものはあるか?」
言われて周囲を見渡す。
いや、本当に不思議なんだが。
「全部掴めそうだ」
なんというか、う~ん・・・。
室内遊び用の砂?
スライム?
サランラップ?
空間すべてがサランラップのように見える。
だが、あのような薄い膜ではなく立体的。
形は決まっていないが、固まっているようにも思える。
触感的には、室内遊び用の砂やスライムが近いかもしれない。
だが、気づいているからそんな感じに思えるが、知らなければ絶対に味わえない感覚。
「そうか、じゃあ、適当に掴んでみろ」
俺は手を伸ばす。
手を握る。
頭に再度、『魔術』の名前が響いた。
身を任せて口に出す。
「『空間魔術』『空間掴み』!」
俺は、『空間』を掴んだ。
と、表現するほかない。
ちょっと離れたところの『空間』を握ってみたのだ。
するとあら不思議、握ると固まる室内遊び用の砂のように、『空間』が掴めてしまったのだ。
「ちょっと動かしてみろ」
掴んだまま引っ張ったり、動かしてみたりする。
「おぉお!」
鉄棒を掴んでいるかのように動かない。
「それが、『空間魔術』の基本。『空間把握』と『空間掴み』だ」
これが・・・『魔術』。
すごい。
すごいすごいすごい!
俺は今、『魔術』を使っている!!
「嬉しそうな顔だね」
いつの間にか隣に来ていたコルザが笑った。
コルザも目を青く輝かせながら手を伸ばした。
「『空間魔術』『空間留置』!」
言って、風に乗って落ちてきていた木の葉を『空間』で掴んで留めた。
「あれは『空間留置』。『空間掴み』の上位交換だな。『空間』を掴むだけではなく、特定の物体や『魔素』等を『空間』に留めることができる」
俺も真似をしようとする。
別の木の葉を掴む。
するりと抜けてしまった。
「ふん。そう簡単に出来るものじゃない」
「そうだね。じゃないと、僕の苦労が悲しいものになってしまう」
なるほど、習得には『努力』が必要だと。
「ぶはっ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
突然、息が切れた。
「初めて『空間魔術』を使用したのだ。無理もない。むしろ、息切れだけで済んでいるのがおかしい。さて、フェリス。お前にはこれから、『空間留置』と『空間把握』『魔素』の習得を第一目標にしてもらう」
「『空間把握』『魔素』?」
「『空間把握』で『空間』の感覚や感触を把握することができるだろ?『魔素』は、感覚や感触に加えて『魔素』を把握できるようになるんだ」
「つまり、『空間把握』の上位交換と?」
「うーん。上位交換と言うよりは、追加性能かな?他にも『距離』とか、『物質』とか色々あって、それが追加されていくみたいな感じだね。僕はまだ『魔素』しか把握できないけど、極めればブリランテみたいに『全』まで行って、把握できない情報がほとんどなくなるみたいなんだ」
なるほど、やりがいがありそうだ。
思わず笑ってしまう。
「ふん。『努力』がそんなに嬉しいか?」
「あぁ・・・もちろんだ。俺はもっと強くなれる」
「やっぱり変わってるよ」
「まったくだ」
「うるさいよ!いいから、早く教えてくれ!その、『空間把握』『魔素』と『空間留置』の事!」
「落ち着け体力馬鹿」
「あ!馬鹿って言いやがったな!」
「フェリス、あれは誉め言葉だよ」
だったら素直にそう言えってんだ!
こうして、俺はボカとコルザとともに『空間魔術』の修行を始めた。
1年の後半には、『空間剣術』という新しい『剣術』も習うことになるのだが、それはまた別の話。
サティス。
俺は絶対にサティスを守れるだけ強くなるからな!
だから、2人で『無敵』になるぞ!




