『革命戦編』 『終戦』 6
バイレは立ち上がってすぐに身を翻してエスクラボの元へと向かっていった。
エスクラボの前に行くなり突然頭を下げた。
「クラボ様。 身勝手なお願いで申し訳ありません。 『贖罪』をするため、クラボ派から抜けることをお許しください」
「え!?」
驚いたのはフォール。
「な、なに言ってんだよ! 許すって言ってくれてんだから良いじゃねぇかよ!」
「黙れ! このまま、なにもしない人生を歩んだ先にあるのは後悔と、自分への嫌悪だ! 『自己満足』だとしても、少しでも誇れる自分であるために、『贖罪』したいのだ!」
バイレは頭を下げたままそう叫んだ。
フォールは涙目である。
「でも、だからって、クラボ様から離れることはねぇだろ? なぁ、バイレ! それで良いのかよ!」
必死な訴え。
「・・・良い! 私の『贖罪』の為には必要なことだからだ!」
歯を食い縛るような言い方。
フォールは悔しそうに地面を殴った。
「くそ!」
「・・・クラボ様、どうか。 お許しを」
そんなフォールを尻目にバイレはそうエスクラボに言った。
エスクラボはそんなバイレを見て微笑んだ。
「バイレ。 俺は君の事を『クラボ派』のひとりだと1度も見てないぞ」
「え!?」
思わぬ言葉に頭を上げて絶望したような顔になるバイレ。
そんなバイレの姿を見てエスクラボは笑う。
「はっはっは! バイレ。 勘違いするなよ? 俺は君の事を見てないわけじゃない。 私は君の事を大切な友人だと思って見てきたのだよ」
「・・・え?」
「バイレ、友がやりたいことは応援するさ。 だから、頑張ってこい」
「クラボ様・・・っ! はい! 頑張ってきます!」
嬉しそうな顔になり、頭を下げて体をエンシアに向ける。
一歩踏み出す。
「バイレ。 たまには会いに行く。 来てくれても良いがな? どっちにしろいつでも会おう。 友と会えなくなるのは私とて寂しいのだからな」
立ち止まるバイレ。
「・・・はい! 必ず!」
振り返らずそれだけ言って駆け足でエンシアの元に行くバイレ。
目の前に立った自分より少しだけ背の高いバイレを見上げるエンシア。
「・・・エンシア様」
「迷惑ですわよ」
「申し訳ありません。 ですが、聞いてください」
言いながら片膝をつき、エンシアの前で頭を垂れた。
「私は貴女の目になります。 戦いの際は槍に、危険なものから守る盾にも鎧にもなりましょう。 ご迷惑は重々承知です。 ですがどうか。 どうか『贖罪』の機会を」
そう言って頭を深く下げたバイレの姿を見たエンシアは、何度めかのため息をつく。
「はぁ。 まったく。 どうでも良いと言っていますのに。 ・・・・ですがまぁ、わかりましたわ。 貴女の『贖罪』を受け入れましょう。 スィダ? 良いかしら?」
問われたスィダは頷く。
「えぇ。 そうですわね。 あ、良いこと考えつきましたわ! 『奴隷契約』を結びなさいな!」
そう言ってスィダはエンシアを手招きして耳打ちする。
「・・・どうせ将来的に『奴隷』は無くしますわ。 今回は『罰』として『奴隷契約』を結ばせた体にしますが、将来的には『奴隷』ではなく、近衛騎士にしても良し、自由にするも良しでエンシア姉様の好きにすれば良いんですのよ」
「・・・そうね。 スィダが王になったら『奴隷』はいずれ無くなるものね。 無くなる頃にはバイレも気が済んでいるでしょうし、わかりましたわ」
と言う会話が聞こえてきた。
なかなか、めちゃくちゃ言ってないか?
「では、バイレ・バイラリン。 貴女には『罰』としてわたくしと『奴隷契約』を結んで貰います!」
エンシアの宣言にざわつく生徒達。
「『奴隷』なんて」
「酷い罰だ」
「『奴隷』を無くすって言っていたのに?」
「でも、エンシア様の目を傷つけたのは変わり無いでしょう?」
「と言うか、元々『奴隷』だったんだろ?」
なんて言葉が聞こえてくるが、本当に大丈夫なのだろうか?
しかし、バイレは頭を深く下げ直す。
「わかりました。 慎んでお受けいたします」
「いいですわ。 肩の力を抜きなさいな」
「はい! エンシア様。 よろしくお願いします!」
バイレは立ち上がってエンシアの左側に立つ。
目の変わりになるつもりなのだろう、エンシアの見えない方に立ったのだ。
「・・・フォール、このままで良いのですか?」
ムーシカ先生に問われたフォールは頭を振った。
「・・・俺も。 俺もこのままじゃ駄目だ! おいティン!」
フォールは慌てた様子でティンに駆け寄る。
「お、俺も。 俺は、お前の腕が治るまで絶対服従してやる!」
言われたティンは嫌な顔をする。
「いらねぇよ」
「頼む! このままじゃ、自分が情け無さすぎるんだ!」
顔を近付けるフォールに嫌そうな顔をしながら答える。
「だぁ! もう離れろ! 分かった! わかったから!」
「いいのか!? よし! これからよろしく頼むぜ!」
と笑ってティンの姿を見る。
そして、気付いたように両手を差し出した。
「じゃあさっそく、変わりに抱えるぜ!」
ティンは、物凄く嫌な顔をした。
「嫌だけど? 俺は今のこの状態を喜んでんだけど?」
「え!?」
ティンの腕の中で慌てた声を出すスィダ。
「な!?」
「ほら、もうスィダも限界なんだ。 さっさと行くぞ」
「あ! ちょ! だったらなにか仕事をくれよ!」
ティンが再び歩き始め、それに全員でついていく。
俺もついて行こうとしたところで、後ろの会話が聞こえた。
「・・・エスクラボ様。 2人の分も働きますね」
「無理するな。 なに、しばらくは暇だ。 ゆっくりするさ」
ムーシカとエスクラボの会話だ。
「それより、イディよ? 君は良いのかい? 『贖罪』ってやつは」
エスクラボは続けざまに、近くで自分の奴隷と会話していたイディオータに問う。
「・・・するべきですか? お兄様、お姉様」
そう問われた会長と副会長は首を振る。
「いらん」
「そうね、必要ないわ。 歴代の王家が、この学院で会長になるまでの間に起こったこと、ひとつひとつに『贖罪』なんてしてたら切り無いわよ」
2人の言葉に頷くイディオータ。
「だそうです。 それは私も同感ですからね。 私はなにもしませんよ」
「そうか。 なんと言うかまぁ、イディは変わらないな」
「それは、クラボ兄様もですね。 寂しがり屋は一生ものですね」
「う。 黙りたまえ!」
はっはっはと、言う笑い声を後ろに俺もスィダを追いかけて歩くのだった。
こうして、『ディバースィダ・ドラドアマリージョ』。
スィダが会長になるまでの話は一件落着となったのだった。




