『革命戦編』 『ニエベの戦い』 1
「うーん。 ちょっと可愛そうかな~・・・」
拳ほどの大きさの氷の塊を、高くそびえ立つ氷壁の上から打ち続けて、既に半分以上を戦闘不能にしていたニエベはそう呟く。
あまりにも一方的すぎて少し不憫に思っていた。
やるからには確実に勝てる方法をとるニエベ。
こうなることは予想していたとは言え、ここまで一方的だと哀れにも思う。
と、言ってもニエベはこの学院でできた大切な友達の為、攻撃の腕を緩めるつもりはないが。
そう、友達。
それは勿論今ともに戦っている者達の事でもあるが、ニエベにとって一番存在が大きいのは彼女。
『プリンセッサ・モーニオ・ドラドアマリージョ』。
彼女はこの国のお姫様であり、ニエベが『メディオ学院』で仲良くなった友達だった。
ニエベは、ぼんやりとプリンセッサとの思い出を思い出していた。
○
いつもふわふわとした雰囲気を漂わせているが、根底に隠されているのは凶暴性。
王位や権力、お金や物に興味はなく、大切にしたいのは愛する人ただひとり。
そんな彼女と出会ったのは、『メディオ学院』に入学して、色々な部活や委員会に体験として加入していた頃。
丁度『風紀委員』の体験入会中だった。
『風紀委員』と言う委員会は、『学院内』を定期的に見回ったり、問題行動を起こす生徒を注意したり、暴力沙汰の仲裁にはいったりと、『風紀』を正すことを仕事としていた。
もともと、『神聖騎士団』と言うものに所属していたニエベにとってその仕事は肌にあっていた。
このまま入会にてしまうのもありだなと考えていたのだ。
そんな時、本当に偶然。
『剣術科』がよく使う稜郭にある『監視塔』近くを見回っていた時だ。
丁度影になって隠れられるような場所。
先輩から、サボりや素行の悪い生徒が行く場所だから定期的に見回るように言われていた。
だから、とりあえずで来ただけだった。
しかし、そこでは、ひとりの女生徒が数人の男子生徒をぼこぼこにしていた。
ニエベは一瞬状況が掴めなかった。
こちらに背を向けて、既に伸びている男子生徒の胸ぐらを掴んでいるセミロングの美しい金髪の『獣人族』。
髪色と、耳と尻尾の形から、おそらく自分とともに入学した、同じ教室で授業を受けていたこの国のお姫様だと言う事はわかった。
だから、なおのことわからない。
どうしてそんな人が男子生徒を何人も伸ばしているのか。
ニエベにとってお姫様とは、小説に登場するような自分をしっかり持っているが、王子様に守ってもらう事の方が多い存在だ。
その常識が今、覆った。
「あら。 ごめんなさい。 散らかしてしまったわね」
ニエベの存在に気づいたのだろう、振り返って微笑むお姫様。
頬に返り血がなければ心が奪われていたかもしれない。
「あ、いえ。 何があったんですか?」
恐る恐る問う。
するとお姫様は微笑んだまま答えた。
「この人たち、私の大切な人を馬鹿にしてたのよ」
「大切な人・・・?」
「えぇ、産まれてからずっと一緒にいるとっても大切で大好きな人。 誰だってそんな人が馬鹿にされたら思うところがあるじゃない?」
お姫様と言うには砕けた言葉づかい。
そんな言葉で紡がれる、男の人たちを伸ばした理由。
「それは、そうですね・・・。 ですが」
ニエベはお姫様の言うことに頷きながら近づいて、そのまま手を掴んだ。
「・・・あら?」
基本、ニエベは真面目な性格だ。
だから、話を聞いた上で、それでも駄目な事は駄目だと判断した。
「これは立派な暴力行為です。 反省文を書いてもらいます」
「あらあら・・・。 面倒ね?」
振り払おうとするお姫様。
力が強くて一瞬手を振り払われそうになるが、一応ニエベは『天族』かつ、『神聖騎士団』の一員だった人だ。
そう簡単に振りほどかせはしない。
「逃がしません」
「・・・あなた、やるわね? ふふっ。 お名前は?」
「『ニエベ・フロル』。 『魔術科1年』です」
「あら! 同じ学年じゃない! 私は、『プリンセッサ・モーニオ・ドラドアマリージョ』。 『魔術科1年』よ! プリンで良いわ」
「話せばわかると思ってます? それは許しませんよ」
「まぁ! 芯が強いのね! わかったわ! 諦めて反省文でも書くとしようかしら!」
のほほんと笑うプリンセッサの手を引いて生徒会室を目指すニエベ。
これが、2人の出会いだった。




