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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第四部 青年期 『1年生編』 前編
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サティス 14

 時間は過ぎてしまう。

 あっという間に最後のフォークダンスと言う踊りの時間になってしまった。


 手は、会場まで繋いでいた。


 会場について手を離したのは私。


 知っている人がたくさん居て恥ずかしくなった。

 今までだってきっと、たくさん見られていたのに。


 手を離して踊りを見る。


 踊りは難しくはなさそうだった。

 知ってるリズムに知ってる躍り。

 それが色々混ざっているから、踊ること自体はできそうだった。

 

 ためしに体を動かしてみる。

 楽しいと思う。


 だけど、1人では踊れないらしい。


 フェリスと踊れたらもっと楽しそうだけど。


 そう思っていたら、フェリスが王子様のように手を差し出してきた。


 少しぎこちない。

 緊張した声で私に言う。


 「一緒に踊ってくれますか?」


 そんなフェリスの姿に胸が締め付けられる。


 フェリスは、背が伸びた。 今では私より高い。

 幼い頃から鍛えているから筋肉もある。

 だけど、均整がとれていて筋肉質には見えない。

 思えば声も少し低くなった気がする。

 清潔感があって、安心する匂いがするのは昔と変わらない。

 彼も、立派な大人の男の人だ。

 私には彼が格好良く見える。


 それこそ、小説で読んだ王子様のように。

 今の姿勢だって、小説の中の王子様と同じだもの。

 

 「えっと、あっと・・・」


 とても輝いて見えて狼狽えてしまう。

 一緒に踊りたいって気持ちが分かってしまったのかもしれないこと。

 格好いい彼の姿。

 その事に次の言葉が出ない。


 今日はフェリスには調子を狂わされてばかりだ。


 そう考えるとなんだか、悔しくなった。

 だから。


 「えぇ」


 頷いて深呼吸。

 心を落ち着かせて。


 「よろこんで!」


 緊張を隠しながら、嬉しさを伝えるために笑って答える。

 少し緊張しながらフェリスの手に自身の手を重ねた。

 すると、フェリスは私の手を引いて、キャンプファイヤーと言う、木で組んだ四角柱の中で燃える炎の近くへと連れていった。


 いつも、彼の手を引いてばかりだから、彼が私の手を引く珍しい状況に驚いていたら腰を抱かれた。

 緊張で固まる。


 大きな手。

 ゴツゴツとした男の人の手。

 彼も緊張しているのか手が震えていた。

 

 私を見つめている彼の姿を見る。


 私より大きな胸板。

 安心する匂い。

 太い筋肉質な腕。


 彼に触られるのは、嫌じゃなかった。

 むしろ嬉しくて、もっと触れ合いたいと思う。


 文化祭の途中で知らない人に肩を抱かれた時は嫌悪感しかなかったのに。


 不思議ね?

 フェリスならいくらでも触れられたいし触れたいと思う。 

 そんなことを考えていたら、彼と目があった。

 

 考えていたことが考えていたことだけに恥ずかしくなった。

 心臓がうるさい。


 私の気持ちが伝わってしまいそうだわ。


 と、彼の目が大きく見開いたのが分かった。

 口が少し開く。


 フェリスは、なにかに気づいた時にあの顔をする。

 今、彼の頭の中ではきっと、色々なことが考えられている。


 突然、フェリスの顔が真っ赤になった。

 目を逸らされる。


 「・・・フェリス?」


 その彼の表情と態度からなんとなく分かってしまった。

 私の『野生の勘』がきっと働いたのだろう。


 これは、厄介だ。

 私にとって良いことも悪いことも全部気づいてしまうもの。


 だから、彼が何に気づいたのか分かってしまった。


 たぶん。

 きっと。


 彼は、私が彼をどう思っているのかに気づいた。


 私はそれを感じたから、何かを言おうとしたけど。


 「なんでもない。 それより、踊ろう」


 と手が引っ張られてしまった。

 そのままフェリスが強引に踊りを進めてしまう。

 慌てて置いていかれないように合わせる。


 結局なにも言えなかった。

 

 ねぇ、フェリス?

 どう思ったの?

 

 一生懸命フェリスに合わせていると、そんな私の様子に気づいたフェリスが合わせてくれた。


 彼の優しさに嬉しくなる。


 少しずつ互いの動きを、呼吸を合わせていく。


 楽しくなってくる。


 合っていく。


 楽しい。


 フェリスと一緒に踊るのは楽しいわ。


 思わず、笑顔になってしまう。



 「あっははっ! フェリス! 楽しいわね!」



 ねぇ、フェリス!

 貴方も楽しい?


 「あぁ。 楽しいな!」


 彼の声に顔を見上げる。

 私を見ない彼の顔。


 私の表情が固まったのが分かった。


 ・・・どうして?


 フェリスの頬は赤い。

 照れて楽しそうに笑っている。

 だけど。


 その笑顔は、どう見ても心から楽しそうには見えなかった。


 あの感じは。

 困惑?


 ねぇ、フェリス?

 どうして困った顔をしているの?


 躍り終わった後、その事を聞くことは出来なかった。


 もし、もしも。


 私がフェリスを愛していることに気づいてあの顔をしていたのだとしたら?

 

 それが、怖くなった。


 だってそれは、私の好意が迷惑だったと言うこと。


 フェリスは私を大切に思ってくれている。

 もちろん、好きでいてくれているのも分かってる。


 だけど。

 

 それは、友達や家族に対しての好きだとしたら?


 私のこの感情は迷惑なものになる。


 だって、好きの種類が違う。 

 それは、きっと困ってしまう。



 それを直接フェリスから聞いてしまったら私は。



 怖くなった。

 だから、聞けなかった。


 あの時の私は、うまく笑えていたのかしら。

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