『1年生文化祭準備編』 『純白苦悩』
図書館。
『バンド』を組んでから数日が経っていた。
夜も深まり、生徒がほとんど居なくなった頃。
ファセールとエンシア、ニエベの3人がテーブルを囲んで話し込んでいた。
「こんな感じの旋律でどうかしら?」
「お! いいね! じゃあ、ここはこの詩をちょっと直さないとだね」
「それならこの言葉は? ここの旋律にあうと思うよ? あ、でも、こっち旋律ならもっと聞きやすいかな?」
「・・・素敵ですわね。 さすがファセールですわ」
「ふふん! うちの自慢の仲間は読書家ですから!」
「どうしてニエベが自慢げなのですわ! それを言うなら家の子は音楽の天才ですわよ!」
「そっちは昨日からでしょ!? こっちの方が先です~」
「な!」
「ちょっと! 2人とも!」
ヒートアップしかけている2人を無理やり止めるファセール。
さっきからこんな感じばかりでファセールの顔に疲れが見え始めてた。
彼女たちは曲作りをしていた。
テーブルの上には雑紙が何枚もあがっていて、その中には色々な歌詞や楽譜が書かれていた。
エンシアとファセールは楽譜をかけるため、楽譜を。
ニエベとファセールは語彙力があるため、詩を。
それぞれで考えているのだが。
文芸部兼図書委員で一緒のニエベと、昨日誘われて入った声楽部で一緒のエンシアが何かにつけてファセールを取り合うのだ。
勿論、基本的には真面目に本気で取り組んでいるのだが、ちょっとしたきっかけで始まってしまうのだ。
ファセールからしてみれば2人とも尊敬している先輩だし、取り合うよりは一緒に協力してほしいのだが。
ちなみに、ファセールは声楽部に入ったが歌を歌う事はない。
事情はエンシアに話している為、楽器隊の所属だ。
それでも同じ部活になったことに変わりはない。
今日からさっそく練習に参加している。
こんな時間になったのはそれもあった。
ファセールの静止の声に一応黙った2人だが視線は相変わらず対抗心で燃え上がっている。
2人とも、ファセールの事を気に入っているのだ。
「今は、そんなことしてる場合じゃないよね!?」
まぁ、2人がこんな調子のおかげか、ファセールは2人に遠慮が無くなり、伸び伸びと発言できるようになっていた。
「うんうん。 そうだよね~! 今は、曲を作らなきゃだもんね~!」
「そうですわよね~! 家のファセールが言っているのだから仕方ありませんわよね~」
「あ?」
「ん?」
「あぁ! もう! 2人ともそこに直れ!」
バンッとテーブルを叩いてキレるファセール。
本人だって怒りたくないのだ。
だが、最近は怒る事が多い気がする。
それを自覚している為ちょっと我慢していたのだが、それも限界だった。
ファセールの声と怒りの表情に背筋を伸ばす2人。
「ふぁ、ファセール? ここ、図書館」
「はい!?」
「ひっ!」
ファセールの睨みにニエベが縮み上がる。
わからない。
実力で言えば簡単にねじ伏せられるはず。
なのに、怖いのだ。
本能的に逆らってはいけないと発している。
震えるニエベの対面。
エンシアはなぜか、少し喜んでいた。
(なぜでしょう・・・。 ファセールに怒られるとドキドキしますわ)
なんてことを思っているとはつゆ知らず、ファセールの説教が始まった。
「2人ともいい!? 今、フェリスは文化祭の準備と絵画部の活動で忙しいよね!?」
問いに頷く2人。
「サティスは『舞踏部』と『剣術部』の兼任部長で忙しい!」
さらに頷く。
「ティンなんて、生徒会に行かなくなったスィダの空いた穴を埋めながら文化祭準備をしている! それに、私たちが音楽を披露できるように動いてくれてるんだよね!?」
さらにさらに頷く。
「だったら、こんなところでふざけてる場合じゃないのは分かるよね!!??」
「ひぇ~! ご、ごめんって~!」
頭を抱えるニエベ。
「ふふっ。 申し訳ありませんわ~! 気を付けますわ~!」
ちょっと赤くなった頬で謝るエンシア。
「わかったなら、しっかりやって!」
ドガッと座り直すファセール。
「う~・・・。 怒ったファセールは怖いよ~」
涙目のニエベ。
「あぁ・・・。 素敵でしたわぁ」
恍惚とした表情のエンシア。
そんな2人に頭を抱えるファセール。
(本当にこんなんで間に合うの~!?)
夜はさらに深まっていくのだった。




