5歳 14
そして時は流れに流れて夕暮れ。
あの後何回かサティスが追いかけてきたが、何とか逃げ切っていた。
途中から一切追いかけてこなくなったため、おそらく村の方に降りたのだろう。
期限は日没まで。
長い・・・。
俺とカリマは山の奥の方で静かに時が過ぎるのを待っていた。
いったい、後どれくらいが残っているんだ。
「・・・サティスよ」
カリマの声に俺は足を止める。
1か所にとどまらず、定期的に歩き回っている俺とカリマ。
木々の中にぽっかり空いた円形の広場。
どうやらそこにサティスがいたらしい。
俺とカリマは茂みに隠れて様子を伺う。
そこにはサティスと相対するジュビアがいた。
「ジュビアみっけ!つかまえるね!」
「・・・ベンディスカはどうした?」
「捕まえたわよ!とっても早かったから、とっても苦労したわ!」
「・・・そうか」
ジュビアは模造剣を抜く。
「俺を逃がしてくれてありがとう、ベンディスカ。おかげでいい機会が巡って来た」
ひとりごちて、不愛想な口元に笑みを宿す。
珍しい笑顔。
その笑顔にサティスが笑顔で返す。
2人が面と向かい合う。
2人が戦うのは去年の順位戦以来だ。
どうなるのか楽しみである。
早く逃げた方が生存確率は上がるが、隣のカリマも気になるのだろう。
ランキング1位と2位の戦い。
レベルはかなり高い。
と期待していた矢先、サティスが挨拶代わりの『クラコヴィアク』を放った。
刺突一閃。
ジュビアに迫る。
「『強化魔術』『筋力』!『剣舞術』『クラコヴィアク』!」
ジュビアは体から濃紺の靄を漂わせて全く同じ刺突で返す。
『強化魔術』か!
昨年の猪の『魔獣』、『ミエド・ハバリー』での戦いをで使用した魔術。
ガンッ!
火薬でもなったのかと思う程の大きな音が響いた。
余波で軽く風が吹いた。
同時、筋力が上がったジュビアの突きがやや優勢だったらしく、サティスの刺突が上にはじかれた。
「サティスの一撃を真正面から受け止めて弾いた!?」
「ジュビア、貴方たちが従姉の家に言っている間、帰ってきたら1年ぶりに再戦を申し込み、次こそ勝ってみせるって、鍛練に集中していたわ」
弾かれ、上がった両腕。
がら空きになった全身の隙にジュビアの高速の細かい切込みが迫る。
「『剣舞術』『メヌエット』」
「ただでさえ頑張っていたのに、フェリス達が従姉の家に言っている間は、さらに努力していた。来る日も来る日も。時には私達を巻き込んで。あいつは真面目に頑張っていたのよ。本当に凄かったわ」
急所に迫る剣劇を必死に模造剣で弾くサティス。
捌ききれない剣劇は、サティスの全身にいくつもの痣を残す。
サティスに傷を作っているのか・・・?
あのジュビアが!?
「よっぽど勝ちたかったのね」
俺はジュビアにサティスを重ねていた。
おかしな話だが、サティスと状況が殆ど同じだ。
圧倒的な負けを知り、負かした相手にいつか勝つために努力を惜しまない。
「・・・すごいな。ジュビアはあんなにかっこいい奴だったのか」
「思わず応援したくなるくらいにはね」
頑張れジュビア!
負けるなジュビア!
おまえ、かっけぇよ!
しかし、現実は非常なり。
サティスが見ているのはさらに上。
サティスが負けるわけがないのだ。
俺の幼馴染が勝つのは決まっているのだ。
サティスが獰猛な笑みでジュビアの息継ぎの瞬間を見逃さず、蹴りを入れた。
ジュビアが貰った蹴りの勢いを利用して後ろに飛び、一旦離れる。
「『強化魔術』『筋力』」
消えかかっていた靄。
再度、『魔術』を使用して体から濃紺の靄を漂わせ始める。
『強化魔術』。
『魔族』の血が流れるとこの『魔術』になることがほとんどらしい。
つまり、ジュビアにも『魔族』の血が流れている事になる。
そして、この『魔術』は強化されるのは人それぞれで違う。
思考力、筋力、瞬発力、五感それぞれ様々。
ジュビアは『筋力』、同じ『魔術』が使えるベンディスカは『俊敏性』だ。
人によっては、2つ以上の強化ができるらしいが、ジュビアとベンディスカは一つだけらしい。
ジュビアは再度笑う。
「ジュビア!楽しいわね!!」
サティスも笑う。
「・・・あぁっ!楽しいな!」
サティスと戦えている事が嬉しいのだろう。
サティスと楽しみながら戦えている事が嬉しいのだろう。
しかし、ジュビアの夢のような時間は、唐突に終わる。
「「『剣舞術』『サルタレロ』」」
互いに跳ね踊る。
激しい剣劇。
『攻』派同士の衝突。
軍配が上がるのは、より『練度』が高く、洗練された強さを持つ者。
よって、勝者は。
カンッ。
唐突に響いた模造剣がぶつかり合った音。
それは、サティスがジュビアの模造剣を上にはじいた音。
一瞬の間。
「楽しかったわ。またやりましょう」
その静寂の中で響いたサティスの声。
同時、サティスの回転切りがジュビアの横腹を叩いた。
「ぐっ」
苦悶の表情を浮かべて膝を着く。
「くそっ・・・ちくしょう・・・」
瞳に浮かぶ涙は痛みかそれとも。
サティスはその姿に模造剣を突き付ける。
「まだまだね!」
コルザの真似である。
しばし沈黙。
「ふふっ」
サティスの堪えられなかった笑いで破られる。
「なんてね!本当に楽しかったわ!次が楽しみね!ジュビア!」
屈託ない笑顔。
剣を数回振って腰の鞘に納めた。
そんなサティスに見惚れるジュビア。
っておい・・・おいおいおい!
待て待て待て!
なにサティスに見惚れとるんじゃ!
おぬしはもう、成人じゃぞ!?
サティスは5歳!
犯罪じゃあ!
わしゃ許さんぞい!
俺が出て行こうとして、カリマに止められる。
「ちょっと待ちなさいよ!なにやってんの!?早くここを離れるわよ!?嫉妬は後にして!」
はて?
嫉妬?
誰が?
誰に?
「させないよー!」
ビュンと風切り音。
振り向くと同時、顎に模造剣の切っ先がクリーンヒット。
「うがっ」
油断した!
揺れる視界。
顎に走る激痛。
立っていられずに倒れこむ。
サティスが俺たちの存在に気づいていないわけがなかったのだ。
「あ!フェリスごめん!つい!」
俺の顎に見事な一撃を入れたサティスが謝る。
俺は視界が回っており、しばらく立てそうにない。
頭がくらくらする。
脳震盪を起こしているな、これは・・・。
目の前がぐるぐるする。
気持ちわるい。
「カリマぁ!すまぁん!逃げろ!!」
俺は吐きそうになりながら叫ぶ。
そこにカリマはすでにいない。
あの野郎!
見捨てるの早すぎるだろ!!
「え?あれ!?ちょっと本当に大丈夫!?」
立ち上がれない俺の様子に気づいたのだろう、心配そうな声を出すサティス。
そのまま俺を揺らす。
やめろぉ・・・ゆらすなぁ。
サティスは軽くパニックになっている。
「どうしよう、立ってフェリスぅ」
言いながらあわあわと慌て始め、最終的には泣き出してしまった。
「ごべんでぇ!じだだいでぇ!」
号泣しなが俺を揺らし続けるサティス。
「だ、大丈夫だからぁ!おえっ・・・ゆらすなぁ・・・」
俺は必死に訴えた。




