『奴隷編』 『集合』 2
扉の先にはスィダとエンシア、会長と副会長がいた。
そして、エスクラボの姿もあった。
書類仕事に黙々と取り組んでいる。
「来ましたわね? 行きましょうか」
スィダが立ち上がってエンシアもそれに続く。
「会長? 出掛けてきますわね」
スィダが副会長になにやら言って怒られている会長に声をかける。
相変わらず仲の良い2人だ。
黙ってみてれば兄弟と言うより付き合っている男女のように見える。
「む。 分かった。 気をつけよ」
会長はキリッと顔を整えてスィダに声をかける。
「ふふっ。 少し前まではこんなふうに声をかけられる事もありませんでしたわね」
会長の隣で副会長が口許を押さえて微笑んだ。
「ふむ。 先日の夕食で仲を少しだけ取り戻せた。 俺は嬉しいぞ? クラボ。 お前も一緒に夕食を食べないか?」
会長が黙々と仕事に取り組むエスクラボに声をかける。
眼鏡をかけた金髪、猫耳と長い尻尾の生真面目そうな男。
それがエスクラボ・ドラドアマリージョだった。
「・・・それは、命令ですか?」
手を止めて顔を上げて会長に問うエスクラボ。
「いや・・・。 提案だ。 嫌なら無理にとは言わない」
「そうですか。 では、断ります。 今私は忙しいので」
チラッとスィダを見て、また書類作業に戻った。
「・・・行きますわよ」
エンシアが振り返って俺たちに声をかけた。
「えぇ。 行きましょう! では、また明日!」
スィダがそう言って出ていくのに俺たちも頭を下げて続いた。
◯
学院を出た俺たちは食堂に集合していた。
これから少し長くなる。
早めの夕食を食べてしまおうと言う話になった。
それぞれで夕食を食べ終えて落ち着いた頃。
「では、話し合った通り。 このまま、『城下町』の地下3階へ向かいますわ」
スィダの言葉にうなずく。
「あぁ、俺の『転移』なら一気に入り口近くまでは行ける」
「内部構造も頭に入れてるしな」
ティンが腕を組みながらニヤッと笑って言う。
「貴方達が一度潜入していて助かりましたわ」
「地下2階までだけどな?」
「だとしてもですわよ。 一緒に来てくれるだけでも心強いのに」
エンシアがティンに言うと、気にするなと笑って答えていた。
「では、各々、準備は良いですわね?」
スィダに問われ、一応鞄の中を確認する。
まぁ、多分大丈夫だろ。
「大丈夫だ」
「おう! 完璧だ!」
俺とティンはほぼ同時に答える。
「では、行きますわよ」
と、席を立ったときだった。
「あ! 居たわよファセール!」
食堂の出入り口から大きな声が聞こえてきた。
なんだか、久しぶりに聞く元気な声だ。
俺は入り口を見る。
「フェリス!」
「さ、サティス。 速いって」
俺に向かって良い笑顔で手を振るサティスと、彼女に追い付いたファセールが居た。
ずんずんと進んで俺の元へ来るサティスとファセール。
と、俺の目の前でサティスがファセールと手を繋いで見せびらかしてきた。
「私たち、ちゃんと仲直りしたわ!」
隣でぎこちなく笑うファセール。
そうか。
仲直りできたのか。
「それは、良かった」
俺は頷く。
「それで、フェリス? ゆっくり話がしたいのだけれど時間あるかしら?」
「あ~・・・」
くそ。
何てタイミングだ!
俺の煮え切らない態度と周囲の面子の顔を見たサティスが「あぁ」と頷いた。
「分かったわ! これから何かあるのね!」
流石の勘だ。
その通り。
「あぁ、ちょっとどうしても行かなきゃならないところがあるんだ」
「分かったわ! でも、そうなるとどうしましょ・・・」
言いながらファセールに助けを求めるように見る。
ファセールはため息をついて俺を見る。
俺にどうにかしろと言う意味だろう。
「サティス」
俺はサティスの名前を呼んでと目を合わせる。
「あ、えと。 な、なにかしら?」
前髪を整えて俺を見上げるように問うサティス。
心なしか頬が赤くなったような?
年頃だから、色々気になるのだろう。
「俺もサティスとゆっくり話がしたい。 帰ってきたら少し時間をくれるか?」
俺は、そうサティスに問う。
ティンにも言われたしな。
ファセールに言われた通り、サティスをしっかり見て。
ティンに言われた通り、たくさん話をして。
サティスの気持ちを知って。
これからの事を考えていけるようにならないと。
「あ、えぇ! もちろんよ! 待ってるわね!」
いつもの元気な笑みだった。
「あぁ。 じゃ、また後で」
俺はサティスとファセールに手を振って3人と共に『城下町』へ向かった。




