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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第四部 青年期 『1年生編』 前編
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『バカンス編』 『イディオータ再び』

 2人に連れられて来たのは、同じ建物の地下へと通ずる階段。

 そこは、鉄格子によって封鎖されていた。


 「この先ですわ」


 スィダが言いながら鉄格子を開けてエンシアと共に中に入り、階段を下っていく。

 俺とティンもそれを追いかけていく。


 長い階段を降り、地下に着くと屋根がとても高い位置にある長い廊下が真っ直ぐ伸びていた。

 左右にいくつかの入り口があり、スィダは一番手前の右側にある部屋に入っていった。

 俺たちもそれに続く。


 部屋に入ると大きな広間のような場所だった。

 大理石の上に赤いカーペットと、白い壁面。

 中心に大きめな四角いテーブルと、それを囲うように配置されている赤いソファー。

 

 入り口から入って真っ直ぐの位置にある赤いソファーの中心にひとりの男が座り、本を呼んでいた。


 「イディ兄様。 話をしに来ましたわ」


 男は本を閉じて俺たちを睨むように見た。


 「随分と遅かったな。 愚妹」


 ○


 俺たちがとらえた時のような小汚なさは無く、綺麗な白いスーツを着ていた。

 髭も剃られ、髪も洗っているのだろう、金の短髪に艶が出ていた。

 ひどい猫背はそのままだが、堂々たるその所作は確かに王子だった。


 『イディオータ・ドラドアマリージョ』。

 ドラドアマリージョ家の兄弟の4番目。

 スィダの兄である。


 とんがった耳は相変わらずとんがっていて、長い尾は優雅に揺れていた。


 「して、話とはなにか」


 イディオータは、俺たちに問う。

 俺、エンシア、スィダ、ティンの順に座っているため、視線は真ん中のスィダとエンシアに注がれている。


 「『奴隷』について話をしにきたのです」


 スィダが答えるとイディオータはため息を吐いた。


 「それに関しては話すことなど無い。 貴様の言い分は全て絵空事だからだ」


 「・・・そうですわね。 今はまだ理想論かもしれませんわ。 ですが、イディ兄様と話すことでなにか変わるかもしれません」


 スィダがそう返すとイディオータは頭をこめかみを押さえる。


 「では聞くが、貴様は『奴隷』は無くなれば良いと思っているのだろう?」


 「それは・・・そうですわ」


 「だったら私と貴様の話は平行線だ。 私もクラボ兄様も『奴隷制度』は無くすべきではないと考えている。 考えが違うのだ。 話すことなどなにもないだろ」


 「で、では! なぜ、無くしたくないのか教えてはくれませんか!?」


 必死の訴えに顔をしかめるイディオータ。


 「俺に教えを請うか・・・。 その、理解しようとする心持ちは評価しよう。 では、聞くが」


 イディオータは口角を上げる。

 嫌な笑みだ。


 「貴様らは『奴隷』の本当の姿を見たことがあるのか?」


 本当の姿?


 「街中でひどい扱いを受けてるのは見たけど」


 俺は過去を思い出す。

 子どもの時に見た、奴隷。

 主人に酷い扱いを受けていた。


 「それは、表に出ている1部の奴隷だ。 表に出てない、買われることもない奴隷たちを見たことがあるのかと聞いているのだ」


 表に出ない、買われることもなかった奴隷?


 俺たちは想像も出来なかった。


 「それも見たことが無いのであれば、この話はしても意味がない。 まずは見てこい。 待っていろ」


 イディオータが立ち上がって奥の部屋に消えていった。


 「なんなんですの。 表に出ることも買われることも無かった奴隷って」

 

 スィダが考え始める。


 少ししてイディオータが戻ってきた。

 手には質の悪い紙。


 「これは、『城下街』の地下3階に入るための合言葉と入り口の場所だ」


 スィダに手渡す。


 「・・・これは。 良いんですの?」


 イディオータは先ほど座っていた場所に座り直す。


 「その先を見て、どう思うかは勝手だが、私たちの気持ちもわかるだろう」


 本を開き直す。


 「エンペラドル兄様もプリンセッサ姉様も民の声をよく聞くであろう。 現状『奴隷制度』は世論では消した方がいいとされている物だ。 あの2人なら確実に消してしまう。 貴様らは知りもせずに『奴隷制度』を廃止しようとしている。 人を纏める力の無い私にはクラボ兄様しか居ないのだよ」


 スィダは頭を下げる。


 「ありがとうございますわ。 しっかりとこの目で見て考えて、もう一度この場所に来ますわ」


 本を読み進めるイディオータ。


 「あぁ、貴様がどのような考えになるか、期待せずに待っているよ」


 ○


 鉄格子に鍵を閉めるスィダ。


 「次に、行く場所が決まりましたわね」


 スィダが呟くとエンシアが頷く。


 「えぇ。 ただ。 休み明けにも試験がありますわよ」


 「うげっ、忘れてた」


 ティンが頭を抱える。


 「では、試験が終わり次第行きましょうか」


 俺は頷く。


 「スィダがそれで良いなら。 そっちの方が助かる」


 「えぇ。 では、部屋へ戻りましょう」


 そして、部屋に戻った俺たちは眠り、翌日の昼頃にご飯を食べて『メディオ学院』へ戻ったのだった。

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