『入学試験編』 『入学試験』 4
長い試験が終わり、日が傾いた頃。
入り口近くにてサティスとティンを待っていた。
「あの先生、怖かったけど、良い人そうだよね」
ファセールがそんなことを言った。
試験で対面した強面を思い出す。
あれのどこに良い人そうと言う感想がでるのか?
「そうか?」
「うん。 だって、私が帽子を脱いで絶対に『音楽魔術』の使い手だってわかったはずなのに何も言わなかったんだもん。 ただ一つだけ、歌うなよって注意しただけ。 ふふっ、やっぱり優しいよあの先生」
「そ、そうだったのか?」
「うん! ふふっ、皆合格してると良いね」
ファセールが微笑んだ。
キャップ帽で顔が殆ど隠されていても分かるその可愛さにちょっとドキッとする。
「まぁ、大丈夫だろ。 俺達だ。 『実技』で落ちるわけがない」
そんな話をしていると。
「待たせたわね!」
サティスの元気な声が飛んできた。
先ほどの落ち込みはどこへやら。
すっかりいつもの調子に戻っていた。
「わりぃ! おそくなった!」
一緒に駆けてくるティン。
「おう! 大丈夫だ!」
俺は手を振って迎える。
「サティス! どうだった!?」
周りにはもう誰もいないため、ファセールがいつもの調子で聴いた。
「ファセール!」
そんなファセールにガバッと抱き着くサティス。
「おっとっと」
ファセールは、ちょっとふらつきながらも優しく受け止める。
「聞いて! 私、合格だって!」
・・・は?
「まてまて、まだ結果発表してないだろ」
俺はツッコミを入れる。
「あぁ、それがだな」
ティンは後ろ頭を掻きながら言った。
「こいつ、先生に勝ったんだわ」
「勝った?」
ファセールがサティスに抱き着きながら問う。
実際はファセールが抱きしめているのだが、身長差のせいで逆に見えている。
「そうよ! 『実技試験』は先生との手合わせだったのよ!」
あぁ、なるほど。
そう言う事か。
俺は納得がいった。
きっと、俺達と同じ、一対一で行う試験だったのだろう。
「先生、めちゃくちゃ強かったんだぜ?」
ティンが遠い目をする。
「あら、でも、ティンも一発いれてたじゃない」
「・・・あんだけ打ち込んだのに」
ちょっと肩を落としている。
一体どんな戦闘が繰り広げられたというのか。
「でも、一発いれた事に変わりないわ! 入れる事が出来た人、ほとんどいなかったからすごい事よ!」
「先生大人げないなぁ」
俺は、サティスの言葉にちょっと苦笑い。
「ふふっ。 『剣術』をやってる人ってなんにでも本気の印象だよ」
ファセールが微笑む。
それはサティスのイメージが強いだけだろ。
と、心の中で突っ込むが、ティンもそうだったことを思い出して、もしかしたらそうなのかもしれないなとも思った。
「まぁ、そんなめちゃめちゃ強い先生相手に一撃よ。 一撃。 一撃で伸ばしちまった」
ティンは呆れたと言った顔で手を振る。
「『剣舞術』だけで行けると思ったわ! 実際、本当にそれだけで勝てたのよ!」
ファセールから離れてえっへんとでも言いたげに胸を張る。
「凄いねぇ」
ファセールはサティスの頭を撫でていた。
微笑ましい限りだ。
「『紅蓮剣』も『会心剣』も使わなかったのか?」
「えぇそうよ! 『贖罪の業火』を使うほどでもなかったわ! 『クラコヴィアク』一発よ!」
「いや、素であの速さって、お前ら普段どんな奴敵に・・・。 あ、『ドラゴン』だったわ」
ティンが一人で言って一人で突っ込んでいた。
「それは凄いなサティス」
俺は思った事を素直に口にした。
ポカンとした顔をしている。
「・・・凄いの?」
驚いた顔にも見える。
「え? いや、凄いだろ? え?」
なにか変なことを言ったのだろうか?
「・・・私、凄いの?」
・・・?
「サティスは凄いだろ?」
意味が分からない。
何でそんな不思議そうな顔を?
「ファセール。 フェリスが久しぶりに褒めてくれたわ!」
バッとファセールを見て途端に嬉しそうな顔になる。
・・・久しぶり?
俺はその言葉にハッとする。
俺、サティスを最後に褒めたのはいつだ?
お礼は何回も言ってたと思うが・・・。
だが、俺が褒めても良い物なのか?
同い年の男に褒められても気持ち悪がられたり、お前に言われたくないとかなったりしないか?
前世ではそうだったぞ!?
今はもう、前世で言う思春期だ。
そういう思いだってあるかもしれないじゃないか?
うーん。
だめだ、変な方に思考が言っている。
「良かったね」
よーしよし。 と言った感じでサティスを撫で続けるファセール。
「えぇ! 嬉しいわ!」
ニコニコのサティス。
・・・杞憂か。
俺なんかが褒めて、ここまで喜んでくれるならいくらでも褒めてやろう。
なんておこがましいか?
でも、まぁ、今は沢山褒めてみる事にしよう。
「サティス。 いつも頑張ってて偉い! 生きてて偉い! 今日も可愛い! 最近は綺麗にもなった! 長い髪も似合っている! 可愛い美しい素晴らしい!」
・・・いや、きもいな?
「ほっ誉めすぎよ!」
怒られちった。
顔が真っ赤になっていくサティスが可愛くて調子に乗ってしまった。
以後気を付けよう。
「もう!」
プイッとファセールを見るサティス。
ファセールは微笑ましそうに笑うのみ。
「・・・でも、ありがとう。 嬉しいわ」
ファセールの微笑みに表情を緩めたサティスがこっちを見た。
夕日に照らされるサティスの笑顔がとっても綺麗だった。
これからは意識して褒めていこう。
〇
後日談的な物になる。
試験から一週間後。
合格通知が届いた。
俺達4人とも4月から『メディオ学院』の生徒だ。
仕事と勉学。
もしかしたら部活や委員会なんかもやるかもしれない。
忙しくなる。
ティンは、自分の会社を大きくするための学びと人脈の確保の為。
ファセールは、『魔術』の学びと『音楽魔術』の上達、そして読みたい本を読む為。
サティスは、様々な相手との戦闘を通して得る経験と、学びによる実力向上の為。
俺は、『魔術』の知識とこの世界の事を知る為。
それぞれ目的は違えど、楽しい学院生活にしたいと思う。
これからの学院生活が楽しみだ!




