『成人祝い編』 『朱色再び』
「ねぇ、今の話本当なの!?」
雪山。
あと少しで頂上と言った所で俺はアルテサーノの元に行く理由を話した。
サティスは大興奮である。
幼い頃の彼女の様に飛び跳ねそうである。
頬と鼻先が赤くなっていて可愛い。
俺は彼女の問いに頷く。
「あぁ、サティスの剣を打ってもらえるように頼んだら引き受けてくれた」
ガバッと抱き着かれる。
サティスの落ち着く良い匂いがした。
流石に水浴びをしたばかりだったためいつもの汗の匂いは無かったが。
それでもなぜかサティスの匂いは落ち着く。
長く嗅いでいるからだろうか?
・・・いや、キモいな。
変態だよ。
「あ、ごめんなさい」
ササッと離れたサティス。
おや?
どうした?
前はもっとくっついていただろうに。
・・・これも一人立ちの影響かなぁ。
寂しい。
俺は歩きながら振り返り、後ろ歩きになる。
「そんな謝らなくて良いんだぜ? ほら、おいで~」
なんて両手を広げてふざける。
「・・・え? あ、あ、いい! いいわ! 大丈夫よ!!」
顔を寒さで真っ赤にして必死に首と手を振っている。
そんな必死に抵抗しなくても。
しょんぼりだ。
あれ?
もしかして、臭かったとか?
俺は自分のにおいを嗅いでみるが、寒さで良くわからなかった。
単純に距離を置かれている可能性も・・・。
前世の『幼馴染み』のように。
トラウマがフラッシュバック。
いやいや。
サティスに限って。
俺は、要らぬことを思い出して、勝手に落ち込んで、肩を落としながら進行方向に体を向け直した。
「・・・『ビュォーもっーーな』かったかしら」
暴風に紛れてサティスが何か言った。
「何だって?」
振り替えって問う。
「何でもないわよ!」
「そうか?」
気のせいだったか?
俺は首を傾げて再度前を見る。
『工房』が見えた。
「お、着いたぞ!」
俺は気を取り直してサティスに声を掛ける。
「え!? 本当!?」
隣に走ってくる。
いつもの右隣。
ともに歩く。
「ね、ねぇ、嘘じゃないのよね!? ほっ本当に私に作ってくれるのよね!?」
何度目かの確認。
それだけ信じられないのだろう。
彼女はアルテサーノの護衛の際、せっかく作ってくれた『偽曲剣』『グラナーテ』を壊してしまったと言う。
俺としてはそれが完璧な物でなくて良かったと思うのだが。
サティスにとっては一大事だったらしく、しばらく落ち込んでいた。
帰ってきてコルザの事を話してとても喜んではいたが、護衛の事を聞いたらどんどん落ち込んでいったので、俺とファセールで沢山話を聞いた。
『カフェーオレ』も効果的だったらしく、徐々に落ち着きを取り戻していったのだ。
ああ、あの件。
結局謝れてない。
今さら蒸し返すのも良くない気がするな。
「嘘じゃないって! 俺がこんな嘘つくわけないだろ!」
俺はサティスを安心させるために強めに言い切ってやる。
「そっそれもそうよね・・・。 フェ、フェリスだものね・・・。 で、でもでも、結局あの時作ってくれた剣も壊しちゃったし」
思い出して悲しそうな顔になり落ち込むサティス。
俺は『工房』の前に立つ。
これ以上落ち込む前に話を変える。
「それにしても良かったよ間に合って」
今日は閉まっている工房のドアを開ける。
俺の言葉の意味が分からずに首を傾げるサティス。
「え?」
ドアの向こうには作業台の上に布が被せられた何かと、その前に上裸の朱色の髪を持つ美しい女性が腕を組んで立っていた。
「サティスの誕生月にさ」
先にサティスを入れてやり、それに続く。
「よぉ、待ってたぜ? 『無敵』を夢見るお2人さん」




