『英雄パーティ』
『冒険者ギルド』。
俺たち『ミエンブロ』は依頼を受けに来た。
中に入る。
「あ! コルザさん! 今日も来てくれたのか!」
「おーい! 『英雄』の登場だ!」
「コルザさん! これ! 是非食べてください!」
「コルザさん!」
「コルザさーん!」
中に入るなり、先頭を歩いていたコルザが老若男女、『人族』『長耳族』『獣人族』様々な種族、とにかく沢山の人に囲まれた。
「なに、これ?」
サティスも困惑である。
「ちょ、見てないで助けてくれ!」
珍しくコルザが慌てている。
「助けるも何も、こはどういう状況なんだ?」
俺は囲まれているコルザに声をかける。
「見てわからないのかい!?」
「分からないわよ! どうしてコルザはそんなに人気者になってるのよ!?」
サティスは驚いた顔で問う。
すると、回りを囲んでいた人々が俺たちに振り返る。
「それは、我々を救っていただいたからです!」
1人、初老の『獣人族』の男が俺たちの前に出てきてそう言った。
彼の後ろから、若いうさぎ耳の『獣人族』の女性が顔を出した。
「そうです! 私たち、彼女に助けられたんです! あぁ~、今思い出しても格好いい~」
頬を赤らめながら言うその女性がコルザの事を見る目は本気だった。
そこで俺は何となく理解した。
コルザは、『空間迷宮』で『冒険者ギルド』の面々を助けている。
加えて、この街を救う一端も担ったのだ。
つまり、この街でコルザは『英雄』になったのだろう。
もみくちゃにされるコルザ。
慌てた姿が珍しくて少し可愛かった。
「・・・やっぱりコルザはすごいわね」
サティスも何となく察したのだろう、コルザが俺たちの居ない間何をしていたかはサティスも聞いている。
サティスが笑う。 いつもの獰猛な笑み。
「負けてられないわ」
「そうだな」
俺はサティスの言葉に頷く。
「ん? ちょっと待ってくれ? コルザさんと来たってことはもしかして?」
コルザを囲んでいた連中の1人、男の声が聞こえた。
「あ! まさか、『ミエンブロ』のみなさんですか!?」
別の、今度は女性が顔を出した。
その言葉に静まり返る人々。
視線がこちらを向く。
やっと落ち着いたため、コルザが胸を撫で下ろす。
「ふぅ・・・。 あぁ、そうだ。 彼女たちが僕の仲間だ」
コルザが息を整えてそう宣言した。
集まる視線が期待に変わる。
「おぉ! あなた方がコルザさん自慢の仲間!」
「事あるごとに、誰だかの方が力強い、誰だかの方が支援が上手い、誰だかの方が殲滅力に長けている、誰だかの方が皆を守るのが上手いと言っていたが、なるほど! この方たちが!」
「な!? 何を言って!?」
「いや~! コルザさんの自慢の仲間が来てくれたなら心強いなぁ~!」
「んだな! コルザさんの大好きな仲間だ! 頼りになるぞ~!」
「は!? 待ってくれ!」
「確か、『空間迷宮』を踏破してくれたのもあの人たちだよな!?」
「いや~! ほんとうに助かったよ! 『空間迷宮』には手を焼いてたんだ!」
「コルザさんがよ! 本来、俺たちで何とかしなきゃならねぇ案件なのに手、貸してくれてよ!」
「あぁ! まさしく『英雄』だぜ! コルザさんは!」
「いよ! 『英雄』コルザ!」
コルザが見たこともないくらいに顔を真っ赤にして慌てていた。
それにしても。
「へぇ、コルザがね?」
「ふふっ、嬉しいわね!」
「こら! そんな目で僕を見るんじゃない!」
俺とサティスの暖かい眼差しに気づいたのだろう、コルザが怒っていた。
「あぁもう! 話が進まないじゃないか! 皆よけてくれ! 僕たちは依頼を受けに来たんだ!」
コルザが話を進めるためにその場を無理矢理納めたのだった。
○
その日から俺たち『ミエンブロ』の戦いの日々が始まった。
ある時は、『ミエンブロ』揃って、またある時はそれぞれで、またある時は現地の『冒険者』と協力しながら。
派遣されてきた『ドラドアマリージョ獣王国』『獣人軍隊』が合流していたのもあり、余裕を持って戦う事が出来た。
そして、4ヶ月が経った頃。
体力は既に戻り、以前よりも強くなっていた 俺たちは、コルザが『空間迷宮』で退けていたティラノサウルスを見つけた。
多くの仲間を引き連れているのを見るに、あのティラノサウルスを倒せば戦いが落ち着くと見た俺たちは、安全に殲滅するために『冒険者ギルド』に情報を持ち帰ることにした。
『冒険者ギルド』に情報を持ち帰ってすぐ、ティラノサウルスの『ドラゴン』と、仲間であろう大量の『魔獣』と『魔物』を確実に殲滅するために、スィダが『獣人軍隊』の『軍隊長』を連れてきたのには驚いた。
父の大切な仲間を殺し、果ては父が『軍隊』を退く事になった原因である憎き『ミエド・ドラゴン』を倒したと言う話を聞いた『軍隊長』『エヘールシト』が俺達に会いに来たのだ。
大きな剣を背負う、大柄な熊耳のついた『獣人族』だった。
どうやって倒したか、どう対処したか等沢山情報を提供し、彼と作戦を考えることになった。
作戦会議は『冒険者ギルド』で開かれ、自然と手練れの『冒険者』も集まり、大きな物になっていった。
そして、万全の準備を整えた俺達『ミエンブロ』と、『エヘールシト』率いる『獣人軍隊』、手練れの『冒険者』が一同に会して『ドラゴン』に挑んだのだ。
迫り来る『魔獣』、『魔物』を殲滅し、『ミエド』となりかけていた『ドラゴン』と対峙した時、立っていたのは、息を切らしているコルザとサティス、そして、シオンさんだった。
『冒険者』達と、『獣人軍隊』は完全にガス欠、スィダも敵視を取り続けていたことで息が切れていた。
俺も、支援のために『空間把握』や『空間掌握』、『儚畢丸』を使ったことで体力の限界が来ていた。
『軍隊長』も、『ドラゴン』の足を大剣で一刀両断したのを最後に膝をついていた。
足が再生を始める。
再生が終わるまでは動けない。
その隙に、コルザとサティスの渾身の一撃が『ドラゴン』を切り裂かんとした時、『ドラゴン』が『火炎放射』を放った。
『ミエド』ではなかったため、油断していたのだ。
危うく、2人揃って火に飲まれようとしたとき、シオンさんが吠えた。
「させません! 私は、大切な人を守るんです!!」
瞬間、シオンさんの翼が服を突き破り、藍色の光を放ちながら大きく広がった。
光輪も強く光り輝く。
同時、シオンさんの左右に出現した巨大な魔方陣から2体の『ドラゴン』が飛び出した。
それは、サティスとコルザの前に立ち、1体が盾のような頭で火炎放射を防ぎ、もう1体がハンマーのような尻尾でティラノサウルスを叩き飛ばした。
尻餅をついたコルザのサティスの前にシオンさんが立つ。
「もう、命を奪うようなことはしません。 これからは、守り続けるんです。 大切な仲間達が、私と仲間で居てくれるために! フェリスくんが、私との繋がりを切らないでくれたことを後悔させないために! 私は、生きて罪を償うんです!」
『天族』の様な見た目になったシオンさんが体制を崩したティラノサウルスを睨む。
「だから、あなたも殺しません!」
青く染まった視界の中で、シオンさんが周囲の『魔素』を体に集めているのが見えた。
あんな使い方もあるのかと思った矢先、シオンさんが大きな魔方陣を出現させた。
「『召喚契約』!」
魔方陣がティラノサウルスに飛んでいく。
それは、額に当たる。
「・・・くっ、足りない!?」
弾き返される。
『ドラゴン』が立ち上がる。
「諦めません! 足りないなら、もっと強い契約を結ぶまでです! 『神樹教』なんて知りません! もっと、もっと『魔素』を私に! はぁあああ!!」
シオンさんの周辺の『魔素』がさらに集まっていく。
鼻血。
体内の『魔素』は既にほとんど使い尽くしている。
本来ならば、倒れてしまう。
だが、シオンさんは今、『神樹』の所有物とされている『無属性魔素』を、周囲から体に取り込んでいる。
『神樹教』では、忌避される行為だ。
それでも、シオンさんは使ったのだ。
サティスとコルザを守るために。
「従ってください! 『主従契約』!!」
藍色に光り輝く魔方陣。
それが、ティラノサウルスの額に埋め込まれ、シオンさんと主従関係になった。
そう、主従関係だ。
ティラノサウルスは、シオンさんを主として従うようになったのだ。
シオンさんは、主従関係を結んですぐに倒れてしまったが、『主従契約』は切れることがなかった。
つまり、シオンさんが『契約』を切らない限り、ティラノサウルスは永遠とシオンさんに従うようになったのだ。
ティラノサウルスは、契約を結んだ場所で静かに過ごすようになった。
○
そして、そのティラノサウルスとの戦いから1ヶ月が経った。
十分、休んだ俺達『ミエンブロ』は予定通り『ディナスティーア王国』までの帰路に付こうとしていた。
「なんだか、終わってみればあっという間だったわね!」
街の出入り口でサティスが伸びをしながら言った。
また少し、背が伸びた気がする。
どんどん、綺麗になって行くな。 なんて思っていた。
「そうですわね・・・。 皆様、本当にありがとうございましたわ! 間違いなく、あなた達は私たち『獣人族』にとって『英雄』と言える方たちでしたわ!」
「よしてくれよ・・・。 僕はあまり、そう呼ばれたくないんだ。 だって『英雄』は、もっとすごい人が呼ばれるべきだよ。 死にそうになりながら働いている人とかね」
苦笑いするコルザ。
きっと、頭の中には俺の師匠であり、彼女の父であゆ、人族の『英雄』が浮かんでいる事だろう。
あれはちょっと、働きすぎな気がするが・・・。
と、出発しようとしていた俺たちに声がかかった。
「『英雄パーティ』! 少し待ちたまえ!!」
と、俺たちについた二つ名が聞こえた。
サティスは嬉しそうに振り返る。
俺も声のした方を振り返った。
「すまないね! 呼び止めてしまって! 最後にしっかりとお礼を言いたかったのだよ!」
がっはっは! と笑う豪快な『獣人族』のおっさん。
男臭いが彼を表すのにちょうどいいだろう。
熊耳が少し可愛いが、実際は良い年したおっさんである。
まぁ、実年齢は21歳と大分若いのだが、『獣人族』としては42歳となり、立派なおっさんである。
「あら、『エヘールシト』! こんな所に来ても大丈夫ですの?」
そんなおっさんに軽口をたたくスィダ。
戦いの途中で7歳になったらしい。
確かに成長が早い、たった1年足らずの間に髪はショートからセミロングまで伸び、癖っ毛の癖が強すぎてくりんっとしてきている。
もう少し頑張れば縦ロールになるのではないだろうか?とふざけたことを考える。
身長も少し伸びているらしく、サティスの胸程だったのが、今では首元まである。
そんな彼女が気さくに話しかけるおっさん。
それこそ『群隊長』『エテーシルト』であった。
くすんだ灰色の毛色が特徴的な大男は、立派な『軍隊』の長なのだ。
そんな彼に気さくに話しかけるとはいったい何事なんだ!
俺は2人のやり取りを見る度に頭が混乱しそうになる。
「あら、お礼ならわたくしからしっかり言っておきますわよ!」
「あぁ、それなら良かった。 ついでに言っておいてください、この街が無事であったのは『英雄パーティ』『ミエンブロ』のおかげだと。 そして、『ドラドアマリージョ獣王国』『軍隊長』『エテーシルト』がご協力感謝していたと」
言いながら浮かべているのは良い笑顔である。
わざとなのだろう、全部聞こえている。
「まったく、わたくしが言っておくと言っているじゃありませんの」
「ははっ、こいつは失敬。 では! 達者で! また会う事があったらそん時はよろしく頼むぞ!」
大手を振る『エテーシルト』。
少し気恥ずかしさを感じながらも俺達は5人揃って手を振り返した。




