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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第三部 少年期 後編 『迷宮編』
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『ぬいぐるみ』

 レイ歴276年。

 4月。


 『迷宮都市』『カエール』。

 『西部』。


 『転移迷宮』と呼ばれている、コンクリートで出来た巨大なピラミッド型の迷宮。 その向こうは大海原が広がっている。

 『転移迷宮』の目の前に広がっている『西部』の街には、波の音が微かに聞こえてくるだろう。

 しかし、今は夕方。

 日が暮れ始めて夜が始まる時。

 迷宮探索から戻った旅人や、魔獣や魔物の討伐を終えた冒険者が様々な目的を持って街に繰り出す頃のため、賑わいによって波の音など一切聞こえない。


 「病院もここにあるのか」

 

 コルザは、右手に持っていた、『冒険者ギルド』で買ったばかりの『転移迷宮』1階の地図を『亜空間』にしまいながら大きな建造物を見上げていた。

 アラビアンな雰囲気の白い建物。

 

 『西部』の街は『カエール』の街で一番にぎわう場所である。

 昔からこの辺には『迷宮』が出現していた。

 『迷宮』での一攫千金を求めて集まってきた旅人たち。 それを相手取る商人。

 それらが作ったのがこの街だった。

 次第に住み着く人が増え、気づけば大都市となっていた。

 中でもこの『転移迷宮』が出現した66年前。

 この街の活気が勢いづく大きなきっかけだった。

 誰もがこの見たことも無い姿形の『迷宮』に夢を見た。

 『転移迷宮』の近くに多くの者が居を構え、多くの人々が行き来する場所の為に宿ができ、飲食店や売り場も増えていった。

 しかし、それは最初だけ。

 次第に『転移迷宮』の危険性や有用性の無さが広まるにつれて、『迷宮』に潜る人は減っていった。

 結果として残ったのは、危険に対処するための『冒険者ギルド』や、怪我人の治療のための『病院』。 そして、戻れないところまで活気づいた街だった。

 『迷宮』は『転移迷宮』だけではない。

 他の迷宮からは遠いが、何も通えない距離ではないし、店も充実している。

 それならこのままこの『西部』で生活を送った方が良い。 と言うのがこの街に住んでいる人々の見解である。


 「覚えておいて損はないね。 サティス。 ここに病院があるから覚えておいてくれ。 後でフェリスたちにも伝えよう」


 「わかったわ!」


 サティスがコルザに言われて元気に頷いた。

 今、サティスとコルザは、病院の隣にある『冒険者ギルド』にて『転移迷宮』1階の地図を購入し、2人で外に出てきたところだった。

 勿論、料金はシオン持ちだ。

 フェリスとシオンは、必需品の購入をするついでに『手紙召喚』の研究もしてくると出て行った。 スィダはフェリスの後についていった。

 夕飯はそれぞれで済ませるため、コルザはそろそろ夕飯を食べる場所を探そうかと考えていた。


 「あ、そうだわ! コルザ! ちょっと来て!」


 「え?」


 サティスが突然、コルザの手を引いて走り出した。

 コルザは、不思議に思いながらサティスに引かれるがままに街を駆け抜ける。

 2人で人の間を縫うように駆け抜ける。

 ついたのは、『西部』の土産屋だった。

 ちょっと待ってて! と、サティスはコルザを置いて土産屋に入っていった。


 「一体なんだ?」


 と、待つこと数分。

 サティスが土産屋から出てきた。


 「ふふっ! コルザ! これあげるわ!」


 出てきたサティスの手にあったのは、この街の入り口にもあった丸っこいぬいぐるみ。

 モチーフはわからないが、丸っこくてふわふわなその可愛さにコルザの動きが固まる。


 「な、なんだい? 突然」


 触れたい衝動を抑えてぬいぐるみの意味を問う。


 「え? 違ったかしら? コルザ、好きそうだと思ったのだけれど・・・」


 しょんぼりするサティス。


 「い、いや。 突然どうしたのかと思って」

 (僕がぬいぐるみ好きだとは言ってないはずだ・・・)


 身構えるコルザ。


 「え? 可愛い物好きでしょ?」


 「な、知っていたのかい!?」


 「ふふっ! 見てれば分かるわよ!」


 「な!?」

 (や、野生の勘か・・・。 恥ずかしい)


 コルザの頬が少しだけ赤くなった。

 

 「ふふっ。 珍しい顔ね! 可愛いわ!」


 「か、可愛いとか言うな! 僕に可愛いは似合わない!」


 「え? どうして? コルザは可愛いわよ?」


 「うっ・・・あ・・・。 えぇい! そんなことはどうでもいいんたま! なんで突然!?」


 サティスがコルザを押しているという珍しい構図。

 この場にフェリスが居たらニヤニヤしていただろう。

 コルザが赤くなりながら話を変えた。

 言われてサティスが首をかしげる。

 何を当然の事を?

 とでも言いたげだ。

 その様子に心当たりのないコルザが戸惑う。


 「え? 忘れてるの? 誕生月よ?」


 「あ」


 コルザが思い出す。

 そういえば今は4月。

 15歳になっていた。


 「ほら、成人だから本当はもっとちゃんとお祝いしたかったんだけど、今は旅の途中でしょ? だから、今はこれで許してね?」


 申し訳なさそうに言うサティス。

 その様子にコルザが両手で頭を抱えた。


 (・・・しまった。 僕としたことが忘れていた。 先月でサティスとフェリスは半成人になっていたじゃないか)


 「・・・ごめん」


 「どうして謝るのよ?」


 「だって、サティス。 君は先月で半成人じゃないか」


 言われたサティスが目をぱちくりとする。


 「あぁ、そういえばそうね! ・・・って、これじゃあコルザの事を言えないわ!」


 大きな声で笑うサティス。


 「この埋め合わせはいつか、絶対にする。 約束だ」


 「ふふっ、良いのよ! 気にしないで! それよりほら! 誕生日おめでとう!」


 サティスが屈託ない笑みでぬいぐるみを差し出してきた。

 コルザはそれを受け取る。


 「あぁ、ありがとう」


 優しく抱きしめて礼を言うコルザ。

 ちょっと恥ずかしいのか頬を赤らめていた。


 「ふふっ、やっぱりコルザは可愛いわ!」


 「う、うるさいよ! それより早くご飯を食べに行くよ! 今日は僕が奢る!」


 言いながら振り返ってぬいぐるみを『亜空間』にしまうコルザ。


 「それは悪いわよ!」


 急ぎ足で歩き出したコルザを追いかけるサティス。


 「良いんだ! せめてものお祝いだと思って受け取ってくれ!」


 「でも、フェリスに悪いわ」


 「フェリスにも何かを奢るから」


 「・・・そう?」


 「あぁ!」


 「それじゃあ甘えちゃうわね!」


 「それでいい!」


 恥ずかしいのかずんずん前に進んでいくコルザ。

 サティスは嬉しそうにそれを追いかけていった。

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