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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第三部 少年期 後編 『迷宮編』
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『救出』

 「おいおい、『奇形』じゃねぇか。 しかも黄金の髪。 高く売れるぜこりゃあ」


 話し声に目を覚ます。

 両手を縛られているため、満足に身動きが出来ない。


 「なっなんですの!?」


 部屋で寝ていた時、何者かに襲われそうになり、抵抗したことまでは覚えている。

 頭に痛みがある事を考えると殴られたのか、意識を奪われたのだろう。

 寝込みを襲われなければ逃げられたのに・・・。


 異様な臭いのする室内に不潔な『獣人族』の男性が4人。

 日中の3人に加えて1人。

 あの人がおそらく雇い主だろう。


 「よくやった。 そうだ、特別手当てだ。 仕込みの手伝いをさせてやるよ」


 「うおっ! まじっすか! へへへっ・・・。 それじゃ、遠慮なく」


 言いながら服を脱ぎ始めた。

 私に迫る大男。

 彼はすでに服を着ていない。

 これからされる事を想像して絶望する。

 こいつらは私を『性奴隷』にする気なのだ。

 知識を仕込んで売りさばくと聞いたことがある。


 「やめて下さいませ! いや! 触れないで!」

 

 必死に抵抗してみるが腕が拘束され、何倍もの体格差に上手く抵抗できない。


 「暴れんなよ『奇形』。 お前、どうせこれから先、生きていても良い事なんて無いんだからよ、どうせなら良い飼い主に買われて、いい思いしろよ」


 「けひひっ。 良い飼い主て! 奴隷買うような奴に良い奴なんかいねぇって!」


 腹を抱えて大爆笑をする醜い男ども。


 「よく聞け『奇形』。 お前は生きていたら駄目なんだ。 『奇形』は失敗作なんだから。 死んだ方が良い。 でも、俺達は優しい。 殺さない。 だからせめて俺達『普通』の奴らの人生を豊かにする道具になってくれや」


 動きが止まる。


 ・・・失敗作。

 あぁ、そうか。


 だから私は生まれてからずっとあんな目で見られていたのか。

 だから私はうとまれていたのか。

 『普通』の人たちの価値観はそうだったのか。


 涙が出る。

 

 「嫌ですわ・・・。 だれか、誰か助けて下さいまし・・・」


 どうして少し見た目が違うだけでここまで言われなければならないのか不思議でたまらなかった。

 

 「お前みたいな『奇形』。 誰も助けてはくれないさ」


 過去を思い出す。

 私に手を差し伸べてくれた人なんていなかったのだ。

 おじさんだけが優しくしてくれた。

 他の人は私が転んでも手を刺し伸ばしてくれる事は一切なかった。

 

 涙が出る。

 

 どうして。

 どうしてこんなにも理不尽なのだ。

 こんなのは間違っている。

 だが、それに抵抗できない自分が居て。

 その無力さが悔しくて。


 さらに涙が流れた。


 「だれか・・・助けて」


 その時だった。


 扉が吹き飛び、2人の少年が現れたのは。


 〇


 城に殴り込んだ『ミエンブロ』。


 コルザが様々な『舞術』を駆使して意識を奪っていく。

 サティスが『剣舞術』で意識を奪い続ける。

 ティンが『抜剣術』で意識を奪う。

 フェリスが『剣舞術』と『空間魔術』、『基本魔術』で器用に戦闘不能にしていく。


 これを繰り返して建物内部を攻略していった。

 そこでサティスが気付いた。


 「見て! あの上、怪しいわ!」


 サティスが指差した天井。 

 フェリスがいち早く反応し、『空間把握』で上の様子を確認。


 「いた! くそ! 危険だ!!」


 フェリスは気付く。

 天井が隠し階段になっていることに。

 スィダが隠し階段を上った先の廊下。 その奥の部屋で、『獣人族』の男に囲まれている事に。

 しかも、男たちは服を着ていない。

 スィダは押し倒されて必死に抵抗している。

 『転移』で向かいたいが隠し階段と、廊下の奥にある部屋の扉が閉まり、突き抜けることが出来ない。


 「フェリス! 助けるんだろ!?」


 コルザの叫びに頷くフェリス。


 「そうだ! スィダは絶対に助けなきゃならない!」


 フェリスが集中力を高める。

 

 「『空間魔術』『空間掌握』!」


 フェリスの瞳に青い炎が宿る。

 周囲の情報を全て把握する。

 空間の中に、フェリスだけが把握し、干渉できる無色透明な手を作り出す。


 「ここ!」

 

 その手で隠し階段の鍵に触れて開ける。

 同時に『空間掌握』が解かれる。


 ここまでの旅で安定して使えるようにはなったが、継続できるのは、やはり3秒。 そして、一度使えば少しの休憩を挟まないと連続しては使えないと言った制約はある。


 それでも、安定して使用できるようになった『空間掌握』。

 フェリスは惜しみ無く使用する。


 隠し階段の鍵が開けられたことで上から吊るし階段が降りてきた。


 「それじゃあ、先に行って!」


 サティスがフェリスの背中を押す。


 「ありがとう! 行ってくる!」


 「俺が道を切り開く!」


 ティンが階段まで一気に突き抜けて、道を切り開いた。 それを見逃さずに『転移』し、2階へ。

 ティンもそれを追いかける。


 「あっちだ!」


 フェリスがティンの手を握り、共に『転移』する。

 廊下を移動し、一気に部屋の扉前。


 「しゃあ! 行くぜ!」

 「おう! こういうのは派手に行こう!」


 フェリスが手元に球体を作り上げて少しだけ小さくする。


 「『儚畢丸』!」


 球体を投げる。

 扉に衝突。

 爆発。

 

 「なんだこいつら!」

 「おいおいおい!」

 「なんでここにいるんだ!!」


 異臭を放つ室内で盛っている男ども。


 「スィダを助けに来た」


 フェリスの言葉。


 「て、ことで。 覚悟しろや!」


 ティンの行動。

 流れるような『抜剣術』で一気に3人の意識を奪う。


 残った雇い主であろう、『獣人族』の男。

 熊の『獣人族』。


 「な、お、お前ら! こんなことして許されると思っているのか!?」

 

 「「うるせぇよ!」」


 フェリスの『空間留置』が男の動きを止めて、ティンの長剣による一撃が意識を奪った。


 男4人の意識を奪った2人は、スィダに駆け寄る。

 すでに半裸の状態で目のやり場に困るフェリスに対し、自身の上着を優しく被せるティン。

 

 「うっうっ」


 涙を流すスィダ。


 「無事か?」


 ティンの優しい声に何度もうなずくスィダ。


 「すまない。 遅くなった」


 申し訳なさそうなフェリス。


 「どうして助けてくれたんですの? わたくし、『奇形』ですわよ」


 スィダが涙ながらに問う。


 「助けるって約束しただろ。 『奇形』は関係ない」


 フェリスが真剣に答える。


 「『奇形』・・・? どこが?」


 事情をよく知らないティンが頭を傾げる。

 

 「これですわ」


 言いながら左手で人の耳を見せる。


 「あぁ、耳が4つか。 それが何だって言うんだ?」


 本気で意味が分かっていないティンが首を傾げる。

 

 「・・・気持ち悪いでしょう?」

 

 スィダが今まで感じてきた嫌な目線の正体を明かす。

 スィダは今までずっと気持ち悪がられてきたのだ。

 それが辛くて悲しかった。

 それなのにどうして助けてくれたんだろか。


 「気持ち悪いとは思ってないぞ」


 フェリスが呟いた。


 「え?」


 「あぁ、いや、ごめん。 あの時は俺の解釈にそぐわなかっただけで、耳が4つあっても別に気持ち悪いとは思ってないよ。 そう、解釈にそぐわなかったんだ」


 「・・・あ」


 そう言えば、彼は不快だと言う視線を飛ばした事は無かったのだ。

 あったのは世界への絶望と言う、主語の大きなものに対しての絶望だけ。

 スィダへの侮蔑は一切なかったのだ。

 だから、スィダ自身も素直に許せた。


 「・・・ごめん、いまいちわかんねぇけど、その耳気にしてんのか?」


 ティンが立てないでいるスィダを抱えて立ち上がる。


 「何を気にしてんのか分かんねぇけど、ただの『個性』だろ? 人より倍耳がついててお得じゃねぇか」


 「は?」


 本当に意味の分からない発言にスィダの素の声が出た。


 「え? いや、だから、お得だろって。 人より沢山音が聞けそうだ」


 「お・・・とく?」


 考えたことも無いような価値観の話だった。

 そんな形はどうあれ肯定的にとらえられたのは初めてだった。

 だから焦る。

 どのように反応すればいいのか。

 

 「俺は可愛いと思うけどな」

 

 ティンが言った。

 スィダが初めて貰う言葉だった。

 おじさんにも貰った事のない誉め言葉。


 「かっかわっ・・・かかか・・・?」


 ぼっと真っ赤になるスィダ。

 途端に今抱えられている事が恥ずかしくなり、貸して貰った服の中は、あられもない姿になっている事にも意識が向く。


 「な! フェリス!」


 ティンに聞かれてフェリスが目をそらす。


 「・・・まぁ、正直スィダは可愛いと思うよ」

 (ただし、耳の件だけは認めないぞ、異世界め!)


 「なっ何を!?」

 

 フェリスの葛藤の末の言葉であった。

 スィダの中で今まで悩んでいたことが馬鹿らしくなった。

 それを実感して笑った。


 今まで何を悩んでいたのだろうか。

 こんな私を可愛いと言ってくれる人たちが居たのだ。

 結局は人それぞれの価値観の話だったのだ。


 それに気づいてスィダの心はスッキリした。

 

 「あははっ! あなた達、最高ですわね! どうです? わたくしが王になったあかつきにには側室になりません?」


 「おっ玉の輿も悪くねぇな」

 

 ティンがニヤッと笑う。

 

 「冗談はよせよ、皆が待ってる。 行こう」


 フェリスは冗談ととり、聞き流す。

 

 「あっ、待ってくださいまし」

 

 スィダの呼びかけに足を止める2人。


 「あ、ありがとうございます・・・。 また助けられましたわ」


 スィダの真剣なまなざし。


 「どういたしまして」

 「気にすんな」


 笑顔で答えた2人は仲間の元に、スィダを連れて戻った。

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