4歳 8
「ここにわしの孫娘の帰郷を祝して『祝賀会』の開催を宣言する!乾杯!」
木で出来たステージの上に立つ、プランターじいさんの開催宣言と乾杯で祝賀会が始まった。
「はずかしーし!てか、てか2、3日で戻るし!」
と言うセミージャの言葉で爆笑が生まれた。
さて、今回の祭りだが、猪の肉料理が異常に多く、葡萄酒やぶどうジュースと共に木製の大きないくつかのテーブルに並べられている。
俺たちが狩り残した分をセドロとブリランテで数減らしをしたため、予定よりも多くなってしまったらしい。
この料理は、腕に自信がある村民が総出で料理してくれた物だ。
保存用にも加工してくれたらしいが、保管庫がいっぱいになってしまったため、ここまでの多さになってしまったと後から聞いた。
飲み物は、自警団が村の周辺の見回りついでに隣村から葡萄酒やぶどうジュースを担いで持ってきてくれた。
日はすっかり落ちて夜。
普段なら真っ暗同然なのだが今日は違う。
それぞれの家から蝋燭を持ち寄って照らし、明るい夜となっている。
村長宅の前は開けた広場のようになっているため、そこに村民が集まっているのだ。
わいわいがやがやと村民たちが楽しそうに話している。
全員が見知った顔。
全員が顔見知りで、思わず笑ってしまう。
隣の家の人すら知らなかった前世では、考えられない状況だ。
そもそも、こういったお祭りのような物はほとんどなくなってしまっていたしな。
大きな祭りこそあったが、町内会主催の小さな祭りは一切聞かなくなっていた。
久しぶりに参加してみると悪いものではないなと思える。
村民も楽しそうだ。
ジュビアとベンディスカの親も笑顔で参加しているのを見るに、本当に全員が楽しんでいるのがうかがい知れて、こっちまで楽しくなってくる。
ステージの上には巨大な『魔獣』『ミエド・ハバリー』の死体。
血抜きは終わっていて、あとは解体のみ。
今日の一番の見どころだ。
解体担当は、もちろんセドロ。
村民たちに大分酒が回ってきた頃。
解体のためにセドロがステージに上がった。
「あー・・・ごほん。よし」
咳払い一つ、気合注入一回。
「お前ら!盛り上がってるかぁあ!!」
雄たけびのような声かけ。
ウオォオオオオッ!
と答える村民たち。
プランターじいさんも葡萄酒片手に盛り上がっている。
パワフルだな。
「これを見ろ!」
言いながらセドロが取ったのは、『魔獣』の手前に置いてあった右の牙。
村民が牙に釘付けになる。
「これをやったのは誰だ!?」
「誰だ!」
「セドロじゃないの~!?」
「教えろー!」
村民それぞれがセドロに野次を飛ばす。
「それは私の娘だぁあああ!!」
ウオォオオオオッ!
祭りでテンションが上がってるんだろう。
村民が仲良く叫ぶ。
隣で葡萄ジュースを飲んでいたサティスは、飲む手を止めてセドロに見入っていた。
「こっちの牙はベンタロンとフェリス!この首の傷はデスペハード!この左頬の砕けた骨はジュビアだ!」
「俺の息子が・・・?」
近くのテーブル。
濃紺のボサボサ髪が特徴的なジュビアの父『ヌブラダ』が驚き、隣で静かにぶどうジュースを飲んでいるジュビアを見る。
反対隣の、ジュビアの母『ヌブラド』が嬉しいのか、感動なのかで涙ぐむ。
「わ、私たちの子があんなことが出来るようになるなんて」
言いながら抱きしめる。
「すごいわ・・・本当に。どうしましょ、私、この村が好きになってしまうわ」
「・・・俺もだ」
「俺は、好きだが」
ジュビアが母に抱き着かれながらも不機嫌そうな顔で呟いた。
「ふふっ、ジュビア、照れてるね」
ジュビアの向かいに座るベンディスカが、猪の肉を食べながらジュビアを笑う。
「そして、私をいち早く呼びに来てくれたのはブリッサとベンディスカだ!2人がいなかったら間に合わなかった!」
「うぐっ」
突然名前を出されて喉を詰まらせるベンディスカ。
「お!ベンディスカ!すげぇな!」
「助かったよ!」
「最高だぜお前!」
「ごほっごほっ」
喉が詰まるだけでなく、村民たちに褒められて焦るベンディスカ。
すっと左隣のフードの女性、彼の母がぶどうジュースを差し出し、ぽんと同じくフードをした右隣の彼の父が頭を撫でていた。
「・・・ふふっ。俺もこの村、好きだ」
ぼそっと呟いて微笑むベンディスカ。
その様子に片頬だけを上げて笑うジュビア。
「この『魔獣』はこの村の協力で狩ることが出来た!その中でも人一倍頑張ったのは、『アルコ・イーリス』の面々だ!!」
俺たち『アルコ・イーリス』の面々に視線が集まる。
叱責から解放されて落ち込んでいるデスペハード。
デスペハードの隣で話を聞いていたカリマ。
憧れの父と向かい合わせでぶどうジュースを飲んでいたベンタロン。
そんな彼のために食事を持ってきていたブリッサ。
3歳になった妹のラーファガに、ぶどうジュースや食べ物を口に入れてあげていた双子ビエントとアイレ。
仲良く食事するジュビアとベンディスカ。
俺の隣で母に見入るサティス。
そして、俺。
「私の自慢の弟子たちであり、この村の希望だ!私はこの村と弟子たちを誇りに思う!!」
拍手称賛大喝采。
俺たち『アルコ・イーリス』は、村の大人たちにこれでもかと褒められた。
「さて!さっそく、食える奴らはこの『魔獣』を食べて、私たちの血肉としよう!」
抜いたのは彼女の愛剣。
「ブリランテ!手伝ってくれ!」
「はーい」
呼びかけに答えたのはこの世界での母、ブリランテ。
ひょこっと『魔獣』の影から現れた。
そういえばどこにいるのかと思ったらそんなところにいたのか。
「『魔石』は取り出しておいたわ」
言いながら手に持っているのは『魔石』。
折れた牙と共に置いてあった、俺の運んだ『魔石』も手に取るブリランテ。
2つの『魔石』をくっつける。
ぴったりと合わさる。
と、村民たちがざわついた。
「・・・素晴らしいな。あれだけ綺麗に割られたのは初めて見た」
呟いたのは眼鏡のサラサラヘアー、真面目な表情の青年『エスタシオナール』。
ベンタロンの父であり、この村の自警団を取りまとめる『団長』だ。
そんな彼は槍の扱いがうまく、『突槍術』という剣術を修めていて、セドロとブリランテがいない間のこの村の守りの要である。
そんな彼が手放しで称賛しているのが、あの『魔石』。
「ふおっふおっふおっ。あの『魔石』があればこの村を綺麗に整えられそうじゃ」
プランターじいさんのすげぇ笑い声は健在である。
「本当にセドロとブリランテには頭が上がらんのぉ」
続けて髭を撫でながらしみじみと言うプランターじいさん。
「まったく、同感です」
そう言って遠くを見つめている眼鏡の真面目そうな緑髪の青年『セミリャ』。
「おにぃ?こんなところで突っ立てていいの?」
「お、おにぃ!?そんな呼び方許した覚えはないぞ!!」
「まぁまぁ、そんなことより!あの『魔獣』が解体し終わったらまたソシエゴと話すタイミング無くなっちゃうよ?見てるだけじゃなくて行っちゃえ行っちゃえ!」
「そ、そんなことって・・・ていうかなぜソシエゴさんの名前が出るんだ!」
「くくっ。おにぃ顔真っ赤!わっかりやす~い」
「な、ななななな~」
「ふおっふおっふおっ」
そんなプランター一家の様子はつゆ知らず、『魔石』をステージの中心の置いたブリランテがセドロの左隣で直剣を抜いた。
俺たち村民に背を向けて並び立ち、『魔獣』に切っ先を向ける2人。
「どうせやるなら派手に行こう!」
セドロの言葉にブリランテがうなずく。
「えぇ!せっかくのお祭りだもの!楽しみましょう!」
「じゃあ、やるか!」
「えぇ!」
「「『剣舞術』」」
2人の息の合った言葉に会場が静まった。
「「『協奏』」」
続けて舞い始める光の玉たち。
「「『クラコビィアク』」」
タンタンタンと息の合ったステップからの突発的なリズム上昇。
同時に軽く打ち込まれる刺突。
ウオォオオオオッ!と会場が盛り上がる。
「「『エスタンピ』」」
ステップで足を踏み鳴らし、飛び上がって切りつける。
続けてリズムを上げた。
「「『ガイヤルド』」」
飛び上がり、旋回しながら切りつける。
次々と繰り出される、『剣舞術』の型。
そのどれもが美しく、『剣術』ではなく、『芸術作品』を見ている気分になる。
「サティス、フェリス。今日は私の班で戦ってくれてありがとう」
そう言いながら現れたのはカリマ。
視線はステージの上にくぎ付け。
カリマの後ろにはデスペハード。
同じくステージの上にくぎ付け。
他のメンツも勿論釘付け。
俺たちの目指す場所である。
「お礼ついでに『剣舞術』の事を教えてあげるわ」
俺は耳だけでカリマの言葉を聞く。
「『剣舞術』の事?」
「えぇ、どうして『剣舞術』が生まれたんだと思う?」
「え?どうして?」
サティスが珍しく、話を聞いている。
視線はステージの上のままだが。
「ふふっ。師匠に聞いたことがあったのよ、『剣舞術』ってなに?って」
「それでセドロはなんて?」
「うん。師匠は昔教えて貰った事を思い出しながら教えてくれた。この世界で初めて『剣舞術』を使った人の事を」
「そんな人がいたのか?」
「いるよ。だって、何事にも始まりがある」
「・・・それもそうか」
「で、その人がどうして『剣舞術』を舞ったのか」
「それは?」
サティスが気になると視線をカリマに移した。
「寂しさを紛らわすためだったんだって」
「それは・・・ずいぶんと寂しい理由だな」
俺は呟く。
この世界での母2人が舞う、美しい『剣舞術』でどんどん肉や毛皮などに解体されていく『魔獣』。
「うん。私もそう思ったよ。でも、師匠は笑って続けたんだ」
言葉を待つ。
「始まりは寂しいものだったが、『剣舞術』は繋がりを作った。彼、あるいは彼女が舞えば、たちまち皆が笑顔になった。嫌われ者だったはずのその人が受け入れられたんだって嬉しそうに話してた」
「しゃあ!締めとするか!」
「えぇ!」
舞う2人が阿吽の呼吸で舞う。
「「『修型』『タンゴ』!」」
美しい剣劇。
あんなに大きかった『魔獣』が小さくカットされていく。
「「せーの!」」
ザンッと最後の一振りでこちらを向いた、眩しい笑顔の2人。
村民たちの大喝采。
繋がりを作る『剣術』か。
「・・・素敵だわ」
そうつぶやいたサティスの笑顔はとても優しいものだった。




