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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第三部 少年期 後編 『深紅編』
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『妄想の被害者』

 松明が照らす廊下をシオンさんとともに駆け抜けて、奥にある大きな部屋への扉を開けた。

 

 「・・・うそ。 だろ?」


 部屋の中。

 奥。 大きな窓からは満月の光が差し込んでいた。

 その光が照らす、深紅の椅子の上。

 そこに彼女はいた。


 『ウトピア・グラナーテ』。


 腰かける儚げでうつろな表情の少女。

 小柄で、吹けば飛んでしまいそうなほどに華奢な体躯。

 髪は長く、頭の上の方で2つ結びにしているが、それでもなお腰かけている椅子の下まで絹のように美しく垂れていた。

 月明かりを反射させるその綺麗な髪の色は、サティスと同じ『深紅』。

 

 白い翼と頭上に浮かぶ『深紅』の光輪から『天族』だとわかる。

 しかし、驚くのはそこではない。

 腰かける彼女が抱えている少女。



 それは、意識を失ったサティスだった。



 「・・・」


 腰かける少女が、光の無い目で見つめているのは、うつぶせで倒れ込んで意識を失っているニエベ。

 全身のいたるところにある傷から出血するボロボロの身体と砕け散った三又槍の存在が戦闘に負けた事を知らしめる。


 「なにが・・・?」


 俺は声を絞り出す。

 追いついてきたシオンさんが中の様子を見て口を押えて小さな悲鳴を上げた。


 と、少女が語り始めた。

 


 「彼女は私達と同じ。 妄想の被害者」



 椅子に座る小さな少女が静かに言葉を紡ぐ。



 「生まれながらに罪があると、妄想の話を信じた者達から不正に扱われる被害者」


 

 少女の視線はサティスに移る。



 「彼女は言いました。 自分の事が知りたいと」



 その視線がゆっくりとこちらを向く。


 

 「私は答えました。 お答えしましょうと」



 彼女のうつろな目が確かに俺を捉える。

 月明かりの元で芸術品のような少女が俺を視線で射抜く。

 芸術的な美しさ。

 しかし、それは同時に悪魔的でもあった。



 「我が教団『神紅教』の目的は『神樹教』の作り出した『聖書』という『創作物』により、その存在価値を地よりも深くに落とされた存在を救う事。 ふざけた価値観は私が燃やし尽くす」



 ゆっくりと立ち上がる。

 サティスより少し背が高いだけの小さな彼女は、体からは想像もできない凄みを放つ。

 抱えられたサティスは意識を取り戻さない。


 「まずは彼女を『救済』します。 正しい価値観と知識をお伝えしましょう。 彼女がそれを望んだのですから」

 

 息を飲む。

 恐れていた事が起こってしまう。


 サティスが行ってしまう。



 「サティスウウウウ!!」



 俺は初めて出すような絶叫を上げる。

 このままではサティスが連れて行かれてしまう。

 そう確信してから決断は早かった。


 

 あの女を殺してでもサティスを取り戻す。



 「『転移』!」


 ウトピアの後ろをとる。

 

 「『転移切断』!!」


 俺の直剣が首に迫る。


 サティスは連れて行かせない!!



 「『業火魔術』『救済の業火』」



 少女が唱える。

 同時。


 純白の炎が少女を包んだ。

 

 明るさと、突然の出来事に一瞬動きが止まる。 その隙を純白の炎から飛び出してきた4つの火の玉が俺の手足に迫り、形をドーナッツのように変えて掴んだ。

 不思議と熱は無いが、一切動かない。

 

 「これは、謂われない罪から救う為の罪の炎」


 少女は、腕の中のサティスを見下ろして呟く。

 こちらは一切見ない。


 「くそっ! 離せ!!」


 叫ぶが届かない。


 「サティス!」


 叫ぶが、やはり届かない。

 

 旅は始まったばかりだろサティス。

 これからもっと強くなるんだろ?

 もう、大切な物を失わないために、『2人で無敵』になるんだろ!?


 「くそ! くそくそくそ!!」


 全身に力を込める。

 しかし動かない。

 

 俺はあまりにも弱すぎる!



 ・・・俺は何度無力を味わえば良いんだ!



 「くそぉおおおおお!!」


 視界が歪む。

 悔しくて涙がにじむ。

 ウトピアが歩き始める。

 サティスが連れて行かれてしまう。


 「待ってくれ! 頼む! 連れて行かないでくれ!」


 俺の無様な声に少女が足を止めて振り返った。

 そのうつろな目が俺を見る。


 「・・・この子は貴方にとってなに?」


 「家族なんだ・・・。 大切な家族なんだよ」

 

 「『グラナーテ』なのに?」


 「そんなの知るかよ。 サティスはサティスだ。 関係ないだろ!」


 なんでこんなことを聞くんだ?

 俺から視線をそらさない彼女に疑問を持つ。


 「・・・あなたも『神紅教』に入らない?」


 ・・・ふざけているのか?


 「誰が入るかよ! サティスを返せ!」


 「そう。 残念だわ」


 そう言い捨てて再度歩き始める。

 いつの間にか俺と同じように拘束されていたシオンさんの隣を通って奥へと行ってしまう。


 「待て!」


 少女の腕が動く。

 手がゆっくりと何かを掴み始める。

 同時にシオンさんと俺の首元に純白の炎が現れてそのまま締め始めた。

 息が出来なくなる。

 視界が揺らぐ。


 ・・・サティス。


 行くな。


 待ってくれ。


 サティス。



 そのまま意識が落ちた。

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