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『カルマの仕事編』 3

 「お待たせしましたお客様! 『ファー』です!」


 「やぁ! 待っていたよぉ! 『ファー』ちゃぁん! 会いたかったよぉ」


 ねっとりしたしゃべり方に悪寒を覚える。

 表情一つ変えずに隣に座るラーファガが凄いと思う。

 普通に接客が始まった。

 何かあった時にすぐに助けに入れるように近くで見守る。

 カルマさんも『魅了』をいつでもかけれるように僕の隣の席に座りながら待機する。

 カルマさんの魅了には目を合わせると言う発動条件がある。


 そして、自分以外の人で魅了するときは、魅了をかける存在がかけられる側から少しでも好意を持ってもらう必要があるらしい。


 つまり、ラーファガは『プラセル』から少しでも好意を寄せて貰えるように仕向ける必要がある。 それに加えて、ラーファガも目を合わせる必要がある。

 

 やがて、時が来た。


 「あぁ! ファーたん! 我慢できないよぉ! 一緒に逢い引きしよぉ!」

 

 お酒が回り、理性が効かなくなったプラセルがラーファガの腕を強く掴む。

 ラーファガがここだとばかりに相手の目を見た。

 好意があり、目が合っている。

 今だ。


 「カルマさん!」

 

 「えぇ! 『誘惑魔術』『魅了』」


 カルマさんがすかさず『魔術』を使う。

 ラーファガからプラセルへの『魅了』。

 かかったら即、カルマさんへの対象変更。

 

 と、なるはずだった。

 

 「え。 かからない?」


 カルマさんが驚く。

 聞き間違いだと思った。

 

 「どういう・・・?」

 

 そうこうしているうちに、プラセルが空いた左手でラーファガの服を掴む。

 

 「もうここでいいや!」


 布の裂ける音が響いた。

 

 「いやぁ!」


 ラーファガの白い服が破かれていく。

 

 「まさか! 好意とかじゃなくて、単に性欲のはけ口としてしか人を見ていないの!?」


 カルマさんが慌てている。

 僕は居ても経っていられず飛び出す。

 必死に抵抗しているが、あり得ないほどの筋力でラーファガの服をどんどん破っていくプラセル。

 すでに下着だけになっていた。

 声が出せず、涙目になっているラーファガ。

 その様子に腹の奥から怒りが沸き上がる。

 僕はプラセルを思いっきり突き飛ばした。

 

 「いたっ!」

 

 大きな音をたててテーブルに突っ込むプラセル。

 そのまま倒れ込んだ。

 

 「ラーファガ! 大丈夫かい!?」


 「コっコルザ様! す、すみませんっ! わ、私!」


 「いいんだ。 僕も見通しが甘かった! やっぱりあの時止めておけばよかった!」


 「うっうぅ」


 とうとう涙が溢れてしまったラーファガ。


 「いたいなぁ・・・。 初めて突き飛ばされたよぉ。 君、つよいねぇ。 あ、その髪色。僕と同じかなぁ」


 ゆったりと立ち上がるプラセル。


 「君みたいなのと一緒にしないでくれるかい?」


 僕は空間に穴を開けようとして止まる。

 駄目だ。 武器は傷をつけてしまう。

 間違って殺してしまったら新しい戦争の火種になる。


 「腹立つなぁ」


 言いながら青年が手に取るのは酒の入ったコップ。

 彼はそれを投げつけてきた。

 まずい!

 余りにもものすごい勢いで飛んできたコップを躱しきれず頭にぶつかる。

 額に激痛。 更に中に入っていた酒でびしょ濡れになる。


 「ぐうっ」


 「コルザ様!」


 その場に膝をつく僕と、心配するラーファガの前に青年が来る。


 「もう死ねよ。 男には興味ないんだ・・・か・・・ら・・・?」


 青年が拳を握りながら語彙を弱めて行った。


 「・・・え?」


 青年の視線に気づく。

 僕の身体を見ていた。

 下着が透けているのに気づき、慌てて隠す。


 「見るな!!」


 「え? 女? え? 男じゃなくて? え? は? あの人と同じ・・・?」


 プラセルが狼狽える。

 そんな彼を必死に睨む。

 目が合う。


 「『誘惑魔術』『魅了』」


 カルマの声が響いた。


 「う・・・あ・・・」


 「『対象変更』」


 言いながら僕たちの後ろから姿を表したのはカルマ。


 「あ・・・あ・・・」


 「プラセルさん、お話良いかしら?」


 「あ、はい」


 カルマはそのままプラセルを連れて、奥の部屋に行ってしまった。


 「え」

 「え」


 「「えーー・・・」」


 僕とラーファガはそのあまりにも唐突な展開に理解が追い付かなかった。


 ○


 翌日。


 「説明して下さい」


 道場。

 母さんが目の前でご満悦の女性、カルマさんを問い詰めていた。

 

 「うふふっ。 上手くいって良かったわぁ」

 

 「貴女の感想は聞いていません! 早く説明しなさい!」

 

 「きゃぁ! 怖いわぁ! 怒らないでよぉ! 魅了しちゃうぞっ」

 

 「は?」

 

 「うふっ」

 

 母さんの睨みに一切怯まないカルマさん。

 僕は彼女の事を正直舐めていた。

 あの後、普段着に着替えた僕とラーファガは情報をしっかり持って来たカルマさんにどういうことなのか聞かされてそのまま僕の家に帰ってきた。


 カルマさんが言うには、プラセルには思い人が居たのだそうだ。


 男装の美しい女性だったと言う。

 例外とはその事だったのだ。


 酷い振られ方をしてから彼は普通の女性が怖くなった。 だから、幼女に走っていたと言う。

 その情報を手に入れた時から計画を2つ考えていたらしい。


 1つはラーファガで幼女趣味を利用する事だが、最初は僕を使って男装の女性を作り上げる事だった。


 だけど、母さんの反対とラーファガが名乗りをあげたことから最初の計画は断念したらしい。

 思っていたよりラーファガが上手く立ち回っていたし、僕も男の人に拒否感を感じていたからラーファガを使う案で最後まで行こうと計画したらしいが、最後の最後で思わぬ事態が発生してまった。


 プラセルは、幼女には本当に道具のような感情しか向けていなかったと言う事態だ。

 まぁ、女の人に恐怖しているならそうなるのも頷けるのだけど・・・。


 流石のカルマも一瞬焦ったらしいが、僕が男装している事が知られる事に奇跡的に繋がったため、急遽僕を魅了対象に変えたとのことだった。


 聞いていて眩暈がしたが仕方ない。

 上手くいったから良しとしよう。

 そしてこの家にカルマさんが呼び出され、僕を使うことを拒否していた母さんからカルマさんへの説教が始まったという事だ。


 まぁ、カルマさんに母さんの説教が一切通じていないのが恐ろしいが。


 「はぁ、まったく。 それで? 『ノルン』についての情報は手に入ったのですか?」


 「勿論よぉ。 それを伝えに来たのよぉ。 コラソン、あなた、旦那に伝えに行きたいでしょぉ? 貴方から伝えに行ってくれるかしらぁ」


 「なっ!」


 ちょっと照れている母さん。

 母さんが珍しい表情をしていて驚く。


 「うふっ。 照れなくていいのよぉ。 大切な人とは出来るだけ会っておきなさい?」


 「ぐっ、そ、そうですね。 分かりました。 今日、伝えに行ってきます」


 え、ずるい。


 「コルザ、貴女はまだ仕事がたくさん残っているでしょう? 連れて行きたいのは山々ですが今回は我慢しなさい」


 「・・・はい」


 「コルザ様可愛いです!」


 「むっ。 というか、ラーファガ、大丈夫なのかい? あんな目にあったのに」


 「え、あ、はい。 ちょっと怖かったですけどまたコルザ様が助けてくれましたから」


 「・・・そうかい。 君が泣いているのは始めて見たからちょっと心配だったんだ」


 あの時、ラーファガが声を出して泣いているのを始めて見た。

 

 「あれは・・・」

 

 「コルザ、今回、ラーファガがどうしてこの仕事をやりたいって言ってくれたか教えてあげるわぁ」


 「あ! カルマ母様! それは言わないって約束です!」


 「うふっ。 嫌よぉ。 秘密は知られる物だわぁ」


 「カルマ母様!」


 必死に止めようとするラーファガだが、普通の女の子の様に殴り掛かって簡単に止められてしまう。


 「この子、コルザの為に頑張りたいって言ったのよぉ」


 「あ!」


 「僕の為?」


 「コルザ様のお父様が少しでも楽になるのなら、それはコルザ様がとても喜んでくれるはずですってぇ。 それに、旅立つあなたを安心させたいってねぇ。 健気ねぇ」


 「カルマ母様ぁ!」


 「うふふっ。 あまりにも気づかなすぎてちょっと腹立っちゃったぁ」

 

 「うぅっ」

 

 涙目のラーファガ。

 恥ずかしそうにこっちを見る。

 

「・・・すみません。 結局ご迷惑おかけしてしまいました」

 

 あの時の強い眼差しを思い出す。

 

 ・・・僕の為に必死になってくれたんだ。

 

 目の前で照れたように困ったように笑うラーファガが無性に愛おしく思えた。

 

 「コルザ様? 何か言ってくださいよ・・・恥ずかしいです」


 気付いたら抱きしめていた。

 

 「無理しすぎだよ」

 

 「わっあっ。 ふふっ。 すみません」


 「ありがとう」

 

 「何もできませんでしたけどね」

 

 「いいんだ。 それでも。 ありがとう」


 「どういたしまして」


 微笑むカルマさんに気付いて少し恥ずかしくなる。

 でももう少し抱きしめたいと思った。

 


 僕は自分で思っているよりラーファガを大切に思っているのかもしれない。

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