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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『祝福の栗色編』
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コルザ 7

 明日は僕の誕生日だ。

 

 『道場』の中。 瞑想中。 だけど、その事ばかり考えてしまう。 ちっとも集中できない。


 僕は明日で12歳になる。


 『半成人』になってしまう。

 全然実感がわかない。 皆は祝ってくれるだろうか。

 

 そして、『半成人』になるという事は、大人とほとんど変わらない扱いを受けるという事。 恐らくこれからは今までの通りの仕事に加えて、大人向けの物が含まれ始めるだろう。 『祝賀会』は大人同士のいざこざに巻き込まれるかもしれない。 今までと違って正式な依頼として悪人を捕まえるのに協力する事になるかもしれない。

 まぁ、腕を磨くにはちょうど良い。 だけど、大人同士のいざこざとなると上手くこなせるか少し不安だ。


 そして、サティスとフェリスはまだこどもだ。


 もしかしたら僕ひとりでこなす事が増えるかもしれない。


 ・・・大変だ。

 2人は頼りになる。 それに頼れないとなると少し不安もある。

 だけど、父さんの助けになるなら仕方ない。

 頑張ろう。


 僕は瞑想を終えて立ち上がる。

 集中できないときに瞑想しても意味は無い。


 「『亜空間掌握』『取出』」


 そのまますぐ近くの空間に穴を開けて中から剣を取り出す。

 『剣舞術』の練習を始めるためだ。

 剣片手に舞う。 舞いながら思うのは、サティスの『剣舞術』。

 サティスには『剣舞術』ではもう敵わない。 何度も反省点を生かしながら練習してはいるが、サティス程のキレと力強さが出せない。


 そして何より、最近のサティスの『剣舞術』には僕には出せない『艶』が出てきた。


 時折見せる笑顔が妖艶さを持ち始めている。 最初は獰猛で、相手を威嚇するだけの彼女の笑顔が今では相手を魅了するようになり始めた。 今まで何度も見てきた僕でさえ魅了されそうになる。 近い将来、彼女が大きくなった時、生半可な者が彼女に勝つ事は不可能になるだろう。 それどころか戦いが始まらないかもしれない。


 「ふー・・・」


 型をすべて終え、一息つきながら剣を亜空間に納める。


 更に彼女は一時的とはいえ、『剣舞術』を進化へと『至』らせる事が出来るのだ。

 『剣舞術』だけの真っ向勝負じゃもう、どうあっても勝てない。


 まぁ、まだ彼女は注意力が足りず、突っ込みがちなところがある。 そこを僕が自慢できる、引き出しの多さと一番の『剣術』で狙えば勝てる。


 「『空間魔術』『空間把握』『魔素』」


 今度は目に『魔素』を集めて集中する。

 視界が青く染まり、『魔素』が見えるようになる。

 僕はどれだけ練習してもこれが限界。

 サティスの次に思うはフェリスの『空間魔術』。 彼は、『魔素』の他に『物質』と『距離』、そして最近は『容積』と言う物の大きさを正確に把握する『空間把握』をものにしていた。 彼は沢山の情報を把握することが出来る。

 

 彼は、近い将来母親と同じく『空間掌握』を使えるようになるだろう。

 

 『空間魔術』の使い手同士での戦いは空間をどれだけ掌握できるかにかかっている。 しかも、彼は父さんでさえも思いつかなかった『空間魔術』、『空間圧縮』をとっておきとして練習している。 僕は『亜空間』の掌握なら得意だけど、本気の彼と一対一で戦ったら負ける。


 おまけに『剣舞術』と『空間剣術』がそれなりにできるのだ。


 何よりも体力が凄い。 彼が息を切らす姿をここしばらく見ていないような気がする。

 真っ向勝負ではもう、勝てない。


 まぁ、彼は前世の記憶のせいで少し優しすぎるところがある。 『剣術』も『魔術』程使いこなせてはいないから、たとえ空間を掌握されたとしても僕を本気で倒すような事は出来ない。 だから勝てる。


 『魔術』の使用を止めて視界を戻す。


 「はー・・・」


 大きくため息をついた。



 そう、僕は彼らに真っ向勝負で負けるのだ。



 その事実は変わらない。


 僕はサティスとフェリスの夢を応援している。

 彼らは『2人で無敵』という夢を持って努力している。


 サティスはどうやら僕をその為の『壁』と思ってくれているらしい。

 今はどうかわからないけれど、僕を『無敵』だとも思ってくれている。


 そして僕は、2人にとっての『無敵の壁』としての立ち位置が気に入っている。


 だから2人に負けたくはない。

 出来るだけ長く2人の夢の『壁』でいたい。


 僕はまだ『無敵』でいたいのだ。


 そのために今日も一人で秘密の特訓をする。


 「『転移』」

 

 『転移』を発動して道場から空に移動する。 そこから何さらに度か『転移』を繰り返して『城下街』から出る。 高い壁を越えて西に向かっていく。

 途中、休憩をはさみながら1時間ほど『転移』を繰り返し、西の属国『オエステ』を通り越し、高い崖の上に出る。 そこから身を投げて『転移』を繰り返して着地。 さらに1時間ほど『転移』を繰り返してたどり着いたのは元プランター村近くの山奥。

 古びたあまり見ない形のとある一軒家。

 父さんが管理を頼まれている一軒家だ。 父さんがフェリスに修行を付けた場所。

 今は誰もここには来ない。 つまり、ここは今、僕だけの訓練場だ。


 「よし」


 そして、『剣術』に使用する武器を空間に開けた穴から取り出す。


 「今日もよろしく」


 思わず話しかけながら手に取る。


 名前を『零雨』と言う。

 武器の種類は『刀』と呼ばれるものだ。


 この世界に刀は僕の『零雨』、父さんの『雷雨』、そして今は誰が持っているかは分からないけれど残り3本、『霧雨』『恵雨』『星雨』以上の5本だ。


 そんな貴重な1本を僕は父さんから貰った。

 父さんは師匠から刀を2本貰ったらしい。

 父さん用と父さんの大事な弟子用らしい。

 僕はこの刀を10歳の誕生日に貰った。

 同時にこの世界で最強と言われる『剣術』。 『抜刀術』も教えてくれた。

 父さんはここ2年程、かなり忙しくしている。 そんな中で父さんが時間を作って教えてくれたのだ。 とてもうれしかった。 だから、一生懸命答えようと頑張っている。


 父さんと言えば、忙しさが尋常だ。


 現在、人族領は『ディナステーア王国』が統一している。 東西南北にある国は全て『ディナステーア王国』の属国である。

 レイ暦273年現在まで、この関係は変わっていない。

 

 元々『人族』は『天族』の奴隷だった。


 その関係を変えたのは初代国王『レイ』。 彼は『長耳族』の一部と『獣族』と手を組んで革命を起こした。 結果として、『人族』は領土を勝ち取り、奴隷の身分から脱却した。


 勝ち取った領土は大きく、国王一人で管理する事は不可能だった。

 そして生まれたのが『属国』だ。

 初代レイ王が信頼できると判断した者達がその国の王になった。

 しかし、『人族』の寿命は『天族』の様に無限ではない。 『人族』は早くに死ぬ。

 それはつまり、王様が変わると言うこと。 今ではもう、初代の様な結束力は殆ど無い。

 

 小さないざこざや、軽い戦争が頻繁に起こっていた。


 しかし、それでも、大きく平和を乱すことは無かった。 心のどこかで、皆、『天族』や『魔族』が居るから協力しようという考えがあったのだ。

 

 しかし、この均衡が崩れた。


 『第二次魔族進行』。

 フェリスとサティス、ファセールの故郷が奪われたあの事件。 あれが原因で『天族』の反応を待つ『保守派』と『天族』に頼らすに『魔族』を迎え撃とうとする『革新派』の2つに完全に分かれてしまった。


 『ディナステーア王国』は最初から『革新派』の為、殆どの属国は『革新派』だが、一部の『保守派』が『革新派』の活動を止めるように戦争を吹っ掛けてきている。

 町の中は高い壁に守られているので、外の様子が分からないが、今も戦っている人たちがいるのだ。

 最近は激化が進み、国の騎士がほとんど駆り出されていて、その穴を埋めるために僕たち『ミエンブロ』が活動している。

 

 そして、父さんも『ディナステーア王国』の『騎士』だ。


 『雑務隊長』と聞こえはいいかもしれないが、やっている事は何でもやるような隊なのだ。

 父さんは国の現最強戦力として飛び回っている。

 いつも遅いのはこのせいだ。 最近は帰って来ることすら出来ていない。

 今も人族領最北端まで戦いに行っている。


 「・・・はぁ」


 刀を何度か振った後、今日何度目かのため息をついた。


 そう、今も戦っているのだ。

 ここから一番遠い人族の領地で。

 

 「・・・来れないよなぁ」


 せっかくの12歳の誕生日なのだ。

 父親にも祝って欲しい。

 というか最近顔をしっかり見れていない。

 心配だし、何より寂しい。

 会いたい。

 

 ・・・考えていて恥ずかしくなってきた。

 

 頭を振って素振りに戻る。

 明日は皆が祝ってくれるはずだ。

 こんな顔をしていたら駄目だ。


 また近いうちに会える!


 なんて思い込んで素振りを続けるのだった。

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