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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第一部 乳幼児期 『4歳編』
20/625

4歳 2

 今回の『猪狩り対決』。

 事の発端は昨日の鍛錬の終わりだった。

 いつも、解散前は全員で座ってセドロの話を聞く。

 今も座って、仁王立ちするセドロを見上げながら聞いている。

 「明日は仕事だ!」

 一緒に座って見上げている『アルコ・イーリス』のメンバーにセドロが言い放った。

 ジュビアとベンディスカは未だに顔を見せに来ない。

 「仕事ですか・・・?つまり、俺たちはお休みという事ですか?」

 空色サラサラヘアーの眼鏡美男子、ベンタロンが眼鏡を直しながら問う。

 「いや、明日の仕事は皆に手伝ってもらいたい!」

 全員が首を傾げた。

 鍛練ではなく、仕事の手伝いだと?

 初めての事だ。

 「ジュビアとベンディスカも久しぶりに一緒だ」

 「おぉ!とうとう会えるのか!」

 朱色ツンツンヘアーのデスペハードが握りこぶしと共に立ち上がった。

 「デスペハードうるさい」

 「何を!?」

 カリマに言われて怒るデスペハード。

 「なによ!?」

 立ち上がって睨み返すカリマ。

 「まぁまぁ、落ち着いてよ」

 桃色お団子のブリッサがベンタロンの腕に抱き着きながら2人に声をかける。

 「仲がいいのは」

 「いいけれど」

 「今は」

 「話をきこうね~」

 双子が2人でデスペハードとカリマを注意する。


 「「仲良くない!・・・真似すんな!・・・はぁ!?」」


 隣でくすくす笑うサティス。

 「なかよしね」

 静かに話すという事も覚えたらしく、俺にひそひそと言ってくるのが可愛い。

 「ほんとにな」

 「・・・そろそろ、いいか?」

 セドロの確認に取っ組み合いになりそうだったデスペハードとカリマが動きを止めた。

 ゆっくりと座る。

 「「・・・はい・・・ちっ」」

 素直に座るが、いちいちハモるのが気に障るらしい、互いに舌打ちをしながら睨み合う。

 「さて、気を取り直してだ。明日は『プランターじいさん』からの依頼だ」

 『プランターじいさん』。

 この村の村長である。

 長耳族のおじいさん。

 緑の髭が特徴的な優しい笑顔のおじいちゃんである。

 齢は450を超えているらしいが、正確な年齢は覚えていないらしい。

 『天族』の血が濃いのだろう、とっても長寿なおじいちゃんだ。

 「お前らは、羊を食い荒らした『魔獣』を知っているか?」

 セドロが言うのは2日ほど前に現れた、漆黒の巨体を持つ猪の『魔獣』の事だろう。

 突然現れた『魔獣』はあっという間に、ブリッサの母『カルマ』と祖母『トルベジーノ』の2人が管理している羊の大多数を食い荒らしたのだ。

 そのせいでしばらく羊料理が食べられない。

 ミルクも飲めない。

 憎き『魔獣』。

 ブリランテが留守にしているため、セドロが1人で対処にあたったのだが、逃げられてしまったらしい。

 あのセドロがだ。

 「『魔獣』の事について知っているか?」

 俺は手を挙げる。

 「はい!体内に『魔石』を持つ、巨大化した真っ黒な獣の事ですよね?」

 小説の内容と、以前村を襲ってきた猪の『魔獣』を思い出しながら答える。

 「そう、正解だ。『魔石』によって暴走している獣、それが『魔獣』。『魔石』ができる過程とかいろいろ言いたいことはあるが、今、伝えるべきは『ミエド』についてだ」

 俺は『ミエド』と言う、初めて聞く単語に興味を持つ。

 「『魔獣』にも強さがある。一般的な『魔獣』はただの『魔獣』だが、その中でもとりわけ強い物には『ミエド』と言う称号がつく。『魔石』が体に宿ってからとてつもなく長い年月を経ている証拠だ」

 俺は唾を飲む。

 「・・・まさか、この間の『魔獣』が?」

 「・・・可能性は高い。なんたって私から逃げ切ったんだ。ただの『魔獣』じゃない」

 全員に緊張が走った。

 「まさか、俺たちにそいつの討伐を?」

 ベンタロンがこわごわと言う。

 ブリッサがベンタロンにつかまる腕の力を強めたのが分かった。

 話に飽き始めて、砂いじりをし始めていたサティスが顔を上げた。

 獰猛な笑み。


 「は?そんなわけないだろう?」


 「ちがうんかい!」

 デスペハードが盛大にずっこけた。

 「よかったぁ」

 ブリッサが胸を撫でおろした。

 「じゃあなんでそんな話をしたんですか!」

 カリマが怒る。

 「お、おう、紛らわしくてすまん。いや、な?プランターじいさんからの依頼はこの『魔獣』の討伐なんだが、良い時期だし、ついでに猪を狩って数減らしと肉の補充もしようと思ったんだ」

 「猪の数を減らす?」

 俺が首を傾げた。

 羊肉の変わりに猪の肉を食べるのはわかる。

 だが、それなら猪狩りと言えば良いだけなのに、わざわざ数を減らすと言ったのだ。

 サティスは肩透かしを食らって集中力が完全にきれたらしく、1人で広いところまで移動して『剣舞術』を舞い始めた。

 サティスは話を落ち着いて聞くことが出来ないため、いつもこんな感じだ。

 「あぁ、数減らしだ。東の山に住んでる熊と猪は、私たちが『魔獣』の増加阻止と食料調達で定期的に狩っているが、猪はまだでな。熊はこの間減らしたばかりだから、猪を今回やってしまおうと思う」

 「という事は、我々はその数減らしをすれば良いという事ですね?」

 ベンタロンが眼鏡を直しながら頷いた。

 「そういう事だ!」

 「はっ楽勝だぜ!」

 と、デスペハード。

 勝気な野郎の目が光っていた。

 彼は、唯一の家族である母親の『ブエン』を守るために強くなりたと思いながら修行している。

 そんな彼からしてみれば、猪狩りは力試しにちょうどいいのだろう、ワクワクしていた。

 「ふんっ。どうせ1体かそこらでリタイアするわよ」

 それに水を差すカリマだった。

 男子へのあたりが強いカリマだが、デスペハードは付き合いが長いこともありライバル視しているのか、より一層あたりが強い。

 ライバル視しているというのは、彼女が強くなりたい理由がデスペハードに負けたくないと言うところから察する事ができる。

 そのためか、デスペハードには常に喧嘩腰である。

 「んなわけあるかよ!お前よりも狩れるわ!」

 対するデスペハードも負けず嫌いである。

 「うるさい!私があんたに負けるわけないでしょ!?」

 と、なれば喧嘩になるのは必然。

 いつもの売り言葉に買い言葉。

 「なにおう!?」

 「なによ!!」

 顔が近い。

 幼馴染だからか、その辺の意識が全くないのが微笑ましいが・・・。

 唸り声をあげながら威嚇し合う2人。

 そんな2人にベンタロンが口を挟んだ。

 「それなら明日の猪狩り、狩った数で勝負すればいいだろ」

 「「え?」」

 同時にベンタロンを見た。

 「お、それは良いな!よし、みんなで勝負をしよう!」

 セドロが閃いた顔をする。

 「勝負!?」

 聞こえたサティスが舞を止めてこっちに戻って来た。

 「ベンタロン、良い案だ!これは面白そうだぞ?」

 セドロが腕を組んでニヤニヤする。

 褒められたベンタロンは嬉しそうである。

 その様子にちょっと不機嫌なブリッサ。

 一方的な片思いが微笑ましい。

 ベンタロンを支えるために頑張っている、一途なブリッサよ。

 俺は応援しているぞ!

 「・・・そうだな。組み分けしてやるか・・・うん、よし」

 1人で納得して頷く。


 「明日、組み分けしてやるから、狩った猪の総合数で競え!」


 「勝負!?勝負なのね!?」

 サティスが嬉しそうに飛び跳ねる。

 一緒に揺れる2つ結び。

 「よっしゃあ!やってやんぜ!」

 デスペハードが握りこぶしで喜ぶ。

 「ふむ・・・上手くできれば父さんに自慢できそうだ」

 ベンタロンが追い越したい憧れである、父を思い浮かべているのだろう。

 にやりと笑って眼鏡を直す。

 「わぁ!とっても楽しそう!」

 ベンタロンが乗り気なことに気づいて一緒に喜ぶブリッサ。

 「絶対負けないんだから・・・!」

 デスペハードを睨むカリマ。

 「あしたはー」

 「楽しい」

 「一日に」

 「「なるね~」」

 双子も双子なりにワクワクしているのだろう。

 ビエントとアイレも、黄緑色のマッシュルームヘアーの中で目を輝かせていた。

 そんな俺たちの様子を順番に見て満足そうに、にやりと笑うセドロ。

 

 「よし、じゃあ、明日は猪狩り対決だ!楽しみにしてろよ!!解散!」


 明日はとうとう狩りに出るのか!

 ワクワクである。

 俺たちの成長を、ぜひともこの世界の母であるブリランテにも見てもらいたい物だが・・・。

 彼女は今、セミージャと言うプランターじいさんの孫娘を迎えに行っている。

 セミージャは、『獣人族領』にある『メディオ学院』という、『魔術』と『剣術』を学ぶことが出来る学校に通っている。

 8月の最初の2週間は夏季休暇らしく、去年は忙しく帰ってこれなかったが、今年は帰ってこれるらしい。

 その為、5日ほど前にブリランテが迎えに行っているのだ。

 明日には帰ってこれる予定だ。

 俺たちの成長を、ぜひとも見て欲しいものだな。

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