『鬱屈の藍色編』『エピローグ』
ひと月近くが経とうとしていた頃。
コルザの誕生パーティーまで1週間となった日。
俺はシオンさんの所に来ていた。
俺とシオンさんは、『手紙召喚』の研究に熱中していたのである。
「やりました! 出来ました!」
シオンさんの顔が喜びに満ちていた。
あの日、手紙の召喚を考えついたシオンさんの行動は早かった。
自分の部屋に2つの魔方陣を展開し、設置。 その後、片方からもう片方への召喚を成功させたのだ。
そう、最初から出来たのだ。
『手紙』の召喚が。
しかし、そこで問題発生。 手紙を受け取ることは、今までの召喚通りだったため、問題なく出来た。 しかし、手紙を送ることが出来なかったのだ。
つまり、受信は出来るが送信が出来ない状態。
と、言う事でシオンさんは計画をたて始めた。
そこに俺も参加し、あーでもないこーでもないと意見を出し合い、いくつか仮説をたてた。
1つずつ実行していき、反省し、改善点をまとめて再度実行。
前世で言うところのPDCAサイクルをこなす事約2週間。 送ると言う考え方ではなく、送られる側の魔方陣で召喚すると言う、半場無理矢理な考え方に変えた事で何とか送受信が可能になった。
2人で喜び、ハイタッチまでしてしまったのは良い思い出だ。
その後、距離を伸ばす実験に入った。
しかし、次は最初から難航。
シオンさんの部屋から、となりの部屋までの距離すら出来なかったのだ。
正しくは、送信だけが出来なかった。
目の前に存在せず、別の場所にある魔方陣での召喚はシオンさんにとって始めての挑戦だったらしく、召喚できなかったのが原因だった。
そこで、シオンさんの鍛練に付き合うことになった。
付き合うと言っても、俺に出来ることは成功か失敗かを確認したり、『魔素』の動きを把握して伝える事くらいだったが。
そして、シオンさんは1週間以上の血を吐くような努力(正しくは嘔吐だが)のすえ、何とか別の場所にある魔方陣での召喚が出来るようになった。
そこからさらに数日、少しずつ伸ばし続けて今日。 とうとう『異世界召喚研究所』の外からの『召喚』に成功したのだ。
これは、凄いことなのだ。
「やりましたね! シオンさん!」
「はい! フェリスくん! 貴方のおかげです!」
ガバッと抱きついてくるシオンさん。
いつもの香水の匂いと柔らかいものに包まれる。
・・・流石に慣れてきた。
「シオンさんが頑張ったからですよ」
「ありがとうございます!」
俺を抱き締める力が強まる。 持ち上げられて、足が浮く。
これはいつもの事なので、もう反応するのも面倒になっていた。
と、言うか、まだまだ問題が沢山ある。
この『手紙召喚』がシオンさんが居なければ使用できない事。
世界を繋げる以上、世界中に魔法陣をばら撒く必要があるという事。
重さを変えた実験はしていないため、どれだけの重さまでなら可能なのか。
他にも細々とした課題も多々ある。
一々こんなに喜んでいては先が思いやられる。
だが、それでも。
この実験成功の数々は、シオンさんにとって間違いなく成功体験だ。 そして、シオンさんの夢が前に進んでいると言うことの証明。
俺を離し、見下ろすシオンさん。
目が合う。
微笑む。
随分と良い笑顔をするようになった。
「ありがとうございます・・・。 夢みたいです。 私。 こんな・・・こんな幸せなことがあっていいのでしょうかぁ・・・」
「まだ夢が叶ったわけでは無いですよ」
「分かってます・・・それでも嬉しいのです。 サティスさんとフェリスくんには感謝しかありません。 私、もう一度夢を追いかけ始めて良かった」
溢れ出る涙が止まらない。
「この研究で、私の知識不足を痛感しました。 『手紙召喚』の完成のため、いつか『メディオ学園』に行って沢山の知識をつけたいです。 その為にはまず、『勇者召喚』を成功させなきゃですね!」
何とか涙を止めて決意の籠った視線でこっちを見る。
『メディオ学園』。
『魔術科』と『剣術科』と言う学科のある『魔術』と『剣術』を学べる唯一の学校。
故郷『プランター村』で知った記憶が思い出される。
俺もいつか通ってみたいものだ。
『剣術科』もあるらしいし、サティスとファセールも誘って一緒に行けたらいいなと思う。
と、考えていた俺の前にシオンさんの後頭部が現れた。
シオンさんが頭を下げたのだ。
「な、何を?」
今度は何の謝罪だ?
と身構えると、シオンさんが唐突に切り出した。
「フェリスくん。 再度、お願いします!」
「へ?」
謝罪ではなく、お願い?
「王様から許可が出ました! 1年後、『迷宮探索』の任務を『ミエンブロ』に頼みます! この1年は、私が足を引っ張らないための準備期間。 1年後、どうか私と共に『迷宮探索』に来てください!!」
俺は数か月前の事を思い出す。
本当に依頼を出すんだ。
俺は頷く。
「分かりました。 一緒に『迷宮探索』頑張りましょう!!」
「ありがとうございます!」
言って頭を上げて微笑んだシオンさんは元気な顔をしていた。
俺は彼女を救う事が出来たのだろうか。
いや、結局頑張ったのは彼女だ。
サティスとコルザを認めさせるほど頑張った彼女が凄かったのだ。
夢をもう一度追いかけ始める事が出来た彼女が凄いのだ。
努力できた彼女が凄いのだ。
俺も負けないように頑張ろう。
彼女との繋がりをしっかり掴んでおきたいと思った5か月間だった。
短いですが、『鬱屈の藍色編』はこれにて終了です!
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本当にありがとうございます!
さて、次回からは更新時間を少し早めて12:00にしたいと思います!
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