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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『鬱屈の藍色編』
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『復活の藍色』 2

 『城下街』『ディナステーア』。

 『東区』『東側』。

 『異世界召喚研究所』『召喚試験場』。


 俺たち『ミエンブロ』とラーファガは、シオンさんに連れられて『召喚試験場』と呼ばれる場所に来ていた。

シオンさんの住んでいる『召喚研究棟』に隣接するそれは、大きな体育館のような建物だった。 中は大理石で出来た広い空間である。 『アロサール家』の『道場』の6倍はあるだろう。 天井も高い。


 「ここなら外に危害は出ないね。 ・・・うん。 ちゃんと反省はしているようだ」

 

 入り口から入ってすぐ、俺たち『ミエンブロ』とラーファガは横一列に並んで中を見渡した。

 コルザは顎に手を添え、目を青く染めながら中を見渡していた。

 『空間魔術』『魔素』で見渡しながら情報を集めているのだろう。

 やはり、警戒が強い。


 「それじゃ、さっそくお願いしようか」


 言われて姿勢を正すシオンさん。


 「はっ、ははは、はいぃ!」


 コルザが相手だからか、かなり緊張している。 サティスやラーファガとはこの3か月で打ち解けていたが、コルザとはほとんど初対面だろう。 そのうえ、露骨に嫌われている。 無理もない。 ちょっと心配だ。

 シオンさんは俺たちの前からゆっくり歩きだし、『召喚試験場』いっぱいに広がる青いインクで書かれた大きなサークルの線をまたぐ。 そのまままっすぐ進んで半分くらいの大きさのサークルの前で止まった。 さらに進むと6畳ほどの小さなサークルもあったが、シオンさんが足を止めたのは中くらいのサークルの前にある、『召喚魔術』を使用する者が立つであろう、人一人分のサークルの中である。


 「大丈夫よ! 3ヵ月頑張ってきたんだもの!」


 緊張しているシオンさんに、俺の右隣でサティスがガッツポーズをしながら鼓舞する。


 「応援してますよ!」


 ラーファガもサティスの右隣で一緒に応援しながらぴょんぴょんと跳ねている。


 「うん。 一応3ヵ月あの特訓をこなしたんだ。 これで失敗したら自信を無くすね」


 俺の左隣で腕を組みながら言うコルザ。


 「頑張って下さい!」


 俺も応援する。

 と、唐突にシオンさんが振り返って俺を見た。


 「?」


 首をかしげる。


 「ふ・・・フェリスくんは、わ、私が成功させたら喜んでくれるんですよね・・・?」


 「え、えぇ。 勿論」


 頷いた瞬間、シオンさんが笑った。

 確かに自信のついた、美しい笑み。


 同時、彼女の周りに可視出来るほどに『藍色』の『魔素』がオーラのように出現した。

 

 「私、頑張りますね! 見ていて下さい!」


 その『魔素』はシオンさんの頭上に集まり円を形作る。

 

 『光輪』!?


 続いて、シオンさんの背に翼が生えた。

 いや、正しくは、ジャージを突き破って出てきただけだろう。

 出てきたその翼は、小さな『藍色』の翼。

 

 「『天族』・・・だったんですか?」


 ずっと『長耳族』だと思っていた。


 「あ、違うんです。 『先祖返り』の様な物です。 この『藍色』の翼がその証拠です。 本当の『天族』の翼は真っ白ですし、もっと大きいです。 私は『長耳族』。 『天族』と『人族』の間に生まれた子は皆『長耳族』ですから」


 『先祖返り』。

 『プランター村』にいた、『魔族』の少年『ベンディスカ』を思い出す。 彼は、『天魔族』の特徴である、男とも女ともとれる容姿を持っていた。

 この世界で『先祖返り』は、一定の確率で身に宿るののだろう。


 シオンさんは俺から視線をはずして振り返り、前を向く。


 「それでは、行きます! 見ていてください! 頑張ります!」


 両手をパンッと合わせる。



 「『召喚魔術』『契約召喚』!!」



 『魔術』の発動。

 シオンさんの前方のサークルの中に、巨大な魔方陣が描かれる。

 始めて見た時とは比べ物にならない大きさ。


 「おじいちゃん。 私、やるよ。 おじいちゃんはきっとこういう事を言いたかったんだね」


 ぶつぶつと何かを呟いている。


 「だから、私の忠誠を示す為に借りるね。 おじいちゃんの切り札」


 息を吸う。

 そして。



 「『ドラゴン』!!」



 叫んだ瞬間爆発。


 「な!?」


 一番最初に叫んだのはコルザ。

 俺も爆発と同時に剣を抜いて構える。

 隣でサティスも腰の曲剣『グラナーテ』を抜いて構えるのが分かった。

 ラーファガも瞳を黄緑に染め上げて腰から両手に剣を抜いて構えていた。


 煙で何も見えない。

 大丈夫なのか?

 俺は視界に魔素を集めて集中する。


 「『空間魔術』『空間把握』『魔素』『物質』『距離』」


 視界が青く染まる。 青く染まった視界の中、漆黒の『魔素』と、召喚された『物質』の線が浮かび上がる。 さらに、この1年で新たに習得した自分と対象との大体の距離が分かるようになる『空間把握』により、対象との距離も把握する。

 

 「・・・うそ。 だろ?」


 俺は爆破により起こった煙の先に見えた『物質』の線に驚愕する。

 12メートル先にいる、その『ドラゴン』の姿を俺は知っている。



 「『五感共有』『感情共有』『服従命令』」


 視界の先でシオンさんが三重の魔方陣を巨大な生物に飛ばす。

 魔方陣が頭に触れると同時、その巨大な生物がシオンさんに頭を垂れた。


 その大きな生物。


 それは、盾のような頭につく三本の角。

 四足歩行の『恐竜』。


 煙が晴れる。


 視界を元に戻す。

 視線の先、シオンさんに頭を垂れて頭を撫でて貰う存在。

 その存在を、前世の世界で知らない人はまずいない。


 「『トリケラトプス』だ・・・」


 俺は膝を着いた。

 剣を床に落とし、視界を戻す。


 漆黒の身体ではあるが、間違いなかった。

 体長約16メートル。 体高6メートル。

 前世の知識の倍はあるが、間違いない。

 草食恐竜の代表。

 知らない人はほとんど居ない恐竜。


 『トリケラトプス』がそこに居た。

 

 シオンさんが頭を撫でながら俺達を見る。

 それに合わせるように顔を上げたトリケラトプス。

 ゆっくりとこちらに近づいてきた。

 歩く度にかすかに地面が揺れる。


 「・・・やるかい?」


 剣を抜くコルザ。

 生唾を飲みながら構えるラーファガ。


 「・・・大丈夫よ。 彼は大丈夫」


 サティスが剣を鞘に納める。

 そのままゆっくりとトリケラトプスに近づいていく。

 そして両手をゆっくりとその鼻先に近づける。


 「グルルルル・・・」


 そして、ゆっくりと撫で始めた。

 そして。


 「良い子ね。 かわいいわ」

 

 サティスは和らく微笑んだ。

 サティスの『野生の勘』は外れたことが無い。

 彼女が大丈夫と言えば大丈夫なのだ。

 コルザとラーファガも息を吐いて鞘に剣を納めて近づき、頭を撫でた。


 「凄いね・・・これが『ドラゴン』」


 「かわいいです!」


 感心しながら撫でるコルザとニコニコと笑顔で撫でるラーファガ。

 俺は落とした剣を持ち、鞘に納めながら立ち上がる。

 遠くのシオンさんを見ると笑っていた。

 満ち足りた表情だった。


 「・・・出来ました!」


 その彼女の嬉しい感情が伝わってこっちまで嬉しくなる。


 「やりましたね!!」


 「はい! やりました! 皆さんのおかげです!」


 俺も『トリケラトプス』に近づく。

 

 優しくなでる。


 冷たい。

 固い。

 少し生臭い。


 これが恐竜。


 前世での小さな頃の夢がこんな形で叶うなんて思っても無くて感極まる。

 

 「なによ? 泣いてるの?」

 

 サティスが俺を心配そうに見てくる。

 

 「・・・いや、何でも」

 

 「フェリス様は、シオンさんが上手くいって嬉しんですよね?」

 

 ラーファガが屈託ない笑顔で言ってくる。


 「え? そうなの?」


 サティスが首を傾げる。


 実際、俺もなんで泣いているのか分からなかった。

 シオンさんの努力が実を結んだことに喜んでいるのか、子供の頃の夢であった『恐竜』に触れるという事が突然叶った事への感動なのか。

 そのどちらもなのか。


 「・・・まったく、君は優しすぎるよ」

 

 コルザが夢中で撫でながら呟いた。

 遠くからシオンさんがいつの間にか駆け寄って来ていた。

 

 「フェリスくん!」


 そのまま抱き着いてくる。


 「うぼぉわ!」


 汗が混ざったのだろう、香水の匂いが少し変わっていた。


 「やりました! やりましたよぉお! わたし、できましたぁあ!」


 俺を力いっぱい抱きしめて泣き出すシオンさん。

 よっぽど嬉しいのだろう。


 だって、彼女は今、成功体験を積んだのだ。


 それは何ものにも代えられない自信への第一歩だ。


 こっちまで嬉しくなって、思わず抱きしめ返してしまう。


 「おめでとうございます! 俺も嬉しいです!」


 「やりましたぁあ! うっゲホゲホっ」


 泣きながら咳き込んだシオンさん。

 慌てて肩を掴んで体を離す。

 鼻血が出ていた。


 「あっ、す、すすす、すみません!」


 「良いから早く解除して!」


 コルザが慌てる。


 「はいぃい! 『帰還命令』『召喚解除』!」


 一瞬でトリケラトプスが魔方陣の中に消えた。


 「げほっげほっ。 はぁ・・・はぁ・・・おえっ」


 シオンさんがえづいた。

 嫌な予感。


 「待て待て待て!」


 「おえぇえええええっ」


 俺は嘔吐物をかけられるという、前世でも経験したことのない体験をしたのだった。

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