『復活の藍色』 1
そして、あっという間に3ヵ月が経った。
俺とサティス、ファセールは先日無事に9歳を迎えた。
アロサール家にファセールを呼んでパーティーを開き、俺たちはアロサール家の面々や、ラーファガとカルマ、トルベジーノと言ったいつものメンツに盛大に祝ってもらった。
コルザは4月生まれのため、来月だ。 このお返しに今度は俺達3人から何かを送ろうと考えている。 しかもこの世界で『半成人』と呼ばれる12歳の節目だ。 生半可な物は渡せないと俺たちは気合を入れている。
そして、そのパーティーの翌日。
もはや日常の一部となったシオンさんの体力づくり。
サティスを先頭に、シオンさんを俺とラーファガで挟む形でいつもの公園の中をそこそこのペースで走っていた。
「いいわよ! それなりに体力が付いたわね!」
サティスが後ろを走るシオンさんに振り返り、走りながら声を掛ける。
シオンさんの成長がそれなりに嬉しいのだろう、笑顔だ。
「はぁ、はぁ、はいぃい!」
最初こそローブでやっていたが、さすがに動きづらかったらしい。 開始から数日後には、自分で服屋に行ったのか、前世で言う長袖ジャージの上下を着ている。 色は青だ。
前で走るシオンさんが視界に入る。
髪も、体力づくりの間はいつもの三つ編みではなく、一本結びとなっている。 いつもの三つ編みだと暑かったり、動きづらかったりしたのだろう。 走るたびに揺れ動くため、つい目で追ってしまう。
辛そうに息をしているシオンさんの隣に駆け寄ったラーファガが励ましながら並走する。
励まされながら一生懸命走るシオンの後ろ姿は、始めた当初よりも締まっていた。
あんまり見るのは良くないなと思っているが、どうも見てしまう。
3か月あれば人は変わるものである。 眼鏡だけはそのままだが、笑顔が増えて少しずつ垢ぬけてきたように思える。
随分魅力的になった。
もともと綺麗な人だったのだ、体力をつけるために鍛えれば自然と筋肉が付き、スタイルも整う。 運動は心を軽くし、毎日こなしているという事実が彼女に少しづつ自信を与えて、表情を明るくしていく。
この体力づくりは、彼女の魅力を引き出すものになっていた。
「フェリス! 真面目に走りなさい!」
シオンさんの背中を目で追いかけていたのがバレたのか、再度振り返ったサティスからお叱りの声が聞こえた。
ごまかすのは無駄だとわかってはいるが、どうしてもごまかしてしまう。
「ま、真面目に走ってるよ!」
「そう! だったらついてきなさい!」
言ってにやつき、踵を返してペースを上げたサティス。
ほぉ?
この俺に体力勝負をしようと言うのかね?
「受けて立とう!」
俺はそれに全力で乗っかり、加速してサティスの隣に並ぶ。
「しししっ! そう来なくっちゃ!」
俺とサティスは、「まってくださぁあい!」と涙目で叫ぶシオンさんを置いて思いっきり駆け抜けた。
〇
「それでこの状況かい・・・まったく」
俺とサティスは正座をしていた。
雪の上であるため、冷たく寒い。
目の前には仁王立ちして俺たちをするどい目つきで見下ろすコルザ。
奥のベンチでは背もたれに体を預けて天を仰ぎながら肩で息をするシオンさん。
彼女に水を飲ませるラーファガ。
「ごめんなさい・・・熱くなっちゃったわ」
隣でしょんぼりするサティス。
「すまん」
俺も両手を合わせて謝る。
「ちょっと様子を見に来てみたらこれだ・・・君たちがふざけてどうするんだい」
言いながらため息をつく。
その視線は俺達からシオンさんへ変わる。
「・・・3ヵ月もったんだね」
「あぁ。 『召喚魔術』も一切使っていない」
「・・・ふん。 彼女も変わってるって事なのかな」
視線が少しだけ(本当に少しだけ)和らいだ気がした。
「そろそろ『召喚魔術』を使用してみてもいいよ」
そんな横顔を眺めていると、唐突にコルザが切り出した。
「いいのか?」
「うん。 でも、何か危ない感じがしたら僕が全力で止める。 もしもの時は彼女を殺してでも」
言いながら腰の剣の柄に手を掛け、シオンさんを睨みつける。
むしろ、そうなって欲しいと言った感じにも取れた。
俺は、それに気づかないふりをする。
「・・・そんなに危険なのか?」
「・・・それはね」
俺には1年以上前に見せて貰った『召喚魔術』のイメージしかない。 あの時の『召喚魔術』は、鳥などの小動物を呼び出すだけの危険さを一切感じないものだ。
『異世界召喚』ならまだしも、ただの『召喚魔術』にそこまで警戒しなくてもいいんじゃないだろうか?
「分かった」
「うん。 それじゃ、とりかかろうか。 場所は『東区』の『異世界召喚研究所』にしよう。 あそこは『召喚魔術』の為の場所だからね」
「あぁ」
多分、相当危険な物だと勘違いしているんだろう。
と、俺は適当に考えて、コルザに逆らう理由もないため従う事にした。