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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『鬱屈の藍色編』
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『必要経費』

 「どんな『魔術』を使ったの?」


 屋上から戻った俺は、シオンさんから手を離してサティスとファセールの元へ駆け寄った。

 近くに辿り着いた俺の隣に来たサティスがヒソヒソと耳打ちした。


 「なんのことだ?」


 俺は、サティス同様、後ろのシオンさんに聞こえないように小さな声で聴く。


 「コネクシオンさんから嫌な感じがしなくなったわ・・・。 それどころか、何というか、ラーファガが私を見る時みたいな感じになってる。 人が変わったようだわ」


 シオンさんの方を2人で振り向く。


 ほわっとした笑顔をした。


 そんな笑い方も出来たんだと、ちょっとドキッとする。


 「うっ」


 わき腹をサティスに小突かれた。


 「あ、ごめんなさい。 なんか嫌だったわ」

 

 意味が分からん。

 

 「お話はもういいの?」

 

 ファセールが俺達に割り込んできた。

 

 「あ、あぁ。 お待たせ。 予定通り『作家ギルド』に行こう」


 俺はわき腹を抑えながら『作家ギルド』へ向かった。


 〇


 「お! よく来てくれたフェリス君!」

 

 そう言ってカウンターから声を掛けてくれたのは俺の担当となってくれた、『作家ギルド』『ディナステーア王国城下街支部』『支部長』『グラディトゥ・メンテ』さんだ。


 今日も『蜜柑色』の髪をしっかりオールバックにしてキめている。

 よく鍛えられえた筋肉に惚れ惚れする。

 『作家ギルド』の『支部長』なのにこの筋肉、趣味で筋トレでもしているんだろうか?


 「こんにちは! お久しぶりです! ネームが出来たので持ってきました!」


 俺はメンテさんに近づく。

 シオンさんとファセールもついてきた。


 「あ、長くなると思うから好きに見ていていいぞ?」


 2人に一応声をかける。

 興味のない話を永遠されてもつまらないだろうと思ったのだが。


 「え、私、気になる! 見たい!」


 ファセールが無邪気に笑ってついてきた。


 「フェリスくんが行くなら私も一緒に行かせてください!」

 

 シオンさんは両手を祈るように組み、懇願するような口調でついてきた。


 「そうか? なら良いけど。 飽きたら好きに見てて良いからな?」


 「うん!」

 「はい!」


 そして、3人で奥の部屋に入り、ソファーに腰かけた。

 真ん中に俺、右にシオンさん、左にファセールだ。

 対面に座り、俺からネームを受け取るメンテさん。


 「あ、そうだ、まずはこれを渡しておく」


 メンテさんが俺に木製の板を渡してきた。


 「これは?」


 「『作家証』だ。 先月届いていたのでな、次に来た時に渡そうと思っていた」


 あぁ、出来たのか。

 俺は『冒険者証』と書いてある内容がほとんど同じである『作家証』を見る。


 なんだか、免許証が増えたみたいで嬉しい。


 「では、読ませていただく」

 

 俺が『作家証』に見入っていたら、唐突に渡していたネームを静かに読み始めた。


 緊張する・・・。

 

 一応彼には最初の時点で漫画が出来るまでの流れと用語の意味を伝えている。


 「・・・」

 

 口元に手をやり、考え込む。

 かと思ったらくすりと笑う。

 

 これは高感触なのでは?

 

 いや、でも、くそぉ・・・。 久しぶりに緊張で心臓がきゅっとする。


 しばらくして、読み終えたメンテさんが口を開いた。


 「ふむ、やはり漫画は面白いな」


 お?


 「だが、あくまで初めて読むから衝撃的なのであって、話自体に深みはない」


 ぐさっ!

 前回も言われた・・・。


 「君の書きたいものはなんだ?」


 「・・・俺の書きたいもの?」


 俺は考え込む。

 漠然と漫画を描く事しか頭になかった。


 俺はどんな漫画を描きたいのだろうか・・・。


 考えてみて、考えたことも無かったと思った。


 「すみません、考えたことも無かったです」


 「そうか、ではもう一度考えてみると良い。 このネームも決して悪い物ではないんだ。 ただ、吸い込まれるようなものが無い。 頑張ってくれ。 世に出す作品だ。 せっかくなら良い物を考えよう。 まずはじっくり漫画で伝えたいことを考えてみると良い」


 「はい!」


 しっかりフォローまで入れてくれる。

 良い人だ。 もう一度しっかり考えてみよう。


 「ねぇ、私も読んでみたい」


 隣でファセールが興味津々と言った様子で行ってきた。

 物語が好きな少女だ。

 気になるのだろう。

 少し気恥しいが。


 「いいよ」


 俺はファセールにネームを貸す。

 ファセールはしばらく読んで顔を上げる。


 「すごいね・・・。 本って書けるんだ」


 目が輝いていた。


 「私も本を書いてみたい」


 「え?」

 「そうか!!」


 俺達の会話にメンテさんが割り込んできた。


 「では我がギルドに加入したまえ!! ブランコ姫よ!」


 ブランコ姫って。

 そうだ、ファセールは姫だった。


 「え? でも」

 「ぜひ!!」


 ファセールが引いていた。

 俺が割り込む。


 「無理強いは駄目ですよ。 ファセールに近づかないでください」


 「・・・。 くっ・・・はっはっはっ! まるで騎士様だなフェリス君! ブランコ姫! 良い騎士様をお連れで!」


 俺の立ち振る舞いに大笑いするメンテさん。


 「あ、ありがとう」


 後ろでちょっと照れているファセール。

 やめろ照れるな、こっちまで恥ずかしくなる。


 「あ、あの、そろそろ」


 シオンさんが申し訳なさそうに会話に割り込んだ。


 「おう、すまん! ブランコ姫、考えてみてくれ!」

 

 そう言ってメンテさんは引き下がり、扉を開けてくれた。

 

 「じゃ、次のネームも期待しているぞ! この後はどうするんだ?」

 

 俺達3人は促されるまま、本を売っている大部屋に戻る。


 「シオンさんの『召喚魔術』に関する本を探そうかと」

 

 「・・・『召喚魔術』。 そうか、あんただったのか。 インディゴ嬢」


 『召喚魔術』の名前を聞いた途端、露骨に態度が変わるメンテさん。

 

 「・・・すみません。 隠しているつもりは無かったのですが」

 

 「あぁ、別に構わない。 『召喚魔術』に関わる本ならいくつか心当たりがある。 探してくるからそこで待ってろ」


 シオンさんにそれだけ言ってまた奥に消えて行った。


 「知り合いだったんですか?」


 「あっ、た、多分知り合いではありません! 向こうが、わ、私の事を知っているだけだと思います!」


 「そうなんですか?」


 「はい!」


 〇


 しばらくしてメンテさんが何冊かの本を持ってきた。

 

 『魔術について 著者:マヒア・グリモリオ』

 

 『召喚魔術 著者:インディゴ』


 『勇者伝説 著者:パラーグラフォ・ブランコ』


 『迷宮探索 著者:ラベリント・インテリオール』


 「これくらいだな。 『召喚魔術』に関係がありそうなのは」

 

 「おぉ、こんなに・・・」

 

 俺は感心する。

 もっと難航すると思っていたからだ。


 「えとえと・・・。 『魔術について』と『迷宮探索』。 この二冊は持ってません・・・。 よし。 か、買います!」


 シオンさんが置かれた本をパララッと流し見しながら思い切った。

 本は高いぞ?

 

 「え!? 大丈夫ですか!?」


 「はい! お給料を使う事も無かったので、こういう時に使います! この出費は『贖罪』の為の必要経費です! それに、フェリスくんが協力してくれているんです! これくらい余裕です!」


 ふんすと鼻息荒く言いながら懐から財布を取り出した。


 「・・・まいどあり」


 メンテさんは嫌そうな顔をしながらお金を受け取った。

 

 何でそんな顔をするんだ?


 と、疑問には思ったが聞くタイミングが無かったので聞くことは出来なかった。

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