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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『鬱屈の藍色編』
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『お出かけ』

 シオンさんが休養を取ってから1週間が経った。

 仕事の合間に様子を見に行くと、嬉しそうにしてくれてはいるが、やはり元気はない。


 3日前に大雪が降り、『ディナステーア』には雪が積もっていた。 今日から12月。 すっかり冬である。


 『城下街』『ディナステーア』。

 『南区』『商業街』『北部』『中央広場』。

 『ハッピーセレクター』。


 俺は、綺麗に雪がかかれた道を歩き、前世で言う所の大型複合施設。 いわゆるデパートに来ていた。


 ちなみに、雪は『自警団』や『騎士団』の『警備隊』や『雑務隊』。 手の空いている『冒険者』がかいている。 俺たち『ミエンブロ』も仕事として一緒にかいたりもする。 よい体力づくりと筋トレになるため、俺は率先して参加している。 サティスは雪が好きらしく、雪に触れることが出来ると喜んで参加していた。 コルザだけは寒さに弱く、文句をぶつぶつ言いながら、ボカに言われたからと仕方なさそうにかいている。


 さて、俺が今回ここに来た理由だが。 それは、とうとう完成した『漫画』のネームを『作家ギルド』支部長であり、俺の担当となってくれた『グラディトゥ・メンテ』さんに見せるためだった。


 「今日は誘ってくれてありがとう!」


 俺の隣で花の咲くような美しい笑顔で笑う白い少女。

 太陽を反射し、綺麗に輝いている雪をバックに笑うその姿はまさに絵画。 俺の推しはどこまでも美しく尊い。 今日もシニヨンで纏めても腰まで落ちるポニーテールが美しい。

 『ファセール・ブランコ』。

 いつぞや、『作家ギルド』に入りたそうにしていた彼女も誘って一緒に来たのだ。


 「私、2人が『作家ギルド』にいる間、適当に見て回ってるわ!」


 そのファセールの隣で、腕を組まれながらニコニコしている可愛い『深紅』の少女、『サティス・グラナーテ』が俺とファセールに気にしないでゆっくりしてきなさいと暗に伝えていた。

 今日も、長さを肩下までで切りそろえている『深紅』の髪が美しい。


 そして、サティスとファセールとは別にもうひとり呼んでいた。


 「さ、寒いですぅ!」


 サティスとは逆の位置に肩を抱いてがたがた震えているのはシオンさんだった。

 最初、サティスを見て見るからに嫌そうな顔をした時は流石に一言言いたくなったが、彼女に余裕はない。 ここで言いすぎてしまうと元に戻れなくなるかもしれない。

 とうのサティスは慣れた様子で、特に気にしていなかった。 それはそれでどうかと思うが。


 ・・・うん。 やっぱりシオンさんが元気になったらひとこと言ってやろう。


 シオンさんは、サティスの近くには行きたがらないらしく、一番遠い位置を取っていた。


 「それじゃ! 終わったら探して! 探し始めたらこっちから行くから!」


 それだけ言い残してサティスは足早に中に入っていた。


 「ど、どういうことですか?」


 シオンさんがファセールを抱きしめた後去っていったサティスを、寒さで震えながら目で追いかけつつ首を傾げた。


 「サティスには『野生の勘』ってやつがあるんです。 俺たちが探し始めたらなんとなくわかるんじゃないですかね?」


 「あ、そういえば『ロホ』の血が混ざってるんでしたね」


 忌み嫌うような顔。

 う~ん。 この。

 あまりサティスの話題は出さない方がいいな。

 俺が不快になる。


 「さ、俺達も行きましょう! ファセール! はぐれないようにな!」


 「はーい! ふふっ。 ちゃんと守ってね?」

 

 ちょっといたずらな笑みを浮かべるファセール。

 う~ん。 良きかな。

 すっかり打ち解けた彼女はこういった、冗談を言うようになった。 加えて年相応の可愛らしい笑顔で言うものだから、心臓に悪い。

 推しに癒され、もやっとしたものを浄化してもらえた俺は意気揚々と『ハッピーセレクター』の中に入る。


 「・・・」


 笑顔のファセールと、無言のまま俺とファセールについてくるシオンさん。

 2人と共に『作家ギルド』へ向かった。

 

 〇

 

 『作家ギルド』のある6階までは徒歩となる。

 なかなかの距離を歩き、階段を上る事になるが。


 「ぜー・・・ハー・・・」


 「はぁ、はぁ」


 現在、3階と2階の間の踊り場。

 白と藍色が息を切らして膝をがくがく震わせていた。


 体力なさすぎるだろ・・・。


 「そんなに体力なかったか?」


 俺はファセールに問う。


 「な、無いよぉ・・・。 はぁはぁ・・・。 こ、これでも私は箱入りお姫様だよぉ・・・」


 いや、それは知ってるんだが・・・。

 あ、そういや、ここにサティスと3人で来たときも疲れて寝ていたな。

 

 「そ、そうだったな。 すまん。 それからシオンさんも、ちょっと体力なさすぎないですか?」


 ファセールの隣で、肩で息をしている女性に問う。


 「ご、ごめんなさいぃ・・・。 わ、私、暫く研究室にこもりきりでぇ・・・」


 必死に言葉を紡ぐ姿にいたたまれない気持ちになる。


 「・・・一緒に体力つけましょうか」


 「ご、ごめんなさいぃ・・・。 ぜー・・・はー・・・」


 辛そうな2人を見かねて、3階のベンチで休むことにした。

 

 2人が並んで腰かけ、必死に息を整えている。

 正直俺はこの体を鍛え続けている。

 今のはただ歩いていたのと変わらないのである。

 こんなの運動のうちに入らない。


 疲れている2人の為に飲み物でも買おうか? 幸いここは3階。 食品や趣向品のフロアだ。 探せば何かあるだろ。

 と、3階を見渡そうとしたとき。


 「あの、シオンさんは・・・どうしてサティスを嫌っているんですか?」


 息が整ったファセールが唐突にそう、疑問を口にした。


 「ふえぇ!? あ、そそそ、そうですね・・・。 不快でしたよね・・・。 すみません」


 シオンさんはファセール相手のため、緊張しながら謝っていた。


 「え? どうして謝るんですか? 私は理由を聞いただけですよ?」


 「あ、あ、あうぅ」


 許容量オーバーである。

 これは困った。

 シオンさんを『作家ギルド』に連れてきたのには理由がある。

 それは、彼女の『召喚魔術』が上手く出来ない原因開明の為で、それに役に立つ本でもあればいいと思ったのだ。


 しかし、この現状。


 おとなしくあの部屋で待っていてもらった方が良かっただろうか・・・。

 外の空気を吸えば少しは気分が変わると思ったのだが、失敗したかもしれない。


 「えとえと・・・」


 ファセールの視線に耐え切れなくなったのか、口を開くシオンさん。


 「わ、私は『神樹教』を信教しています。 『神樹教』の『聖書』の中には『元始の九人』についての話があります」


 ほう、興味深いな・・・。

 どうやらこの世界にも『聖書』なるものがあるらしい。


 この世界で唯一の宗教『神樹教』。

 この世界での母親であった『ブリランテ・エレヒール』はその教えがあまり好きでは無かったらしく、無信教であった。 と、いうか、今思い返すとこの世界での故郷『プランター村』の人たちは皆無信教だったと思う。


 今考えると不思議な村だったな・・・。


 『行き場のないかわいそうな糞どもの溜まり場だったんだから!』


 あの『レべリオン革命未遂』と言われた半年前の件で、ウラカーンが俺たちに言った言葉が思い返される。


 優しい故郷の村を馬鹿にした言葉だ。 今でも腹が立つ。

 だが、行き場のない人が集まっていたのも事実。


 みんなそれぞれの事情があったんだろうか・・・。


 今となっては全部なくなってしまったが。

 ま、それは良い。 今、気になっているのは『聖書』だ。

 俺はシオンさんの話に耳を傾ける。


 「それはどんなお話?」


 ファセールが興味深々と言った感じに聞く。

 彼女はどうやら物語が好きらしく、部屋で過ごしている時間はだいたい小説を読んでいる。

 『作家ギルド』に行きたがったのもこれが理由だろう。


 「そ、そうですね。 この世界の創世の話です。 『神樹』がこの世界を作った時の大切な話」


 シオンさんは正面を向いて、遠くを見つめながら話を続ける。


 「そうですね。 少しだけお話してもいいですか?」


 「はい! ぜひ教えてください!」


 ファセールの無邪気な笑顔に頷いたシオンさんはゆっくりと話し始めた。


 「その話は『第一節 元始』の題で始まります」

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