『反逆』
フェリスの援護を受けながら、なんとか部屋に入る事ができた。
後ろ。 部屋の扉が閉まる。
戦闘音が聞こえ始めた。
フェリスとサティスが戦っているんだ。 早くみんなを助けて2人の元に戻らないと。
「ま、そう上手くはいかねぇよな?」
俺はため息混じりに言いながら、背負っているコルザから貰った長剣の柄を掴む。
「おぉ、ガキ。 結局逃げやがったな? 頭の悪いガキだぜ。 黙ってれば幸せになれたものを!」
あの大柄な男。
彼の奥には2つの鉄格子。
右。 目隠しされたアーラ。 顔を真っ赤に腫れさせているハール。
左。 手足を縛られ、意識のない妹。
そこまでの間に山のような大男。
右手に巨大なこん棒。
ダークブラウンの無造作な短髪を見るに『人族』。
「うるせぇ! それの答えは言ったはずだぜ!? そこに『自由』が無ぇってな!」
俺は叫びながら駆けだす。
先手必勝。
まずはハールとアーラを助ける。
ふたりが居ればこいつに勝てる。
大男に向けて剣を抜く。
「『抜剣術』『煌』!!」
松明の明かりを刃に反射させて輝かせる。
目眩ましを兼ねた抜剣。 長剣を一気に大男の足に振る。
「あまい!!」
言いながら、大男はこん棒を俺の剣筋の先。 攻撃を防ぐように地面に突き刺すように振り下ろす。
壁のように立てられたこん棒によって弾かれる長剣。
攻撃の反動で長剣が反対に弾かれ、体勢が崩れてよろめく。
大男はその隙を見逃さない。
「ふんっ!」
腹に大男の蹴りがめり込んだ。
「がぁっ!!」
口から血を吹き出す。 めり込んだ蹴りは、俺をそのまま吹き飛ばす。 飛んでいく先は硬い鉄格子。
ガツンッと後頭部をぶつける。
目の前が眩んで倒れ込む。
後ろは牢屋。
好都合ではあるが、ダメージがデカすぎた。
「ぐぅっ」
呻き、血を口から吐き捨てつつ立ち上がろうとする。
「その声! ティンか!?」
そんな俺に、アーラから声がかかった。
「あぁ、助けに来た!」
体制を何とか立て直し、長剣を突き刺しながら立ち上がる。
くそ、痛い。
腹の中で骨が折れているのか、息をする度に激痛が走る。
「無茶だ! 相手は『人族』とはいえ、大人だ! 同じ子どもの『ミエンブロ』とはわけが違う! ひとりで来るなんてどうかしてる!」
そうだ。
訳が違うんだ。
相手は大人だ。
そう。
「アーラ。 あいつは『ただの大人』だ」
アーラ。 良く考えてみろ。
ただの大人とミエンブロ。
どっちが強い。
ハッとするアーラ。
そうだ。
「『ミエンブロ』の方が強い!」
「そうだ・・・。 そうだった。 『ミエンブロ』の方がずっと強かった。」
「アーラ、ハールは生きてるか」
「おー・・・。 生きてるよ」
俺の声が聞こえていたのだろう、ハールの声も聞こえた。
良かった、ふたりとも生きているらしい。
「だいたいな。 俺はひとりじゃねえぞ」
後ろのふたりに声をかける。
「ふたりとも戦えるか?」
俺の言いたいことが伝わったのだろう。
嬉しそうな顔になっていた。
あぁ。 そうだ。
俺はひとりじゃない。
お前らがいる。
「「もちろん!」」
「3人で倒すぞ! 『抜剣術』『伊吹』!」
俺は横なぎに抜剣し、勢いと共に格子をぶった切った。
勢いのあまり、爆風が吹く。
「むっ。 鉄格子をぶったぎるとはな。 力が思ったよりあるらしい」
大男は、こん棒を左手に持ち換えた。
右手はかすかに震えている。
先ほどの俺の『煌』を受け止めた際に痺れたのだろう。 そうだ。 俺の『煌』は、普通受け止めたら痺れるくらいの威力はあるはずなのだ。
やっぱり、『ミエンブロ』の方が強い。
あいつは、『ミエンブロ』の足元にすら及ばない。
先ほどの『伊吹』による爆風で土埃が舞う。 それは、俺たちの姿を隠す。
「『転位』!」
アーラの『魔術』使用。 これにより、ふたりの手枷と足枷がとれ、アーラの目隠しもどこかに行く。 自由になった2人が立ち上がって俺の両隣にたった。
「剣が1本だ。 ハール、アーラ。 訓練の時と同じ。 剣が1本状態の連携で行くぞ」
「おー、久しぶりー。 りょーかい!」
「俺が大変なんだよなぁ。 でも、ま。 分かったよ」
ハールとアーラが了承する。
3人並ぶ。
俺達は弱い。
だから3人で力を合わせてきた。
3人なら、あんな『ただの大人』怖くない!
もう一度『伊吹』を使用する。
爆風が土埃を飛ばす。
大男の姿が露わになる。
「だるいな・・・。 子供は黙って大人のいう事を聞いてろ!」
「うるせぇって何回言わせんだ! そこに『自由』は無ぇ! これは言わば、俺たちから『自由』を奪っていく、お前らみたいな身勝手な『大人』への『反逆』だ!」
3人構える。
ふたりに声をかける。
「行くぞ『レべリオン』! 反逆の時だ!!!」
「「おう!!」」
「アーラ! ついてこい!」
「了解!」
俺は隣のアーラと共に駆け出す。
途中で左右に別れ、両方向から大男に迫る。
背の長剣を、体を回転させながら一気に抜き、自由に切り込む。
「『抜剣術』『柳苑』!」
自分でも突発的に思った所に切り込むため、剣筋を読ませない。
この一撃で、いまだ痺れている右腕を跳ねてやる!
「ぬん!」
大男は、防げないと見るや右手で俺の剣を受けた。
肉を切り裂く感覚。 しかし、途中で骨に止められてしまう。 結果として切断までには至らなかった。
「くそ! 本当に『人族』か!?」
俺は大男の頑丈さに悪態をつきながら剣を引き抜こうとする。 しかし、大男の筋肉が収縮された事によって剣が固定され、引き抜けなかった。
「マジかよ!?」
予想外の動きに動きが止まる。 その隙に、大男の左手に握られたこん棒が迫り来る。
「アーラ!」
ハーラが、アーラの名前を叫びながら俺とこん棒の間に割り込む。
「任せろ!『転位』!」
後ろで控えていたアーラの『魔術』発動。 大男の右腕に刺さった剣が突然消えて、ハールの手に渡った。
何回も練習していたのだ。 アーラの目が見えていなくても関係ない。
大男の傷から血が吹き出す。
「ぬぅ!?」
一瞬、顔をしかめたが、大男の攻撃は止んでいない。
こん棒はハールに真っ直ぐ向かっていく。
「『大剣術』『吸収障壁』!」
アーラは剣でこん棒を捕らえ、体を回転させつついなし、真下へと軌道をずらす。
ガンッと大きな音がし、こん棒が地面に叩きつけられた。 衝撃でひびが入る。
「もう一撃! 『分断障壁』!」
ハーラは叫びながら、本来は向かって来た物を叩き斬って無力化するその技を、こん棒に剣を叩きつけるという応用で放つ。
バキャッと音をたてて砕け散った。
それを確認した、長髪のハーラはにやっと笑う。
「なぁ!? くそっ!!」
大男が使い物にならなくなったこん棒から手を離し、今度はその左手をきつく握り、殴り掛かってきた。
俺たちの想像以上の強さに焦っているのだろう、隙だらけだ。
「『基本魔術』『火』 『火球』! 『転位』!」
アーラはその隙を見逃さない。 大男の左腕に火の玉が『転位』で現れ、燃やした。
「んがぁあああああ!!」
「くっ。 頭を外した!」
アーラが舌打ちをしながら悔しそうに叫ぶが、問題ない。 大男はあまりの熱さに悲鳴を上げて狼狽えているのだから。
「決めるぞ! 剣を貸せ!」
「オッケー!」
「間隔、短いって! くそ! はぁはぁ・・・『転位』!」
ハールが剣を投げる。
アーラが息を切らしながら俺のいつもの位置にある鞘に剣を納める。
放つは今の俺の全力の一撃!
踏み込み、肉薄。
「『抜剣術』『無限永華』!!」
息が続く限りの連続斬り。 剣が通った後は華を形作る。
「あぁああああああ!!!」
「ぬがぁあああああ!!???」
大声を上げながら、気合いで何度も大男の身体に花を描く。
そして。
「らぁあ!!」
最後の一撃。
切り上げ。
振り抜いて大男を後ろにする。
瞬間。 飛び出す鮮血が花弁のように舞った。
後ろで膝をついて倒れ込む大男。
俺達は大男に勝った。
そう。 勝ったんだ。
両隣に仲間が来た。
「しゃあ!」
ハールが俺の背中を叩いた。
「俺達の勝利だ!」
アーラも鼻血を拭きながら肩を叩いた。
「はっ! 『レべリオン』の相手じゃねぇぜ!」
俺も嬉しい。
っと、喜んでいる場合じゃない。
俺は気を取り直して妹の元に向かった。
格子を壊して妹を背負い、来た道を戻る。
「フェリス! サティス! 全員助けた! 今助太刀・・・する・・・」
元の部屋に戻った。
部屋に繋がる扉を開けると、『天族』と互角に戦っているふたりが居た。
戦いの次元が違った。