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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『反逆編』
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コルザ 6

 僕は意識を取り戻した。


 あれ・・・。

 僕はどうしたんだ?

 いま、どうなっている?


 体が動かない。

 手足は岩で拘束され、壁にはりつけにされていた。

 

 どうしてこんなことに?


 目の前にはフードを深くかぶった青年。


 あぁ。

 思い出した。


 

 僕は、負けたんだ。



 倒せるはずだった。

 殺す気だったのだ。

 殺す気で、本気でぶつかった。

 

 腹がやけどで痛む。


 手足が岩に捕まって動かせない。


 全身が切り傷だらけで出血が止まらない。


 そして、また炎が乗った拳を腹に受けた。


 「うぐぅっ」


 口から血が出る。

 息がしづらい。


 どうしてこうなった?


 思い出すのはこの状態になるまでの『魔族』との戦闘。


 『剣舞術』で負けた。

 あの『魔族』が使う『強化魔術』は、『俊敏性』を上げるものだった。

 『転移』よりも素早い『剣舞術』。 その速度は『型』の威力を底上げしていて、その威力はサティスの瞬間的な火力に匹敵していた。

 僕が『剣舞術』で勝てないのは母さんと父さん。 そしてサティスだけだと思っていた。

 なのに。


 僕は負けた。


 悔しいけれど、他の『舞術』だって使った。


 でも。

 勝てなかった。


 あまりの速度に追い付けなかった。


 僕ひとりで十分だと思っていた。

 それは間違いだった。



 僕は、生まれて初めて実力で負けたんだ。



 僕を殴った拍子に揺れるフード。

 中がちらりと見える。

 

 額に角。

 中性的な相貌。

 『灰色』の髪。

 

 紛れもない『魔族』。


 「やめ・・・がっ!?」


 じゅぅうっ

 と、音を立てながら腹が再び焼かれる。

 

 熱い。

 痛い。


 朦朧とする意識の中で敵を睨む。


 敵は『魔族』。

 殺しに躊躇は無い。

 多分、このままいけば僕は死ぬだろう。

 

 僕は全力だった。

 それで負けたのだ。

 悔しい。


 目を閉じる。

 思い浮かぶのは家族の顔。

 いつの間にかサティスとフェリスがその中に居た。


 フェリスがティンを殴り飛ばしたとき、正直嬉しかったんだ。


 ちゃんと、僕たちが彼の大事な物になる事が出来ているような気がしたから。


 彼は『転移者』だ。 どこか、人を遠い視点から見ていることが多い。 身内以外に対しては冷たい態度をとることもある。 だけど、あの時、怒ってくれたのは僕たちをちゃんと家族として思ってくれていたと言うことなのだろう。


 それが、嬉しかったんだ。


 それから、サティスが諦めないで向かってきてくれるのも嬉しかった。

 

 小さなころから、何度も僕に挑んで来たサティス。

 何回泣かしたかは覚えていない。

 それでも向かってきた。

 それがたまらなく嬉しかった。

 人付き合いが苦手な僕を。 好きだと言ってくれた。 僕みたいな人付き合いがうまく出来ない奴に、優しく接してくれる彼女と一緒に成長できる時間は僕にとってかけがえのない物だった。

 サティスと一緒に成長できるのが嬉しかったんだ。



 幼いころ。 2人は僕を『無敵』だと無邪気に信じ込んでいた。



 だから、僕は『無敵』であろうと努力した。

 『無敵』でなくなったら2人は僕を見ようとしなくなると思ったから。

 必死で努力した。


 力をつけた今でさえ、僕の事を超えるべき『壁』として見てくれている。



 僕があの2人にとっての『壁』としていられていることが嬉しかった。



 そう、嬉しかったんだ。

 僕を無邪気に『無敵』と信じて戦いを挑んできて。 何度も負けて、それでも勝とうとてくれる2人の存在が。

 僕を1人にしてくれない2人の存在が。

 2人の夢を叶える手伝いが出来ている事が。



 嬉しかったんだ。



 だから僕は、2人にとっての『壁』でいたい。



 最後に浮かぶのは父の背中。


 父さん。 僕はね。 父さんに憧れてるんだ。

 僕たちの為に頑張っている父さんの背中は格好良いんだ。

 みんなから『英雄』って呼ばれるくらいになった父さんが格好良い。


 僕もなりたいよ。


 父さんみたいに、どんな状態でも逃げず。

 傷つきながらも立ち上がって。

 

 大切な物を全部守れる『英雄』に。



 うん。

 僕の思いを叶えるためにしてはならないことがあった。



 それは、『負け』を認める事。



 歯を食いしばる。

 血が腹から溢れて溢れるが構わない。


 目の前の『魔族』を睨みつける。


 「・・・まだ、落ちませんか」


 再度、腕を引く『魔族』。

 右手に『基本魔術』の『火』を『付与』させる。


 「はやく楽になってください」


 何度目かわからない。 『魔族』の拳が僕の腹に向かってきた。


 「『亜空間掌握』」


 腹の前に『亜空間』への穴を開ける。



 僕は、『2人』にとっての『無敵』でありたい。



 『亜空間』への穴に敵の腕が入り込んで来る。 だから、そのまま弾き飛ばす。

 不意打ちに『魔族』が後ろに後退して飛んでいく。



 僕は、『英雄』になりたい。



 『魔族』が体制を立て直してこちらに再度向かってくる。


 「『強化魔術』『俊敏性』」


 移動速度は、『転移』以上。


 「『剣舞術』『クラコヴィアク』」


 放つ技は『剣舞術』。


 僕は手足を拘束している岩を『亜空間掌握』で作った穴で弾き飛ばす。

 自由になりよろめくが倒れるわけにはいかない。


 「たとえ・・・。 相手がどれだけ強かろうと。 僕は負けを認めるわけにはいかないんだ」

 

 迫る切っ先。

 目の前の空間に上向きの穴を空ける。


 「『射出』」


 中から僕の切り札が飛び出る。

 その柄は射出された勢いそのままに『魔族』の顎を捕らえた。

 突然の衝撃に技を止め、後ずさる『魔族』。



 その切り札の名は『刀』。



 世界で一番強い剣術『抜刀術』。

 父さんからもらった、大切な剣。



 「まだ、『無敵』でいたい」



 刀を左手で掴む。



 「『英雄』になりたい」



 腰を低くして構える。



 「だから」



 敵を睨み付ける。




 「負けられない!」




 僕は敵に向かう。



 「親友が夢を叶える為なら僕は『無敵』で居続けるし、『英雄』になるためにはこんな所で負けている場合じゃない!」



 痛む体で無理を通す。


 「『亜空間掌握』」


 刀の鞘の中に穴を多重に展開する。

 僕の力じゃまだ父さんに追いつけない。

 だから、『魔術』を使う。

 右手に持てる全ての力を込めて柄を握りしめる。

 全力で駄目なら死力を尽くす。

 敵はまだ、僕の反撃に追いついていない。

 放つのは、10歳の誕生日から練習を続けて、やっと唯一会得した抜刀術。

 決めるなら。


 今!!



 「『抜刀術』『紅雨』!!」



 鞘に付与された、何重もの『亜空間』への穴からの連続射出で速度が数倍になった抜刀。

 右腕が持っていかれそうになる。

 掌の皮が剥けて出血する。

 それでも離さない。

 一瞬の斬撃。

 それは見事に敵の首を捕らえる。



 「がっ!?」



 首が飛び、紅の花が咲いた。



 「■■■■■■!」



 幼女の叫び声。

 僕はその場に膝をつく。

 幼女が急いで首を拾い、まっすぐに体へ向かう。

 そして、あろうことかくっつけ始めた。

 突然の事に気が動転しているのか?


 「・・・何をしてるんだい?」


 痛む腹を押さえつつ、吐血もしながらなんとか言葉を紡ぐ。

 僕の声に気づいたのだろう睨まれた。


 「『治療魔術』『結合』」


 そのまま『魔術』の名を呟く幼女。

 見る見るうちに鼻血、嘔吐、髪の色が抜けていくという、『魔素』の枯渇状態になっていく幼女。


 「やめないか! 死んでしまうぞ!」


 必死に手を伸ばすが止まらない。

 その時だった。


 ズズゥンッと大きな音がした。

 一瞬の間。

 そして。


 「うわぁっ!?」



 床が爆発した。



 飛び上がる体。

 空中に投げ出される。


 なんだ?

 今度は何が起こったんだ!?


 なんとか体制を整えつつ下を見ると巨大な穴ができていた。 そこへ、元『区役所』の残骸が降り注いでいた。


 先ほどの『魔族』を探す。


 いた。


 宙を舞う残骸のひとつ。

 床だったであろう破片の上に、『魔族』が首がくっついた状態で、こちらを見ずに立っていた。


 揺れる灰色の長髪。

 『魔族』が抱えているのは髪から色が抜けた幼女。


 「・・・残念です。 今回は失敗でしたが。 まだ、手はあります」


 そう、最後に呟いた『魔族』は、宙を舞う他の残骸の陰になったと同時に消え去っていた。


 「くっ!」


 追いかけたいが無理だ。

 僕も、この状態をなんとかしなければ!


 『抜刀術』のせいで体力が持っていかれている。 『転移』は一度しか出来ないだろう。 それ以上は動けなくなる。

 『刀』だけは無くすわけにはいかないため、『亜空間』の穴に放り込む。


 ここから『転移』したところで、僕の残った体力では少し地面に近づくだけ。 落下死は免れない。

 と言うことはギリギリで『転移』してうまく着地するしかない。


 ・・・やれるか?

 いや、やるしかない。


 やらなきゃ死ぬ。


 「くっ! うわぁあああっ!」


 僕は、下へ下へと落ちていった。

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