『灰と緑』
僕は、『副隊長』が敵の注目を集めているうちに元『区役所』の中に入ることができた。
外ではまだ雷の音や、喧騒が響いている。
中は暗いが、月明かりと松明のお陰で視界には困らない。
なんとか、誰にも見つからずに一番上の階にたどり着く。
長い廊下の先に部屋があった。
そこに辿り着くと、床にはかすれた文字で『区長室』と書かれた札が床に落ちていた。
本来であれば『区長』が仕事をする部屋だったのだろう。
僕は耳をすませる。
この場にフェリスが居たのなら部屋の中の様子を見てもらえるのだが。
生憎と僕に『空間把握』の才は無い。 『魔素』を把握するので精一杯だ。
扉に耳を近づける。
話し声が聞こえた。
「おい・・・本当に『革命』が成功したら、俺の安全は保証されるんだろうな?」
男の不安そうな声。
「はい。 約束しましたから。 あなたがこの国の王になり、私の言うことを聞く限りは貴方に手出しはしません。 ここの『国民』達にも手出ししませんよ」
若い人の声も聞こえた。
男の声とも女の声ともとれるような声。
「『国民』の事なんかどうでも良いんだ。 俺が満足できればそれで良い」
・・・男の声は『レポルシオン』か。
「・・・ひどい人だ」
話している人はいったい誰なんだ?
「おまえ達にだけは言われたくないな。 目的のためなら結構なことをしているじゃないか」
「・・・仕方ないことです。 これは、間違った歴史を正す為の戦いなのですから」
「んふふっ! だからって普通考えるかね? 『人族』の国を乗っ取ろうなんて! なぁ!?」
『レポルシオン』は大声で外までしっかり聞こえる声で続ける。
「『魔族』様よ!?」
僕は戦慄した。
おいティン。 話が違うじゃないか?
なんで『魔族』がいるんだい!?
やるしかないのはわかっているけど、少し覚悟がいる。
ただの『魔族』なら、なんとかなるとは思うが。
殺さずに倒せるかと言われれば自信はない。
「しっ。 どうしましたか?」
突然『レポルシオン』を黙らせた『魔族』。
他の誰かに声をかけているのか?
「◼◼◼◼◼」
幼い女の子の声で紡がれるわからない言葉。
『魔語』か?
「・・・そうですか。 『レポルシオン』。 貴方は地下に逃げてください。 あそこに『ウラカーン』を置いたのは貴方ですよね?」
「あぁ。 ここに来てお前と会わないように何人か女をあてがってな」
「では、今すぐ地下に行って『ウラカーン』と一緒にいてください」
「なぜ? そもそも『革命』の指揮はどうする?」
「まず、『革命』の指揮は私の方でやりましょう。 そして、なぜに対する答えは至極簡単です」
足音が近づいてきた。
・・・バレたか?
くそ、やるしかない。
扉から体を離して剣を構える。
開いたと同時に『クラコヴィアク』で突き刺す。
「この先に侵入者がいるからです・・・よ!!」
バゴンッと大きな音を響かせながら扉が吹き飛んだ。
それはまっすぐに僕へと飛んでくる。
とっさに体を縦回転させる。
剣を扉に添わせていなす。
ガンッ!
と音を立てて天井に壁が突き刺さった。
ほこりが舞う。
月明かりが差し込む廊下。
その先に。
フードを被った女性のような青年が立っていた。
立ち姿。 背格好。 それらから青年であることはわかる。 しかし、女性の身体的特徴も兼ね備えていて正直微妙なところだった。
顔は、フードで隠れて見えない。
そんな『魔族』の後ろでふくよかな男が驚いた顔をしていた。
普段、父さんやフェリス。 『レベリオン』の面々を見ているせいか、とても不潔に見える。
おそらくあの男が『レポルシオン』だろう。
そして、もうひとり。
『レポルシオン』の隣で僕を見つめている幼い少女。
2歳かそこらだろう女の子。
少し長い耳から『長耳族』だとわかる。
髪色は『緑』。
どうして『長耳族』の子が『魔語』で話をしていたんだ?
「んふふっ! さすがだな! よし、では私は逃げるぞ!」
言いながら『レポルシオン』が駆け出した。
僕に向かってくる。
逃げるためにはこの一本道を通らなければならないのだから仕方ないとはいえ。
「許すと思うかい!?」
僕は『レポルシオン』を止めようと体に力を込めた。
「『クラコヴィアク』」
僕の技ではない。
『魔族』の放った技だった。
「な!?」
驚きの早さと威力。
相当な『練度』。
突然の事だったが、なんとか『アルマンド』で対応。
しかし、あまりにも重い一撃は、縦回転でいなしきることができず受け止めるにとどまる。
その隙に『レポルシオン』は僕の脇をすり抜けて逃げていってしまった。
「君はいったいなんなんだい!?」
「・・・私が何者か。 それは私にもわかりません」
剣と剣が交差し、つばぜり合いになる。
揺れるフード。
見える素顔。
『灰色』の長髪。
ひどく中性的で、どちらともとれる顔つき。
額には小さな角。
「引き継いだ名はありますが。 それは、私の名ではありません」
重い。
徐々に押し負け始める。
「私はいったい誰なんですか?」
「くっ! 知らないよ!」
僕は『魔族』の力を利用して遠くに離れる。
『亜空間』への穴を展開。
殺さずに倒すのは無理と判断。
やるしかない。
構え直す。
「ですが、やることはわかっています。 『レポルシオン』の『革命』を成功させ、『人族』の国を手中に納める」
「そうかい。 残念だね。 僕がそれをさせない」
「では、まずは貴女を倒します」
「やってみなよ」
にらみ合い。
必ず倒して『レポルシオン』を追う。