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努力畢生~人生に満足するため努力し、2人で『無敵』に至る~  作者: たちねこ
第二部 少年期 前編 『反逆編』
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『糞溜め』

 『東区』『北側』。

 

 コルザと別れた俺とサティスは、ティンの案内で『東区』の『北側』に来ていた。 

 『東区』の中は、すっかり戦場と化していて、『騎士』と『住人』が『東区』の至る所で戦闘を繰り広げていた。 と、言っても技量と装備の差から、『騎士』が圧倒して捕えている場面ばかりだったが。

 戦乱に紛れつつ『北側』にたどり着き、『レべリオン』が捕らわれていたと言う場所に来ていた。

 そこは、『刑務所』の裏にある、廃材だらけの林の奥。

 大きな穴が開いていた。 その穴をふさぐように鉄格子が置かれている。 と、言っても出入り口であろう場所は開いていたが。


 「おかしい!」

 

 ティンが開いた出入り口から牢屋の中に飛び込んだ。

 俺とサティスも続く。


 「いない! くそっ! どこに行った!?」


 下に降りると、結構な高さで驚いた。

 見上げると月あかりが穴の中を照らしてた。


 ティンはひどく慌てていた。

 『レべリオン』が居ないのだ。

 慌てるだろう。

 だが、このパターンは安易に予想はできた。

 同じところに捉えておく必要もないのだ。

 まぁ、助けに戻ってくる可能性はあるから、何かしら罠はあるかもしれないと思ってはいたが・・・。

 俺は努めて冷静に周囲を見渡す。

 何もない穴。

  

 特に罠とかはなさそうだが。


 「おい、あれはなんだ?」


 俺は気付いた物に近づく。

 壁に刻まれた文字だった。


 「・・・なんて書いてあるのかしら?」


 俺の右から覗き込んで首をかしげるサティス。


 「『ここに扉がある』?」


 左から文字が読めるらしいティンが覗き込んで読む。

 しっかり覚えているようで感心だ。

 

 「扉か・・・」

 

 俺は周囲を見渡す。

 壁しかない。

 万が一あっても、罠である可能性が高いだろう。 だが。


 「よし、『空間把握』『物質』」


 俺は瞳に『魔素』を集めて集中する。

 色が青で統一された世界に物の線だけが白く浮かびあがる。

 この1年で把握できるようになった『魔素』以外の物だ。

 ボカも『空間把握』は得意ではないらしく、『物質』はうまく把握できないのだという。

 まだまだ、かなりの集中力は必要だが、『視界』に映る物質の形がはっきりと認識できる。

 しかも、この『魔術』。

 一か所に集中すれば、向こう側まで『把握』できるのだ。 ラーファガ程ではないが『透視』に近いものが出来ると言うこと。

 それはつまり、便利どころの話ではない。 索敵、罠の事前察知など様々な支援が出来る。


 文字が書かれた土壁の前に立ち、前に視線を凝らす。

 視界の中、土壁の中に扉の線が浮かび、奥まで続いているのが見えた。

 今の力で見通せる範囲は大体50メートル前後だ。

 扉の先は直線のトンネルになっていて、50メートル先まで続いていた。

 俺は視界を元に戻す。


 「・・・ふぅ」


 少し乱れた息を整えてゆっくりと壁を押す。

 しかし。


 「うおっ!重い!」


 「手伝うわ!」


 サティスが隣に来て一緒に押す。

 『長耳族』でそれなりに鍛えているが、子どもの力。 開けるのに一苦労だ。

 ゆっくりと開き始める。

 2人で一生懸命力を込める。

 

 「おい、どけろ。 俺が押す」

 

 ティンが俺たちの間に割り込んで、ひとりで扉を押し始めた。

 んな無茶な。


 ズズッズズズー。


 と、音がしていとも簡単に壁が開けられた。


 ちからもちー・・・。


 男としてちょっと自信無くす。


 「力だけが取り柄だからな」


 むんっと力こぶを作るティン。

 良く鍛えられた筋肉が羨ましい。

 8歳とは思えない体だった。


 そんなに鍛えて、背が伸びなくても知らないんだからな!


 と、訳の分からない嫉妬を心の中でしつつ、礼を言って中に入った。

 後ろではサティスが『すごわね!』と言いながらティンの力こぶをつついていた。


 しばらく歩くと遠くで明かりが見えた。

 3人で走って進む。 松明が揺れる扉が現れた。


 「任せろ」


 ティンが扉を開ける。

 その先に居たのは。



 広い部屋の奥で、ソファに腰かけて座る。 あのベンタロンに似た青年だった。


 

 「なんで?」


 サティスが狼狽える。


 「あぁ? んだよ。 お前らも一緒かよ・・・」

 

 ソファに腰かけて項垂れる青年。

 両隣には美女。

 後ろから抱き着く美女。

 足元には3人の少女。

 合計6人の女を侍らせながら、眼鏡を直し、俺達をそのゴミでも見るかのような目で見る青年。


 「何しに来たよ? まさか、『義賊』に協力か? 王様直属の『雑務隊長様』の部下が? あぁあぁ、これはこれは! また罪を犯したなぁ『深紅の女』!?」

 

 人を馬鹿にしたように笑う。

 サティスへの罵倒もある。

 沸き上がる怒りを抑え、努めて冷静に。 一歩前に出て問う。

 

 「おい、ティンの仲間は何処だ?」

 

 こいつはベンタロンに似てはいるが、全く別人だ。

 落ち着け、俺。


 「あぁ? あっちの部屋で寝てるよ。 そこの奴の妹も一緒だ。 あいつは俺が開発してやる約束だからな・・・。 あぁ、楽しみだ」


 ほくそ笑む青年。 厭らしい笑みにティンがキレるのが分かった。

 俺も腸が煮えくり返りそうそうだった。

 ベンタロンに似た顔で、幼い少女をどうこうしようとしているのか?

 サティスも剣に手を掛けるのが分かった。



 「ティン! 部屋に急げ! こいつは俺とサティスがやる!」



 俺の大きな声にティンが驚いた顔をしたのが分かった。


 「お、おう!任せた!」


 戸惑いながら、俺の声で冷静さを取り戻したのだろう。 素直に俺の指示に従ってくれた。

 ありがとう、こいつはどうしても俺達が倒したい。

 サティスを見ると頷いていた。

 同じ気持ちなのだろう。

 ティンが部屋に向かう。


 「させると思うか?」


 青年が右手を部屋の扉の方に向ける。

 

 「『結界魔術』『簡易けっ・・・!?」


 

 「『転移』! させるかよ! 『転移切断』!」



 俺は青年の真上に『転移』し、腰の直剣を抜いて右手を切り飛ばそうと剣を振るった。

 しかし、青年は腕を振って躱し、惜しくも空振る。


 「てめぇ!」


 青年の怒声を聞きながら俺は、再度の『転移』でサティスの隣に移動する。

 その間に、周囲の女たちは悲鳴を上げながら、ティンが入っていった部屋とは逆方向の扉に逃げて行った。


 「ちっ! ガキどもが・・・」

 

 頭をガシガシかいて苛立ちを露わにする青年。

 青年が立ち上がり両手を広げた。


 「たっくよぉ! あぁ! 『罪深き深紅の少女』と『糞溜め村の青き少年』! 俺の邪魔をしたんだ! 生きて帰れると思うなよ!?」



 「あの村は『糞溜め』なんかじゃない!」



 俺は激怒する。


 あの優しい村を。

 あの優しい人々を。

 あの優しい思い出を。



 あいつは、侮辱したのだ。



 腹が立つ。


 「いや、糞だね! 行き場のないかわいそうな糞どもの溜まり場だったんだから! あいつも可愛そうなやつだった!」


 俺は身構える。

 あいつ?

 

 「お前たちも知っているだろう!? 『エスタシオナール』の名を! 彼は俺の息子だった! たった1人の愛してはならない人を愛してしまった愚かな息子は、その女と共に勘当してやった・・・」


 わざとらしく肩を落とす。

 右手で顔を覆う。

 

 「その相手は、腹違いの妹『プリマベラール』! 2人は家を出て、来るものを拒まないと言う村に向かった! そして、生まれた俺の孫『ベンタロン』共々、死にやがった!!」

 

 彼の肩が震える。

 あれは泣いているのではない。

 

 笑っているのだ。



 「アイツは妹しか女を知らず、孫は1人も女を知らずに死んだんだってな!? あぁあ!」



 何がおかしいんだ。

 引き笑いが不快だ。


 「・・・」


 突然笑いが止まった。



 「あぁ、可愛そうに」



 心底憐れむ様子の青年。



 「ふざけないで!!!」



 俺が口を開こうとしたその時、割って入ったのはサティスだった。


 「彼らはかわいそうなんかじゃない!!」


 抜かれる曲剣『グラナーテ』

 3回振って敵に付きつける。



 「幸せそうだった彼らを笑わないで!」



 俺も隣で剣を敵に付きつける。



 「俺たちの仲間を笑った事、後悔させてやる!」



 「あはははは! ただの罪人たちが仲良く友情ごっこかよ! 笑わせるな!」



 敵が両手を突きだす。


 「行くわよ、フェリス。 リフィ。 あいつを倒す!」

 

 「あぁ、必ず倒す!!」


 隣の曲剣の宝石も答えるように『柚子色』に輝いた。



 「倒す!? この俺を!? たかが『長耳族』のガキどもが!?」



 お前も『長耳族』だろと言おうとしたその時。

 敵に白い翼が生えた。

 正しくは服の中にしまっていたであろう翼が、服を突き破って現れた。

 同時、頭の上に空色の光輪が現れた。



 「我が名は『ウラカーン』。 罪人に罰を」



 「『天族』・・・?」



 俺とサティスは生唾を飲んだ。

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